心房細動の治療目標 @QOLの改善 リズムコントロール:発作の抑制 レートコントロール:心不全の予防 A合併症の予防 血栓 心機能低下 |
リズムコントロール: 薬剤→T群抗不整脈薬 または カテーテルアブレーション レートコントロール: 薬剤→βブロッカー・ワソラン・ジゴキシン |
心房細動は、 発作性→持続性→慢性 の経過をたどる 発作性の誘因は、肺静脈起始部の期外収縮 慢性では、構造的変化(左房拡大・繊維化)が起きる 発作性・60才未満では、リズムコントロールに重点をおく . 慢性・70才以上では、レートコントロールに重点をおく |
カテーテルアブレーションのトピック 三次元マッピングシステム イリゲーションカテーテル |
心房細動の抗血栓療法=心源性脳塞栓症の予防 ワルファリン と 新規抗血栓薬(プラザキサ)の登場 |
講習のポイント 1.肝硬変の予後は代償性に比し非代償性で極端にあっ化する。 2.肝硬変の基本病態は、肝細胞機能不全、門脈圧亢進、腎前性腎不全、hyperdynamic circulationである。 3.肝硬変の抗ウイルス療法(核酸アナログ、インターフェロンなど)が、発癌のリスク減少 のみならず繊維化を改善する可能性がある。 4.肝細胞癌の危険因子に応じて生活習慣の改善、サーベイランスの頻度の調節を行う。 |
キーワード 1.非代償性肝硬変 2.門脈圧亢進 3.HVPG 4.Hyperdynamic circulation 5.癌化の危険因子 |
1 .はじめに 我が国の肝細胞癌による死亡者数は年間約3万人で,悪性腫蕩のうち肺癌,胃癌に次いで第3位となっている。肝細胞癌は慢性肝疾患を発生母地とする場合がほとんどであり,その代表である肝硬変による死亡も死因全体の第10位である。従って,慢性肝炎から肝硬変への進展とその非代償化および肝細胞癌の発生は,我が国の健康および社会問題上重要な課題であり,各段階に応じた対策が求められている。 2 .肝硬変の予後と非代償性 肝硬変は,肝のぴまん性の線維化と再生結節を特徴とする病理学的な診断名であるが,その臨床症状・症候は無症状から昏睡まで極めて幅広く,予後も大きく異なる。D'Amicoによるシステマティックレビューによると,代償性肝硬変の生存期間の中央値は12年以上であるのに対し,非代償性では2年以下と大幅に低下している。また, 5年生存率は代償性肝硬変の75%に対し,非代償性肝硬変では25%と低下しており,経過中も代償性を維持した例と比較するとその差は更に大きくなっている。 また,死亡例のほとんどは,代償性肝硬変から非代償性肝硬変へと移行した後,肝不全で死亡するという経過をとると言われ,静脈瘤の出現,腹水の出現,静脈瘤出血と非代償化の段階を経るに従い,1年間の死亡率が急激に上昇する。そして,非代償性の最初の症候は腹水の出現のことが多いと言われる. この様な傾向は,我が国の多施設集計でも示されており,肝移植の時期を決定する根拠にもなっている。すなわち,肝不全死亡例のChild-Pughスコアの経緯をレトロスペクテイブに見ると,スコアは経過とともに緩やかに上昇し, 9点を超えた(すなわちクラスCに移行する) 辺りから急激な上昇に転じ, 6ヶ月後に死亡に至る。 以上のことから,肝硬変の診療においては,非代償性への移行の阻止が重要なポイントとなり,非代償化の機序とその予防法の理解が重要となる。 3. 非代償性肝硬変の基本的病態 1 )腹水の発生病態と非代償性肝硬変 非代償性肝硬変の最初の症候であることの多い腹水を例にとると,その病態生理は概ね図のようになっている。すなわち肝硬変に伴う門脈圧亢進(機序は後述)と肝細胞機能の低下およびこれによる末梢血管拡張物質の貯留が基本的病態である。肝硬変における腹水の起源は主に肝リンパ液の肝表面からの漏出と考えられている。リンパ管あるいは類洞からの血漿およびリンパ液の漏出は,門脈圧すなわち漏出圧が膠質浸透圧(主としてアルブミンによる)を上回ったために起こる(Starlingの末梢血管の法則)。従って,肝硬変における門脈圧の亢進と血清アルブミンの低下(肝細胞機能低下)は,腹水形成に対して少なくとも相加的に関与する.。一方,初期の軽度門脈圧充進に伴い,腸管における血管拡張作用物質産生が亢進し,しかも肝によるこれらの物質の代謝・排世機低下が加わり,末梢血管とりわけ内臓血管の拡張を引き起こす。これにより神経系, レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(ARRS)などを介した心拍出量および心拍数の増加が起こりhyperdynamic circulation が形成される。これと同時に,末梢血管の拡張は有効循環血漿量の低下を招き, RAASやバゾプレシンを介したNa,水の貯留が引き起こされる。このようにして腹腔内に肝リンパ液(腹水)の漏出がおこると,更なる有効循環血漿量の減少を招き,悪循環が形成される。 腹水の発生に関する上述の機序は,腹水に限らず,非代償性の肝硬変に共通して認められる病態であり,形成された悪循環は種々の合併症,非代償性症候の発現に繋がる。 2) 肝性腹水の性状 上述のように,門脈圧充進に伴う腹水は,アルブミンによる膠質浸透圧を門脈圧が凌駕する形で漏出するため,腹水と血清のアルブミン濃度に較差(SAAG) が生じ,一般にSAAG1.1 g/dl以上が門脈圧尤進性腹水の基準とされる。また正常な類洞は基底膜を欠く上に,内皮に無数の小孔を有するため,肝の類洞から漏出する組織間液(リンパ液)には相当量の蛋白が含まれているのが特徴である。 従って,類洞内皮が正常の状態で漏出する後類洞性門脈圧亢進性腹水(心不全や初期のBudd-Chiari症候群)では腹水中の蛋白濃度が通常2.5g/dl以上を示す。これに対して,肝硬変では,肝線維化が進行するため,デイッセ腔が消失し,内皮も小孔を閉鎖して,いわゆる毛細血管化が起こるため,形成されるリンパ液は通常の組織と同様に低い蛋白濃度を示し,腹水も2.5g/dl以下となる。 4. 肝硬変における門脈圧亢進の機序とその臨床的意義 1 )門脈圧充進の機序 肝の重量は体重の約2.0-2.5%の容積であるのに,受け取る血流は平均して心拍出量の約27%程度である. しかも,肝の血流は体位や食事により大きく変化するため,門脈は血管抵抗をダイナミックに変化させて圧を一定に保っている。すなわち正常肝は血流に対して大きなコンブライアンスを有している。しかし肝硬変では上述のように,門脈血流の増大があるにもかかわらず,肝血管のコンブライアンスが低下,肝血管抵抗の増大があるために門脈圧充進が進行する。 肝血管抵抗の増大の機序は,解剖学的および機能的要因の2つが上げられている. このうち肝の線維化と再生結節の形成などに伴う解剖学的機序が主体と考えられ,これに星細胞の活性化および収縮による機能的要因が加わって,相加的に圧が充進すると考えられている。 2) 門脈圧の測定とその臨床的意義 日常臨床での門脈圧の直接的な測定は困難であり,これに変わるものとして肝静脈圧較差(HVPG)が肝硬変の予後と極めて良く相関することが示されている。HVPGは肝静脈に挿入したカテーテル先端の圧センサーで肝静脈圧とバルーン閉塞したときの圧較差として測定する。HVPGの正常値は,1-5mmHgで, 6mmHg以上が門脈圧充進と診断される。しかし食道静脈瘤や腹水発現など臨床的に有意の症状を来しうるのは,10-12 mmHg以上と言われ,これを"Clinically significant portal hypertension (CSPH)" と呼んでいる。事実,HVPG 10 mmHg未満と10mmHg以上では,累積非代償化率が有意に異なることが示されている。また,既にHVPGが12mmHgを超えた肝硬変においては,治療によってHVPGを12mmHg 以下に減少させるか10%以上の低下を得ることにより,静脈瘤出血や非代償化の危険を有意に低下させうると報告されている。従って,肝硬変において,門脈圧(HVPG)のコントロールは,予後を改善する重要な治療目標と言える。 しかし. HVPGの測定は侵襲もあり,我が固においては必ずしも普及しているとは言えず,非侵襲的測定あるいは推測の手段の開発が待たれる。その目的で,超音波による肝の弾性度の測定が検討されている。HVPG 10mmHg あるいは 12mmHg にする弾性度の値は報告によりまちまちであるが,近年,C型肝硬変を対象とした検討でそれぞれ13.6 kPa. 17.6 kPaが提唱されている。 3) 門脈圧允進症に対する治療 肝硬変における門脈圧亢進の機序(上述)に応じた治療法を示す。肝硬変は病理学的,解剖学的に大きな変化を伴うため,肝血管抵抗の増大を標的とした治療に限らず,肝硬変の原因に対する治療が最も重要なことは言うまでもない。これには,抗ウイルス療法(ウイルス肝炎),アルコール中止(アルコール性),ステロイド(自己免疫性肝炎),潟血(ヘモクロマトーシス),銅キレート(Wilson病)などの効果が報告されている。また,肝硬変および門脈圧尤進の増悪因子として,肥満,アルコール摂取が報告されており,食事(カロリー,塩分制限を含む),運動,アルコール摂取などのライフスタイルの改善の意義が提唱されつつある。かつて,肝硬変は病理学的に不可逆の病態と言われていたが,原因治療により線維化も含めた病理学的所見の改善が見られることが報告されている。 門脈血流の増大に対する治療法としては,古くから非選択制のβ遮断薬であるプロプラノロールの有効性が示されている。これはアドレナリンのβ1受容体(心拍,心筋収縮)およびβ2受容体(末梢血管拡張)の両者に対する阻害作用が,肝硬変におけるhyperdynamic circulation を抑制する目的に合致しているためで,欧米を中心に広く使用され,有効性の評価も多数報告されている。 しかし,HVPGの目標達成率は必ずしも高くなく,低血圧,気管支喘息など禁忌症例も少なくない。 アンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)は,星細胞の活性化および収縮抑制作用により肝類洞血管抵抗と肝線維化を抑制すると言われる。中等度から高度の門脈圧亢進を有する患者のHVPGを losartan が45%程度低下させるという報告がなされた。その後のシステマティックレビューではChild A の症例で有効と評価されている。一方では,アンギオテンシンIIは腎糸球体の輸出細動脈の収縮作用が強いため,この抑制はGFRを低下させる可能性があることも指摘されている。 5 .肝細胞癌の危険因子と予防対策 わが国における肝細胞癌の約90%がウイルス性慢性肝障害を発生母地とし、そのうち最も多いC型肝硬変においては年約7%程度の率で発生することは周知の事実である。また、近年は非アルコール性脂肪性肝炎からの発癌の増加も指摘されている。これまで、肝硬変の成因,性,年齢,肥満など疫学的な観点からの危険因子が明らかにされている一方で,近年ではGWASにより,肝細胞癌の疾患感受性の高い SNP が報告されるなど,発癌予測がより精密に行われる可能性が生まれている。 さらに,発癌の分子機構に関わる遺伝子異常の研究から,炎症や肝細胞再生,酸化ストレスと発癌との関連が明らかにされつつあり,分子標的治療のみならず発癌予防の標的も示されつつある。 これまで肝細胞癌の発症率を抑制する事が示されている治療法は,B型慢性肝炎に対するインターフェロン療法や核酸アナログ製剤, C型肝炎に対するインターフェロン投与および著効(SVR),瀉血療法,肝硬変に対するインターフェロン少量長期投与,分岐鎖アミノ酸製剤,非環式レチノイド(二次予防)などである。 6 .肝細胞癌のサーベイランス 上述のように、肝細胞癌は危険群がほぼ特定されている極めて特殊な癌である事から、これを対象とした頻回のサーベイランスを可能にしている。すなわち、危険群を絞り込み、事前確率を高めた上で、繰り返し検査を行うことにより、癌の検出の精度を高めている。 肝細胞癌の腫蕩体積倍加時間 (DT) は報告により開きがあるが、平均で30-600日と報告されている。腫瘍を球体と仮定した場合、その直径の増大速度は、10mm を起点とした場合、体積2倍で12mm、4倍で16mm、8倍で20mm、16倍で26mm となる。従って、仮に 10mm で見逃したとすると、DTの4倍 (4期間) を経過すると 26mmに達していることになる。 DTが仮に90日 (3ヶ月) とすると、1年で局所療法の選択を変更せざるを得なくなる可能性もある。事実、B型肝硬変に対する 6ヶ月毎の超音波検査と AFPによるサーベイランスで、有意に死亡率を減少させたと報告されている。 日本肝臓学会の「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2009年版」による肝細胞癌診断アルゴリズムを示す。基本的には、超音波検査で結節の存在診断を行い、dynamic CT あるいはMRI で質的診断を行う。検査の間隔は、高危険群では6ヶ月、超高危険群では3-4ヶ月を推奨している。 |
講習のポイント 1.ischemic/reperfusion injuryの対策を知る。 2.種々の肝切離手技について習熟する。 3.新しい用語を習得する。 4.vascular control手技に習熟する。 |
キーワード 1.ischemic/reperfusion injury 2.Parenchymal transection 3.Liver volumetry 4.Pringle's maneuver 5.Pre-conditioning |
1 .はじめに 1886年Luisにより初めて肝切除が施行されたが、術直後出血で患者は死亡した。最初の肝切除成功例は1888年Langenbuchにより施行された症例であるが、やはり、出血で再手術されている。当初より肝切除術では出血のコントロールが大きな問題であったことがわかる。1908年Pringleにより肝十二指腸間膜遮断による出血コントロールが記載され、この手技は現在も多くの症例で採用され、出血コントロールに役立つている。最初の成功例以来124年が経過し、肝切除成績は飛躍的に改善したが、これは、肝解剖の理解、術前・中・後管理、肝切除手技、などの進歩により、術中出血量の低減、術後肝不全の減少、が得られたことに寄与するところが大きい。本セミナーでは、腹腔鏡下肝切除手技を除いた、肝切除全般に関わる最近の進歩について概説することにする。 2. Brisbane 2000 Nomenclature of Liver anatomy and Resections 2000年Brisbaneで開催された第4回国際肝胆膵外科学会においてLiver anatomyとResectionに関する新しい名称が提唱された。アメリカ、アジアを中心にして、2006年までの約80%の論文で使用されるようになった。このterminologyはさらに普及する傾向にあり、改めて使用を推奨したい。 3. Liver volumetry 肝切除術式は肝機能と予定切除肝容積を照らし合わせて選択される。したがって、肝容積測定は肝切除術前に必須の検査と言える。以前は、2D-CT画像をなぞり、volumeを算出していた。Sectorの容積は正確に測定できるが、亜区域の測定はできなかった。現在は3D-CT画像に基づき、門脈枝一本一本の支配容積まで semi-automated に測定することができる。さらに、生体肝移植では、グラフト選択のほか、肝静脈枝のドレナージ領域容積を算定し、枝の再建の必要性を評価することにも役立てられている。術前肝容積測定は保険算定もできるようになっており、各施設で正確に亜区域まで評価できる体制が必須である。 4. 門脈塞栓術 門脈塞栓術は、righthepatectomy, right lobectomyの安全性を増すうえで有用な手技であり、無水エタノールなどを用いて、各施設で工夫して施行されている。最近、門脈結紫術を応用した新しい術式が報告されている。Schnitz bauer らは、right lobectomyで切除可能な腫瘍を有する症例に対し、体重に対する left lateral lobe 容積の比が0.5以下の場合、初回手術時に門脈右枝を結紮し、in-situに肝鎌状間膜に沿い、肝実質を切離することにより、急速な left lateral lobe の肥大が得られ、平均9日後に二期的に right lobectomy を安全に施行できた、と報告している。患者は、動脈血で栄養されるright liverと全門脈血を受けるleft lateral lobe で耐術することになる。肝切離しているので、S4の再生・肥大はなく、門脈右枝とP4に対して門脈塞栓術を施行した状態に近似している。その機序は現時点では不明だが、left lateral lobe の急速な肥大が得られ、この二期的肝切除術は残肝容積が小さい症例で有用な可能性がある。 5. Vascular control 出血は肝切除後の予後に影響する最も重要な因子である。肝切除を安全に施行し、出血量を軽減するためには、様々な出血コントロール手技に精通していなくてはならない。 1) Pringle' s maneuver 最も施行されている出血量軽減手技である。15分クランプ、5分解除で施行することが多いが(intermittent clamp)、欧米では肝切離完了までクランプすることもある(continuous clamp)。クランプ解除中に出血量が増すことが危倶されるが、総出血量、輸血頻度に関し、intermittent群とcontinuous群で差がなかったと報告されている。 Continuous Pringle により、肝切離の中断はなくなるが、手術時間の短縮には繋がらないとも報告されている。慢性肝障害例では、intermittent Pringleのほうが有用であろう。 2) 片葉阻血 S8切除で前区域と後区域の境界の肝切離をする際、Pringle法を施行しても良いが、右肝を栄養する脈管のみをクランプするだけで肝切離は可能である。Fogarty鉗子を用いて右ないし左を栄養する脈管を一括遮断し肝切離を施行する(30分遮断、5分開放)手技が片葉阻血である。Pringle法に比較して肝障害を軽減できると考えられている。 3) Glissonian pedicle clamping 高崎らにより開発されたGlissonを一括処理して肝切除を行う手技である。 right paramedian sectorectomy,right lateral sectorectomy、などに有用であると報告されている。 4) Total hepatic vascular exclusion 肝へのinfiowとoutfiowを完全に遮断する手技である。利点として、肝静脈の逆流による出血および空気塞栓の減少、が挙げられる。しかし、技術的に難しく、心拍出量、血圧は40-60%に減少し、それに伴い、頻脈などが起こり、約15%の患者しか耐えられないと報告されている。さらに、術後合併症の増加、手術時間の延長、など欠点も多い。 5) Hanging maneuver 多くの場合、右肝静脈と中肝静脈の間で、下大静脈前面の無血管領域にテープを通し、釣り上げるhanging maneuver により、肝授動をすることなく、出血量を軽減させ肝切除を施行することができる。また、深部では肝切離の方向性を確認するうえで有用である。テープを通す部位を適宜変え、工夫することにより様々な肝切除手技に応用可能である。 6. Ischemia reperfusion injuryの軽減 肝流入血遮断手技はischemia-reperfusion injury(I/R injury)を併発し、術後肝機能不全に繋がる危険がある。このI/R injuryを軽減するために様々な工夫がなされている。 1) Pre-conditioning ClavienらはRCTにより、30分間の連続遮断に先立ち、10分間のクランプ、10分間の解除を施行することにより、特に若い症例でI/R injuryを軽減することができたと報告している。しかし、meta-analysisによると、intermittent Pringleに比較して、出血量で差が無かったとも報告されている。また、肝移植においては、Andreani らにより preconditioning の効果が検討されている。彼らは、阻血障害、primary graft non-function、急性拒絶頻度 、morbidity,mortality において優位性を見いだせなかった。現時点では、肝移植において、ischemic preconditioning の有意な効果は認められていない。肝臓外科における血流遮断を利用した pre-conditioning 効果については今後も検討する必要がある。 2) Pharmacological preconditioning Ratを用いた動物実験で、肝阻血前に isofiurane を導入することによりI/R injuryから肝細胞を守る効果があることが報告された。この結果に基づき、isofiurane などの麻酔薬を preconditioning に用いたRCTが報告されている。Beck-Schimmer らは、Propofol を用いた麻酔において、30分以内の肝阻血前に3.2vol % sevoflurane を30分導入することにより pharmacological preconditioning の効果が得られ、ASTの上昇、合併症率を低減できたと述べている。薬による I/R injury の軽減は新しい概念であり、今後普及する可能性もある。 3) Post-conditioning Ishemic preconditioningの不十分な点をカバーするため、post-condi tioningが考案された。reperfusion後、潅流、阻血を繰り返し施行し、I/R injuryを軽減させる試みである。Zhaoらは実験動物モデルで急性心筋梗塞に対する post-conditioningの有用性を示した。 肝細胞の apoptosis を減少させ、I/R injury を軽減させると考えられているが、人間で臨床応用するほど有用な実験データは得られていない。 4) Remote ischemic preconditioning 体の広範囲の組織で一過性の虚血を起こさせることにより、全身に I/R injury に対する防御能を起こさせる概念である。小児先天性疾患の心臓手術では既に臨床応用されている。 7. Parenchymal transection 肝実質切離は出血量に直結する重要な手技である。様々な手技が採用されており、どの手技を用いるにしても、肝要なのは、麻酔医との協力のもと中心静脈圧を5cmH2O以下に抑えておくことである。 1) Crush-clamp technique 最も基本的な肝実質切離手技である。ペアンなどを用いて肝実質を破砕し、残った細い脈管を結繋・切離する。 Pringle法下に施行し、電気メスを用いれば、肝実質の硬度にもよるが、効果的に切離が可能である。 2) Ultrasonic dissection CUSAは肝実質を破砕・吸引し、2mm以上の脈管を露出させ、結紮・切離することにより、出血、胆汁漏を軽減させるうえで有用である。 CUSAは肝硬変の有無に関わらず有効であるが、crushclamp法に比較して、切離に時間はかかる。 同様な原理を用いた Harmonic Scalpel は55500/秒で振動するはさみではさむことにより、3mmまでの脈管をseal し、切離することが可能である。蛋白変性を起こすことにより止血効果が得られるとされている。特に腹腔鏡下肝切除術における肝実質切離に有効である。しかし、harmonic scalpel の使用は、手術時間短縮、出血量軽減、に繋がるが、術後胆汁漏が増加すると報告されている。 3) Sealing devices Sealing装置は切離前に細い血管を seal して肝実質を切離するのに使用される。Ligasure Vessel Sealing System (Covidien,Mansfield,MA,USA)は bipolar 電気メスの原理を応用した seal 装置であり、7mmまでの血管を seal できる。Crus-clamp 法に比較して、出血量、結繋回数の減少に繋がったという報告もあるが、手術時間、出血量は減少しなかったという報告もあり、その有用性に関し今後の検討を要する。 4) Tissue Link 円錐状の先端に水滴を滴下しながら radiofrequency のエネルギーを伝えることにより、鈍的に実質切離するとともに、止血効果を得る装置である。Geller らは、Tissue Linkの使用により、輸血率、胆汁漏、合併症率が減少したと報告している。 5) Radiofrequency-assisted liver resection ラジオ波のプローベを使用して、前凝固し、肝実質切離する方法である。2本のプローベを付けた装置など開発されており、面で前凝固し切離していく。しかし、術後の膿瘍形成、胆汁漏などの頻度が高いと報告されている。 6) Water jet dissection 高圧の waterjet で肝実質を破砕し、血管・胆管のみ剥離・結紮し、その結果、出血量を減らすことを目的としている。剥離してから結紮する点で、seal 装置より時間がかかるが、切離面を明瞭に露出できる、熱ダメージがない、血管を露出させるのに有用である、などの利点もある。Rau らは、CUSA などと比較して、出血量、切離時間を減らすことができたと報告している。 7) Vascular stapler technique Vascular stapler は主要血管の切離に使用されていたが、肝実質切離にも使用されるようになった。 切離予定ラインを大きな鉗子で圧挫した後、連続的にファイアーすることにより肝実質を切離する。 Crush-clamp 法に比較して、手術時間、出血量、輸血率が減少したと報告されている。 8)肝下部下大静脈クランプ 肝実質切離に際し、中心静脈圧を5cmH2Oに下げることが出血量を減らすうえで重要であることは前述した。輸液量を減らす、などの方法の他、肝下部下大静脈クランプは中心静脈圧を下げるのに有用であり、ほとんどの患者で施行可能である。中心静脈圧が5cmH2O以上の症例で施行する意義あり、5cmH2O以下の症例では施行する必要はない。 8 .まとめ 肝切除にまつわる最近の進歩について概略した。一見、変化、進歩が無いように思われる領域でも、日進月歩で進歩が得られていることを肝に銘じて、日々の臨床に臨んでいただきたい。 |
講習のポイント 1.食道癌手術の適応。 2.食道癌手術の実際。 3.補助化学療法・補助化学放射線療法。 4.サルベージ手術。 |
キーワード 1.3領域リンパ節郭清 2.術前化学療法 3.胸腔鏡補助下食道切除 4.食道外科専門医 |
1.食道癌の概説 わが国における食道の悪性新生物による死亡数は、2007年には総数11,699人(男性9,900人、女性1,769人)であり、人口10万人あたりの死亡率は9.3人(男性16.1人、女性3.7人)となっている。(参考:胃癌の死亡率は40.1人)。食道の悪性新生物による死亡数は、全悪性新生物による死亡数の約3.5%であり、悪性新生物のなかで総数では第9位、男性に限ると第6位となっている。食道悪性新生物の死亡率の近年の年次推移は、女性はほぼ横ばい、男性はわずかに増加していることから、全体としてはわずかではあるが増加傾向が認められている。 2. 食道癌の手術適応 食道癌の深達度がT1aのうちEP(M1),LPM(M2)のリンパ節転移率は5%以下であり、内視鏡治療の適応とされている。MM(M3),SM1 (200μm 以内)では、約9〜20%のリンパ節転移があり、内視鏡治療は相対的適応となっている。SM2以深では50%以上のリンパ節転移率があり、進行癌と同様に取り扱う必要がある。したがって、手術適応はT1a-MM以深の食道癌となる。もちろん、全身状態に大きな問題はないこと、本人・家族の同意、承諾が得られることなどの条件がクリアされることはいうまでもない。 近年、化学療法の発達は各臓器において目覚ましいものがある。日本でも、食道癌に対する治療として、欧米で多く施行されている化学放射線療法に高い期待が寄せられ、数年前までは根治的化学放射線療法をまず行い、根治できなかった患者さんのみに手術をすればよいと考える医師が多数いたのも事実である。しかし、その後、晩期合併症が無視できないものであること、根治的化学放射線療法の後に手術を行うサルベージ手術が非常にリスクの高いものであることが認識されるようになり、再び「切除可能な食道癌の標準治療は手術である」といっ意見が主流となっている。 3 .食道癌の手術 食道癌の手術は、主病変のある食道切除とリンパ節郭清、さらに再建からなる。食道癌の存在部位によって、切除範囲や郭清部位、そして再建方法も異なってくる。 1 )胸部食道癌の外科治療 胸部食道癌の外科治療の原則は、食道亜全摘、3領域リンパ節郭清である。すなわち頚部食道以外の食道はほとんど切除し、頚部・縦隔・腹部のリンパ節を郭清する術式である。 @ 到達術式 a. 右開胸・開腹・頚部切開 従来、右開胸は後側方切開で多く行われてきたが、近年ではqualityof lifeも考慮し、前側方切開によって胸筋温存したり、肋骨切離を控えたりするような工夫も行われている。そのために比較的大きな開胸でも、胸腔鏡を補助的に用いることも多い。 b 胸腔鏡・腹腔鏡子術 近年、胸腔鏡を用いた手術が多く行われるようになってきた。手術そのものは通常開胸の手術と変わりなく、郭清程度も変わらないため、侵襲そのものはあまり変わらないといわれている。しかし、実際、胸部の創痛が少ないことで呼吸抑制も少なく、術後の立ち上がり、日常生活動作への復帰も早いのは確かである。 イ左側臥位:従来から行われていた通常開胸の延長として行われている。通常開胸を行ってから、胸腔鏡手術に移行する場合にわかりやすいことと、急な出血にも対処しやすいなどが利点である。また、胸腔鏡でも開胸手術と同じような視野となるため、教育的には良いと考える。 ロ:腹臥位:縦隔が重力でシフトするため、下縦隔の郭清スペースが保たれること、出血した血液が前方に貯留するため、血液が郭清部位の妨げにならないこと、少ない人数で手術が可能であることなどが利点であるが、通常の開胸の視野と異なるので解剖に十分注意する必要がある。 A 切除術式 基本的に頚部食道を除いた食道および噴門部および胃小彎を切除する。後縦隔経路で胸腔内吻合をする場合は、胸部上部の切除をやや控えることになる。 B 郭清術式 3領域郭清:胸部食道癌は広範囲にリンパ節転移を起こすことから、本邦では頚部・縦隔・腹部の領域にわたる3領域リンパ節郭清が広く行われている。これによって良好な成績が発表され、2002年のガイドライン作成以降、日本の標準郭清術式として認められている。 しかし、3領域郭清のevidenceは、無作為比較試験を行っていないため低くみられ、リンパ節郭清をあまり重視していなかった欧米ではあまり受け入れられていない。ただし、Altorki らは Skinner らが提唱した en bloc esophagectomy に頚部郭清を加えて報告し、さらに日本と同様の3領域リンパ節郭清として郭清の有用性を報告している。Udagawaらは、転移度と郭清症例の5年生存率からリンパ節部位ごとに efficacy index を計算し、郭清の有用性、とくに3領域郭清の意義を示した。これは比較的均一の手術方法で広範囲の郭清を行っている施設であることから、信頼性があるデータといえよう。 C 再建術式 a 再建臓器 イ.胃:原則的には、胃を用いて再建することが標準的に行われている。左右の噴門リンパ節、小彎リンパ節を郭清するように胃管を作成する。比較的太い胃管を作成する場合と大彎側の細経胃管を作成する場合がある。 ロ.結腸:胃切除後や胃癌を合併して胃が用いられない場合などは、結腸を用いることが多い。一般的であるが、縫合不全の頻度が高い。 1.回結腸:回結腸動脈を切離し、中結腸動脈を栄養血管茎として、右側の回結腸を拳上する方法。 2. 横行結腸(左結腸動脈):中結腸動脈を切離し、左結腸動脈を栄養血管として、上行結腸から横行結腸を拳上する方法。 3.空腸:有茎空腸を用いるが、血管吻合が必要なこともある。 b 再建経路 イ.胸壁前経路 ロ.胸骨後経路 ハ.後縦隔経路 従来は、美容上の外観、手術の安全性などの理由から、胸骨後経路が多く行われてきたが、近年は後縦隔経路の頻度が増加している。嚥下に有利であるとの理由であるが、逆流が起きやすいことや再発時や胃管病変の処理などに難渋すること、縫合不全の際に重篤になる可能性があることなど、他の方法に比較して一概に優れているとは言いがたい。 2) 頚部食道癌の外科治療 頚部食道癌は進行癌が多く、リンパ節転移の頻度も高いが、頚部に限局することが多い。 @ 到達術式 頚部切開:襟状切開、U字切開などの切開を置く。広頚筋 Platysma まで切開した後、皮膚を上方に翻転し、頚部の術野を展開する。まれに胸部上部に大きな横切聞を置いて、大きな術野を確保することもある。 胸骨縦切開:頚部切聞に加え、胸骨を縦切開したり、逆T型に切離し、観音開きにして、上縦隔の術野を得ることもある。 縦隔鏡:近年では、縦隔鏡や胸腔鏡を用いて、上縦隔の郭清を追加することも行われている。 A 切除術式 イ.喉頭温存手術:喉頭、気管に浸潤なく、腫瘍口側が食道入口部より下方にとどまる症例が適応。 a.喉頭温存頚部食道切除 b. 喉頭温存食道全摘 ロ.咽頭喉頭食道切除(喉頭合併切除) a. 咽頭喉頭頚部食道切除 b 咽頭喉頭食道全摘:胸部食道まで癌が伸展している場合は食道を全摘する。また、食道全体に異型上皮が存在し、いわゆるヨードの斑不染が認められる場合などは考慮される場合がある。 B 郭清術式 頚部食道癌の第1群リンパ節は101、106rec、第2群リンパ節は102、104、105であり、T1b以深の頚部食道癌では頚部郭清に加え、上縦隔リンパ節(106rec、105) のリンパ節郭清が必要である。 C 再建術式 頚部操作のみの手術では、遊離空腸再建が原則である。 食道を全摘した場合は、通常、後縦隔経路に胃管を拳上し、咽頭まで届かない場合は、遊離空腸を間置する。 3)腹部食道癌の外科治療 通常は、下部食道・噴門側胃切除を行う。食道胃接合部癌と同様で、開腹・経食道裂孔によるか、左開胸・開腹によるアプローチが多い。経食道裂孔的に下縦隔の郭清を行う方が、左開胸よりも予後が良いという食道浸潤胃癌に対する臨床試験JCOG9502の結果もあるが、腹部食道癌に対してはいずれのアプローチも使用されている。 縦隔・下部食道へ進展しているようなら、胸部下部食道癌に準じた右開胸・開腹の食道亜全摘手術と郭清が必要となる場合もある。胃への浸潤が大きい場合は、食道浸潤胃癌に準じて胃全摘・膵合併切除を行う。 @ 到達術式 a.左開胸・開腹 b. 経食道裂孔的 c. 右開胸・開腹 A 切除術式 a. 下部食道・噴門側胃切除 b. 下部食道・胃全摘 c. 食道亜全摘 B 郭清術式 a. 下縦隔郭清+胃D1+ b. 下縦隔郭清+胃D2 c.上中下縦隔郭清+D1+/2 C 再建術式 a. 食道・胃管吻合 b. 有茎空腸間置 c. 空腸Roux-en-Y再建 d 結腸再建 4 .偶発症 食道癌の手術は、術後に多くの偶発症(いわゆる合併症)が起こる危険性が高いとされている。 Ando らは、術後の偶発症では呼吸器合併症が19.5%と高く、在院死亡の40〜 60%が呼吸器偶発症であったことを報告している。またGriffinらによると、食道癌根治手術後の偶発症発生率は45%であり、うち呼吸器関連は17%、心血管系は7%であり、やはり呼吸器偶発症が最も問題であった。 1 )呼吸器偶発症:無気肺、肺炎、肺水腫、呼吸不全など。食道癌術後には最も高頻度に起こる偶発症である。 2) 不整脈:頻脈、心房細動など。虚血性心疾患や心不全などに結びつくこともあり、注意を要する。 3)縫合不全:頚部の食道皮膚痩なら自然に軽快するが、縦隔炎を起こすと重篤化する可能性がある。 リンパ節転移のためなどで切離した場合を除き、通常は半年以内に回復することが多い。 4) 吻合部狭窄:器械吻合を行った場合には高頻度に起こることも指摘されているが、手縫いでも器械でも縫合不全や狭窄の頻度に差がないという報告もある。いずれにせよ、狭窄の多くは内視鏡下にバルーン拡張で対処可能である。ただし、頚部や胸部上部に吻合部があるため、嚥下の際につかえや誤嚥をしないように注意深く嚥下させる必要がある。 5)反回神経麻痔(さ声):反回神経周囲のリンパ節郭清を行う際に損傷すると神経の麻痺が起こり、声帯麻痺が起こる。片側ならばさ声で済むが、両側だと気道閉塞の可能性もある。また誤嚥を起こしやすいので、注意を要する。 6) 乳ぴ胸:術中胸管損傷によって、乳ぴ胸が発生する。保存的に経過観察したり、胸膜の癒着療法で軽快することが多いが、手術が必要とすることもある。 7)術死・在院死亡:30年以上前には、食道切除手術は非常に危険な手術とされ、Akiyamaらの術死率3%という良好な報告は世界的に驚かれた歴史がある。その後、Andoらは術死(手術直接死亡) (30日死亡)率1.7%、在院死亡率7.9%と報告している。近年は、欧米でも、術死率2%、在院死亡率4%という極めて良好な報告がなされている。また胸部外科学会の全国調査によると、術死率は、2007年1.2%、2008年1.2%、在院死亡率は、2007年3.4%、2008年2.8%であり、従来に比較すると、また欧米と比較するとはるかに安全に手術が可能となっている。 5. 補助療法 1 )補助化学療法 JCOG 9204試験では、術後補助化学療法としてシスプラチン(CDDP) /5-FU群が対照群に比べて、全生存率では有意の差は認められなかったが、無再発生存率で有意に良好な成績を示しており、その結果より、2007年度版のガイドラインでは、リンパ節転移を有する症例におけるCDDP/5-FUの術後化学療法を推奨されていた。 しかし、JCOG9907試験によって、術前化学療法が術後化学療法より効果的であることが示され、Stage II/III食道癌に対して、術前のCDDP/5-FU投与が標準治療とされている(食道癌診断治療ガイドライン2012年版) 。また、StageIIIでは術前化学療法の予後上乗せ効果はほとんど認められないため、その効果は十分とはいえなかった。したがって、近年はより強力なDocetaxel/CDDP/5-FU(DCF)などの化学療法を術前に施行する試みがなされている。 なお欧米では多くの無作為比較試験がなされているが、これらを基にしたメタアナリシスの結果からは、切除可能例に対する術前化学療法の有効性は明確ではない。 また、JCOG9907試験では、術前と比較して術後の化学療法完遂率が低いことが成績の差となった可能性が指摘され、一概に術後化学療法が無効とは結論できない。 2)補助化学放射線療法 欧米では、術前化学放射線療法を用いた比較試験が多く行われているが、化学放射線療法の術後生存率への上乗せ効果ははっきりしていない。化学放射線療法によって高いpCRが得られ、よく効いた症例では、さらに手術を追加しても生存率は向上しないという主張もある。術前化学放射線療法群と手術単独群を比較したメタアナリシスも数多く行われているが、はっきりとした結論は出ていない。 3年生存率をエンドポイントとするメタアナリシスでは、術後90日以内の手術関連死亡が上昇するものの、局所再発率を低下させ、3年生存率を有意に上昇させることが報告されている。 術後に施行する予防的な放射線治療に関しては、1980年代後半には積極的に行われていた。無作為試験ではないが術後予防照射による生存率の改善や局所再発の頻度を低下させる効果も報告され、またJCOGの無作為比較試験でも術後放射線療法が生存率を改善することが報告された。しかし、海外で行われた4つの無作為比較試験にいずれにおいても、術後照射による局所再発は有意に低下するものの、生存率の向上はみとめられなかった。CDDP導入による化学療法の進歩とともに、予防的な放射線療法はあまり行われなくなっている。 非治癒に終わった症例に対しては、遠隔転移がなければ化学放射線療法は広く行われており、有効であるとの報告も散見されるが、無作為比較試験は行われていない。 6 .サルベ-ジ手術 根治的(化学)放射線療法後の癌遺残または再発に対する手術をサルベージ手術と定義されている。 根治的放射線量はわが国では一般に60Gy以上としている施設が多いが、欧米ではINT0123試験の結果より50.4Gyが標準となっている。したがって、50Gy以上の放射線照射を行った症例に対する食道切除を一般にサルベージ手術としている。 サルベージ手術の術後5年生存率は25〜35%であり、予想以上に良好な成績を示している。しかし、サルベージ手術は決して容易ではなく、目標とするROを達成できないことも多い。非治癒切除率は15〜35%であり、非治癒の場合の予後は極めて不良である。 さらにサルベージ手術では、呼吸器偶発症や縫合不全など術後偶発症の頻度が高いことが指摘されている。気管壊死・穿孔などの組織虚血による重篤な偶発症が多いのも特徴である。したがって、在院死亡率も7〜22%と極めて高率であり、決して安全な手術ではないことに留意しなければならない。 以上より、サルベージ手術によって長期生存が期待できる症例はあるが、リスクが高い手術であることに留意して、慎重に適応を決定する必要がある。 7 .その他の食道癌に対する手術 1 )非開胸食道抜去 頚部食道癌の胸腹部食道切除、胸腹部食道癌で癒着・低肺機能で開胸困難例、高齢者、郭清が不要な表在癌症例などが適応とされてきた。現在は、化学放射線療法やEMR/ESDの普及でその適応が限られている。しかし、一方、内視鏡手術の発達により、縦隔鏡下で従来不能であった郭清操作が可能になってきている。 2)バイパス手術 切除不能食道癌で手術以外の治療でも狭窄が改善しない場合、食道気管凄など経口摂取が不能な症例を適応として、バイパス手術を行うことがある。サルベージ手術時に切除不能と判断された時の姑息的手術として行われることもある。食道ステント挿入術の普及でその頻度は従来と比較すると減少している。 8.食道外科専門医制度 食道癌の手術治療は難しく、かつ手術によって手術成績が大きく異なる可能性がある。また術後も十分な管理が必要であり、生死に関わる偶発症も多い。手術数の多い病院ほど術後偶発症が少ないことが指摘されている。米国における全国的な解析調査から食道切除と肺切除でその傾向が強いことが示されている。英国でも、National Health Service のガイドラインでは、食道切除は大病院で行うことが推奨されている。一方、食道癌治療で生存率を左右するのは病院の手術症例数ではなく、個々の外科医の手術症例数であるとの報告もある。また同じような手術を行っても、術後管理を行うチームによって差が出ることも事実であり、術後管理を行うチームの経験も重要な要素である。 そういう意味でも、食道癌の外科治療ではきちんとした教育や資格が必要な分野であると考える。 そこで、2010年度より日本食道学会の食道専門医制度がスタートした。最初の2年間のみ食道外科暫定専門医を認定し、2011年度がらは暫定専門医による食道外科専門医の認定作業が始まっている。したがって、暫定専門医は、暫定という名称ではあるが、実際は食道手術100例以上、筆頭論文10篇以上という日本の食道外科をリードする指導医である。現在までに、暫定を含め166人の食道外科専門医が認定されており、今後は食道外科医選択の参考にしていただければと考える。 |
講習のポイント 1.ESDの登場に伴い、胃癌の内視鏡診断が著しく進歩した。 2.内視鏡治療適応の原則は、リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除 できる大きさと部位にあることである。 3.ESDの適応拡大病変の問題点を十分に把握しておくことが大切である。 4.ESD後の根治性の評価と切除後の治療方針が重要である。 5.ESDの偶発症として穿孔、術後出血などが重要であり、適切な対応と防止対策が必要 である。 |
キーワード 1.早期胃癌 2.EMR 3.ESD 4.胃癌治療ガイドライン 5.適応拡大病変 |
1 .はじめに わが国の胃癌診療は検診システムの整備・発展や内視鏡機器の進歩により、早期癌が多数発見されるようになり急速な進歩を遂げた。その中で、機能温存かつ根治性を追究した内視鏡治療が広く行われている。 内視鏡治療は、1960年代の胃ポリペクトミーに始まり、1980年代には多田らがstrip biopsy法を開発し、これが内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection :EMR)の原点となった。EMRでは、平坦な病変に対しても病変部の一括切除が可能となり、病理組織学的検討が行えるようになった。しかし、EMRでは一括切除できる大きさに限界があり、分割切除になることもあり、正確な病理診断は困難になり、さらには再発率が高くなるという問題があった。そのような状況の中で病変を一括切除する方法として、平尾らは高張性食塩水局注法(endoscopic resection with local injection of hypertomic saline-epinephrine solution :ERHSE)、すなわち針状ナイフを用いて全周切開を行い、スネアで切除する方法である。しかし、本法では大きな病変の切除が困難であることや、穿孔の危険性が高いことより、一部の施設にとどまった。その後、EMRに際して一括切除の重要性が主張されるようになり、1990年代後半より、細川・小野らにより ITナイフを用いた、粘膜切開後さらに粘膜下層を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection :ESD)が提唱された。その後Hook ナイフ、フレックスナイフなどが次々と発表され、広く普及しつつある。ここでは、胃癌の内視鏡治療としてEMR.ESDを中心に述べる。 2 .内視鏡治療の適応 日本胃癌学会が発表した「胃癌治療ガイドライン改訂第3版Jによれば、内視鏡治療適応の原則は、「リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること」とある。 1 )絶対的適応病変 2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)と診断される分化型癌(pap,tub)。肉眼型は問わないが、Ul(-)に限る。 2) 適応拡大病変 cT1a, 2cm超、Ul(-)の分化型癌 cT1a, 3cm以下、Ul(+)の分化型癌 cT1a, 2cm以下、Ul(-)の未分化型癌(por,sig) 内視鏡治療遺残再発病変:cT1a,U l(-)の分化型癌 3) 適応病変からみた治療手技 絶対適応病変では病変の性状や術者の技量により、EMRまたはESDが選択されるが、適応拡大病変ではEMRでは一括切除は困難でありESDが行われている。 適応拡大病変に対する標準治療は外科切除であることを留意したうえで行う。 Ul(+)病変は技術的に難しいことが多く、手技や器機の進歩が必要である。 3. 術前検査 内視鏡治療の適応基準である組織型、腫瘍径、深達度、潰瘍瘢痕(Ul)の有無について、術前検査で厳密に診断する必要がある。とくに、病変の範囲や深達度を診断するために、詳細な通常観察に加え、 画像強調観察[色素法、光デジタル法(NBI)、デジタル法(FICE,i-scan) ]、拡大観察などを用いて、内視鏡治療の適応病変(ガイドライン病変または適応拡大病変)に入るかどうかを検討する。病変の境界が不明瞭な場合は、癌の境界の外側で正常と思われる部位から生検し、病理学的に境界を決定しておく。なお、超音波内視鏡は必須ではないが、深達度や潰瘍瘢痕所見の補助診断として有用なこともある。 4 .内視鏡治療の実際 EMR ESDで使用する医療器機、医療材料としては、高周波発生装置、電子スコープ(前方送水機能付き)(病変部位によりMulti-bendingスコープ)、止血用処置具(ホットバイオプシー紺子、止血紺子、クリップ、APCなど)、局注針(25G)、局注液(生理食塩水、グリセオール、ヒアルロン酸製剤など)、CO2送気装置、EMR用処置具(ワニ口把持紺子、半月形スネア、爪付きキャップ、EVL用キットなど)、ESD用処置具(IT系ナイフ、針状ナイフを改良した先端系ナイフ、ハサミ系ナイフなど)、ESD時のカウンタートラクション用処置具(先端アタッチメント、先端細径透明フード、エンドリフタ一、外付け把持鉛子、糸付きクリップ)などがあり、施行する治療手技に応じて準備しておく。 1) EMR EMRの手技としては、Strip biopsy法、透明プラスチックキャップ法(EMRC法)、内視鏡的吸引粘膜切除法(EAM)、食道静脈瘤に対する結紫術を応用したEMR-L法など様々な方法が開発されたが、ESDの登場によりEMRの施行頻度は減少している。しかしながら、EMRは簡便で安全性の高い手技であるので、病変によってESDと使い分けることが望ましい。 2) ESD @ 前処置および術中管理 抗血栓薬服用中の場合は、内服薬に応じて、治療前に一定期間の休薬が必要である。 降圧剤や冠血管拡張剤など、内服が望ましい薬剤以外の内服薬は当日朝より中止する。 前日から術後1ヶ月間、PPIの投与を行う。 ESD前に静脈確保を行い、鎮痙薬、鎮静薬などの静注を行う。当内視鏡診療部では、ソセゴン(15mg) 1Aを静注し、ドルミカム1A+生理食塩水18mlの溶液を呼びかけに応じなくなるまで5mlずつ静注する。治療中に体動があれば適宜追加する。終了後、フルマゼニルで覚醒させる。 術中モニタリングは必須であり、血圧、酸素飽和度、心電図、脈拍はモニターし記録に残しておく。 A ESDの手技 a.病変の観察 術前検査で決定した切除範囲を確認、再度範囲診断を行う。 b.マーキング 病変の辺縁より約5mm程度外側に、針状ナイフやAPCを用いて2-3mm間隔で全周性 にマーキングを凝固波で行う。切除標本の口側と肛側の位置関係がわかるようにいずれかに目印を付けておく。 c.局注 マーキングのやや外側局注針を穿刺し粘膜下層に局注を行い、十分な粘膜膨隆を形成させる。 d.全周切開および粘膜下層剥離 各種デバイスで粘膜を全周性に切開する。粘膜下層に局注を追加しながら、粘膜下層の剥離を進めていく。 当内視鏡診療部では、ESDの工夫の1つとして、2011年10月からカルボキシメチルセルロースナトリウム(sodium carboxymethylcellulose:SCMC )を局注剤として用い、粘膜下層の剥離を施行している。SCMC注入により粘膜下層が浮き上がり、良好な視野のもとに粘膜下層の剥離が安全に行えるようになった。 e.標本回収と粘膜欠損部の処置 標本を回収後、再度スコープを挿入し、露出血管の確認を行い、止血甜子などで処置しておく。 f.内視鏡安全チャックリストとタイムアウト 当内視鏡診療部では、ESDを安全に行うためにチェックリストを用いて、治療直前にスタッフ間での前処置の確認、患者確認、抗血栓薬服用の有無、禁忌薬剤の確認を行い、さらにタイムアウト(モニターが患者に装着され作動しているか、すべてのチームメンバーの名前と役割を確認する、内視鏡治療の方法や予定時間の確認、各種ライン・輸液の確認、予想される重要なイベントの確認など) を行い、ESDを開始する。治療後にサインアウト(検体・標本の氏名と患者氏名が一致しているかを確認、患者の回復および管理について注意すべき問題点を確認)し、最後にそれぞれ署名して終了する。 B 術後の処置 治療当日はベット上安静とし、絶食とする。 必要最低限の内服(胃薬を含む)のみ可とする。 治療翌日に、採血、胸腹部XP施行する。 治療翌日あるいは翌々日より流動食や粥食から開始する。 5. ESD後の評価 ESD後の根治性の評価は、局所が完全に切除されているか、リンパ節転移の可能性がほとんどないか、という2つの因子によって決定され、これらがクリアできて治癒切除と評価できる。 治癒切除の原則は、「腫瘍が一括切除され、腫瘍径が2cm 以下、分化型癌で、深達度がpT1a,HM(-),VM(-),Ul(-),ly(-),v(-)である」と定義されている。 適応拡大病変の治癒切除については、胃癌治療ガイドラインによれば、一括切除でHM(-),VM(-),lyv(-)でかつ以下の基準を満たすものとされている。 @ 2cm超、Ul(-)、分化型、pT1a(M) A 3cm以下、Ul(+)、分化型、pT1a(M) B 2cm 以下、Ul(-)、未分化型、pT1a(M) C 3cm以下、分化型、pT1b( SM1: 500μm未満) ただし、@で未分化成分が2cm超、Aで未分化成分のあるもの、CでSM浸潤部に未分化成分のあるものは、非治癒切除とする。 6. ESDの治療成績 当内視鏡診療部にて2003年7月から2012年9月まで施行した胃ESD症例は571例であった。平均年齢71.9歳(41-86歳)で、平均標本径42.lmm(15-115mm)、平均腫瘍径18.6mm(2-75mm)、一括切除率96.8% (553/571)、完全一括切除率89.6%(493/571)、治癒切除率86.3%(493/571)であった。 7 .偶発症とその対策 当内視鏡診療部で施行した胃ESD症例571例における偶発症は、穿孔16例(2.8%)、術後出血27例(4.7%)、誤嚥性肺炎10例(1.8%)などであった。 1 )穿孔 一般に術中穿孔は1-5%程度と報告されている。当院では2.8%であった。 手術時間が長くなったり、U領域(体上部、体部大彎)の病変、大きな病変、潰瘍瘢痕を伴 う病変など、難易度の高い病変で多い。 穿孔した場合は、クリップで閉鎖し、経鼻胃管による持続減圧吸引、抗生剤の投与、PPIまたはH2受容体拮抗薬の静脈内投与を行う。クリップ閉鎖の方法には、孔をクリップで完全に閉じるいわゆる縫縮術(simple closure) と小網もしくは大網を充填するomental patchと呼ばれる方法がある。ほとんどの場合は保存的に治療可能であるが、重篤な腹膜炎をきたした場合は、緊急外科手術の適応を考慮する。 遅発性穿孔は0.1%以下とされているが、保存的に治療できないことが多く、原則は開腹手術の適応である。 2)術後出血 治療後2週間までの術後出血の報告がある。 切除後の潰蕩面の露出血管を、止血紺子やホットバイオプシー鉗子、APCなどで凝固処置することで術後出血のリスクが減少する。 術後出血防止のためにPPIの投与や生活制限を行う。 8. ESD後の治療方針 1 )治癒切除の場合 年1-2回の内視鏡による経過観察を行い、とくに適応拡大病変では、腹部エコー検査やCT検査を併用することが望ましい。 治癒切除の場合、ヘリコバクタービロリ感染の有無を検査し、陽性者では除菌を行う。 2) 非治癒切除の場合 @ 追加外科手術を必須としないもの 分化型癌を一括切除したが、水平断端(HM)が陽性であった、または分割切除になったものの、HMのみが非治癒因子であるという場合である。このような場合は転移の危険性が低く、患者へのインフォームドコンセント後に、再ESD、切除時の焼灼効果(burn effect)を期待した厳重な経過観察、焼灼法(APC,レーザーなど)の追加、あるいは追加外科切除を選択する。 A 追加外科手術を必須とするもの 上記以外は非治癒切除として追加外科手術を選択する。 おわりに EMRからESDへの内視鏡治療の発展に伴い、消化管癌の内視鏡診断が著しく進歩している。ESDのさらなる先には、NOTES関連手技として腹腔鏡補助下内視鏡的胃全層切除術(laparoscopy-assisted endoscopic full-thickness resection :LAEFR) や内視鏡的全層切除術(endoscopic full-thickness resection :EFTR) が期待されている。 |
講習のポイント 1.2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、早期慢性膵炎という概念が加えられた。 2.早期慢性膵炎の診断には、膵実質の微細な変化を捉えられるEUSの役割が大きい。 3.慢性膵炎への早期医療介入のためにも、早期慢性膵炎の臨床徴候および画像所見を 理解しておく事は重要である。 |
キーワード 1.早期慢性膵炎 2.超音波内視鏡 |
1 .はじめに 慢性膵炎の予後は悪く、慢性膵炎の予後調査によれば、慢性膵炎患者の死亡率は一般人口の死亡率の約2倍とされ、1993年の世界的な疫学調査では、膵癌の発生率は年齢・性別・国を調整した予想発症数の26倍にものぼることが明らかにされた。このようなことから、慢性膵炎を早期に診断し、適切な治療を行うことの重要性が認識されていたが、2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、この中で早期慢性膵炎という概念が世界に先駆けて提唱された。これは、慢性膵炎に対するより早期からの医療介入のためにも画期的な改訂であった。早期慢性膵炎の診断においては、微細な膵実質・膵管異常を示す画像が重要視されており、非侵襲的に高解像度で至近距離から膵臓を観察できる超音波内視鏡(endoscopic ultrasound: EUS) の役割が大きい。本稿では、早期慢性膵炎の診断のポイントについて記す。 2 .早期慢性膵炎診断基準 「早期慢性膵炎」とは、膵炎を疑わせる臨床症状や検査値異常、飲酒歴などの複数の因子を有し、EUSや内視鏡的逆行性膵管造影(Endoscopic retrograde pancreatography: ERP) で早期慢性膵炎に合致する軽微な膵実質・膵管異常を呈する疾患群である。早期慢性膵炎診断基準を表に示した。なお、体表からの超音波検査やCTでは早期慢性膵炎の特徴的な画像の描出はできないため、検査法からは除外されている。早期慢性膵炎が通常の慢性膵炎に進展するか否かについては、現在国内でも検討が進められているが、CatalanoらはEUSで早期慢性膵炎(mild chronic pancreatitis : CTやセクレチン試験では慢性膵炎所見が陰性)と診断された37症例を5年間経過観察した結果を報告し、20例でEUS所見の増悪が観察されたとしている。また、このうちの18例ではCTでも慢性膵炎を示唆する所見が出現. 16例ではセクレチン試験で異常値を示したと報告しており、EUSで捉えられた微細な膵実質・膵管変化は、まさに慢性膵炎の初期像である可能性が高いことが示されている。 3.早期慢性膵炎の臨床徴候 早期慢性膵炎診断基準では、臨床徴候として以下の4項目:1 )反復する上腹部痛、2)血中・尿中膵酵素値の異常、3) 膵外分泌障害、4) 一日80g以上の大量飲酒歴、が挙げられている。以下に各徴候と早期慢性膵炎を念頭に置いた考え方について具体的に記す。 1 )反復する上腹部痛 慢性膵炎の腹痛の特徴は「反復する腹痛」である。胃潰瘍などの消化管由来の腹痛の性状とは異なり、痛みの性状の詳細な問診も診断に役立つことが多い。また、上部消化管内視鏡検査や腹部超音波検査を施行しても有意な所見がなく、痛みの原因となる様な器質的な疾患の存在が考え難い場合は早期慢性膵炎も鑑別診断として考えておく必要がある。また、PPIの試験的投与も早期慢性膵炎診断過程においては試みてよい方法である。 2) 血中・尿中膵酵素値の異常 膵酵素異常とは、血中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは正常下限未満に低下、もしくは尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇することとされている。しかし、早期慢性膵炎では膵酵素異常が認められない場合も少なくない。 3)膵外分泌障害 臨床診断基準においては、膵外分泌障害はBT-PABA試験で明らかな低下を複数回認めることとされており、確実な再現性が求められている。膵外分泌障害の特徴的な症状としては、脂肪便、下痢、体重減少、栄養障害などがあるが、組織学的にも軽微な変化である慢性膵炎早期の段階で機能障害に関連した顕著な症状を呈する事は少ない。 4) 一日80g以上の大量飲酒歴 前述の反復する上腹部痛を訴える患者を診察する際には、飲酒歴の詳細な問診は不可欠である。純エタノール換算で一日80gの飲酒量とは、概ねビール大瓶3本、日本酒3合、25%焼酎2合、である。飲酒と慢性膵炎EUS所見との関連について、Thulerらは、アルコール多飲者と非多飲者間で慢性膵炎のEUS所見の差異について検討しており、アルコール多飲者で有意にEUS異常所見が観察されたとしている。また、Sahaiらは、1157人の飲酒量とEUS所見を解析し、飲酒量に比例して慢性膵炎のEUS所見数が多くなったと報告している。それほどの自覚症状がなくとも、相当量の飲酒をする患者に対してはEUSでの精査が推奨される。なお、女性は男性に比してアルコールによる膵障害は起きやすいとされている。原因がはっきりしない上腹部痛を訴える女性の場合は、飲酒量が必ずしも80g/日でなくとも早期慢性膵炎も念頭に診療にあたることは重要と考える。一方、Petroneらは、飲酒のみならず喫煙、および年齢も加味した検討を行っており、年齢に伴う膵実質や膵管異常を考慮しても、長期の喫煙とアルコール摂取は慢性膵炎EUS所見(hyperechoic foci やhyperechoic ductal margin) の発現リスクが明らかに高いことを報告している。飲酒のみならず喫煙についても慢性膵炎のリスクファクターであることを認識して問診を行うことは求められる。 4. 早期慢性膵炎の画像診断 1 )基本的事項 早期慢性膵炎の診断基準では、画像診断としてEUSとERPが取り上げられている。いずれも専門施設での特殊検査の類に入るものではあるが、早期慢性膵炎は膵実質の微細な変化を主体とするため、その診断の確実性といった点からこれらの検査が要求されている。一般に施行されている体表からの腹部超音波検査では、EUSで描出される微細な膵実質変化を捉える事は困難であり、前述の臨床徴候から早期慢性膵炎が疑われる場合は、積極的な専門施設への紹介が望ましい。特にEUSは非侵襲的な検査であり、ERPに比してそのハードルは明らかに低い。筆者らの検討では、ほほ同時期に腹部超音波検査とEUSを施行した患者の所見を比較してみると、腹部超音波検査で正常範囲内と考えられた患者のうち、その約半数でEUSでは早期慢性膵炎像を呈していた。すなわち、先述の臨床徴候が2項目以上ある患者(特に大量飲酒者)においては、腹部超音波検査が問題なくともEUSは施行しておいてよい。 2)超音波内視鏡(EUS)所見 EUSは高解像度で至近距離から膵臓を観察できるため、早期慢性膵炎の画像診断に極めて有用な検査法である。正常膵実質は肝臓とほぼ同等かやや高エコーで均一に描出され、fine reticular patternを呈しており、その膵実質エコー内には拡張・蛇行した主膵管や、不整拡張分枝膵管は観察されない。主膵管壁は膵実質に比してわずかに高輝度の均一線状エコーとして観察され、その径は頭部で2.4mm、体部で1.8mm、尾部で1.2mm程度である。これらの所見を基本とし、表に示した様な異常所見が定義されている。 早期慢性膵炎診断基準においては、慢性膵炎の重症度が考慮され、表に示した7項目が挙げられており、特にその中でも蜂巣状分葉エコー、不連続な分葉エコー、点状高エコー、索状高エコーの4項目は特に重要とされている。以下に、正常像も含めた早期慢性膵炎のEUS画像について解説する。なお、各所見の定義はRosemont分類(2009年に提唱された、以前から定義されてきた各EUS所見をその重要度に応じて格付けすることによる新しいEUS診断基準)に則り記載した。 @ 分葉エコー(Lobularity) @)蜂巣状分葉エコー(Lobularity,honeycombing type) A)不連続な分葉エコー(Nonhoneycombing lobularity) 分葉エコーは、膵実質が高エコーの線で分葉状に区切られ網目の様に見えるもので、その線で囲まれた一分葉の大きさは5mm以上であり、膵体尾部に少なくとも3つは見られるものである。3つ以上のLobularが連続性に見られるものが蜂巣状分葉エコーであり、分葉状のパターンに連続性がないものは不連続な分葉エコーと定義される。 A 点状高エコー(Hyperechoic foci: non-shadowing) 少なくとも3つ以上の、陰影を伴わない径3mm以上の点状高エコーである。陰影を伴う点状高エコーは石灰化であり早期慢性膵炎所見からは排除される。 B 索状高エコー(Stranding) 膵体尾部に3mm以上の線状高エコーが3つ以上見られる所見である。索状高エコーはアーチファクトとしても観察される事があり、有意な索状高エコーはその方向性にばらつきがみられる。また、高エコーを呈する膵管壁との区別にも注意しなくてはならない。 C 嚢胞(Cysts) 短径が2mm以上の円形または長円形を呈する膵実質内の無エコー構造物である。その個数に規定はない。 D 分枝膵管拡張(Dilated side branches) 主膵管と交通のある1mm以上の径を持つ分枝膵管拡張であり、少なくとも3本以上の不整拡張分枝膵管が見られる場合を有意所見とする。 E 膵管辺縁高エコー(Hyperechoic MPD margin) 膵体尾部でみられる主膵管の半分以上の範囲で、その壁が高エコーに観察される所見である。 3) 内視鏡的逆行性膵管造影(ERP) 早期慢性膵炎診断におけるERP所見は、主膵管には大きな変化を認めないが3本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められるものである。適切に分枝膵管の拡張を評価するためには、ある程度主膵管内に圧をかけて画像を得る必要がある。 5. おわりに 早期慢性膵炎診断のポイントとしては、1)原因の同定が出来ない上腹部痛を訴える患者では、早期慢性膵炎の可能性を念頭に置く。2) 飲酒歴がある患者や検診等で膵酵素上昇/低下を指摘された患者に対しては、症状がなくともEUSでの精査を勧める。 このような事を念頭に消化器診療にあたることにより、早期慢性膵炎確定の診断は出来なくとも早期慢性膵炎疑いの患者を拾い上げる事は可能であり、この事は長期的に見ても患者にとっては大きな福音になる。EUSやERPによる膵画像診断においては、腫瘍診断という観点だけではなく、早期慢性膵炎診断といった観点からも取り組んでいただければ幸いである。 |
講習のポイント 1.胆道癌の治療方針の決定にはMRCP、MDCTが有用である。 2.胆嚢癌ではEUS、胆管癌ではERCPが診断の基本となる。 3.胆管癌では側方進展の診断が重要で、IDUS、胆道鏡と生検が有用である。 4.化学療法導入のための減黄には、開存期間が長いmetallic stentが有用である。 5.ERCP下胆道ドレナージが困難な場合には、経消化管的なEUS下穿刺ドレナージが用 いられるようになってきた。 |
キーワード 1.ERCP:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography 2.EUS:Endoscopic ultrasonography 3.IDUS:Intraductal ultrasonography 4.EBD:Endoscopic biliary drainage 5.ESBD:Endosonography-guided biliary drainage |
はじめに 本邦の人口動態調査によると、胆道癌の死亡数は2007年度、癌死亡の第6位で全体の5.0%を占めていた。罹患数は年間19000人程度で、癌死亡数と差が少ないことから、胆道癌が予後不良であることがわかる。特に欧米に比べて本邦では胆道癌の発生頻度が高く、高度で着実な対応が望まれる。胆道癌の根治治療は外科手術であるが、本稿では診断のポイントと内視鏡治療に関して述べて行きたい。 I .胆道癌の診断 [胆道癌の拾い上げ] 胆道疾患は胆管拡張などをUSで拾い上げ、病因検索には簡便なMRCPが有用である。MRCPは静止水を画像化するため、黄疸時の閉塞部位と全体像の把握に適している。すなわち拡張した胆管枝の情報からドレナージの適応、方法、ルートの選択など治療のstrategyを組み立てることができる。 MRCPによる悪性胆管狭窄の質的診断能を、胆道ドレナージ施行前に検討すると、胆管癌100%、膵癌86%、乳頭部癌63%と総じて高いレベルにあった。MRCPの診断で注意を要するのは、下部胆管狭窄で直下の胆管虚脱を伴う場合や、乳頭部癌例である。その他の pitfall としては、右肝動脈の圧排による偽狭窄像、Oddi筋収縮による下部胆管偽狭窄像、flow artifact などが挙げられる。いずれMRCPで胆管閉塞が確認されればさらなる精査、加療に進む。 [胆管癌の部位別診断ポイント] ・上部胆管(Bs)癌では右肝動脈浸潤の有無は、肝右葉切除もしくは切除不能の判断根拠ともなる重要な因子である。この判定にはERCPに引き続き、管腔内超音波検査(以下、IDUS)が有用である。 ・中部胆管(Bm)癌は三管合流部となることが多く、予後不良な胆嚢管癌との鑑別が問題となる。胆嚢管癌の画像はMRCP、ERCP ともに片側性の狭窄、平滑、ふた瘤状の圧排像を呈する。 ・下部胆管(Bi)癌は膵癌の他、良性胆管狭窄として慢性膵炎、自己免疫性膵炎(AIP) によるものとの鑑別が必要である。 ・肝門部胆管癌(Bp)の局在は、胆管と周囲脈管が複雑な解剖学的位置を示すため、進展度診断には再構成画像の情報量が多いMDCTが有用である。鑑別診断には原発性硬化性胆管炎(PSC)が挙げられるが、AIPにおける多発胆管狭窄例の86%が肝門部に狭窄を伴っており、血清、組織学的なIgG4検索が必要である。 ・広範囲胆管癌は、表層進展が肝内にみられても顕性黄疸を発現しにくい点や、画像でも腫瘤像として描出されにくいことから発見が遅れることがあり注意を要する。 [胆管癌の進展度診断] 胆管癌は側方進展(表層進展、壁内進展)を伴いやすいという特徴を有し、手術適応や術式の決定にはその診断が重要である。基本はERCPや経皮経肝的胆管造影による直接造影であるが、引き続きIDUSや胆管生検、胆道鏡(POCS)など精密検査が必要となる。胆管癌切除例からIDUSの側方進展の診断能を検討すると、正診率は上流側78%、下流側70%であった。これらは胆管壁への影響を考慮してドレナージ前に評価することが重要である。また、IDUSによる膵浸潤、十二指腸浸潤の正診率はそれぞれ90%、90%と良好な成績を報告している。超音波による胆管壁の深達度診断は、内側低エコー層にss浅層(線維組織)も含まれるため、厳密な意味では早期癌(T1)と進行癌(T2)との鑑別は困難である。診断基準として低高エコー境界が整である所見をm-ss(Tis-T2)、不整のものをss(T2)、外側高エコーが断裂、消失したものをse以深(T3)としたとき、IDUSの正診率は83%であり、EUSの正診率79%を上回っていた。これまでの報告でもIDUSの正診率は85-87%と良好とされている。 [胆石と胆嚢癌との関係] 胆石と胆嚢癌の因果関係は明らかにされていない。当センターの切除例をみると、切除例というbiasはあるが、胆石からみた胆嚢癌の合併率は2.2%、胆嚢癌からみた胆石の合併率は55%であった。無症状胆石の胆嚢癌発生率は、画像診断の発達した近年の報告をみると、長期観察群の0.5%以下とするものが多い。これは超音波検診で発見される胆嚢癌の頻度が0.02%前後であることから、検診例の長期逐年群に相当する可能性がある。一方、全国胆石症調査では胆石症からみた胆嚢癌の合併率は0.81%と高率であることが報告されている。胆嚢癌切除例では胆石を有していても(有石胆嚢癌)、症状がみられたのは76%であり、4人にl人は無症状であった。胆嚢癌の術前診断能は,胆石を合併していない胆嚢癌(無石胆嚢癌)では隆起型が84%で、約90%が診断可能であったのに対し、有石胆嚢癌の診断はより低率で、強く胆嚢癌を疑った例は65%にとどまっていた。このような有石胆嚢癌の特徴、肉眼型を把握しておくことが重要で、肉眼型は隆起として指摘し難いUa, Ub型の早期癌と平坦型の進行癌が37%を占めており、無石胆嚢癌の16%と比較すると倍以上であり、これは術前確診が困難であった症例の分布とよく相関していた。また、有石胆嚢癌の切除例では術前診断の難しいm癌が34%を占め、術後に初めて発見されることが多く、標本の詳細な検索の重要性を示している。 [胆嚢癌の診断] 胆嚢癌の質的診断や深達度診断に際してはEUSによる形態評価、MDCTでの viability を含めた dynamic study が有用である。胆嚢癌の予後規定因子を切除例の多変量解析からみると、壁深達度が最も重要な因子と報告されている。深達度がm、mp(pT1a pT1b)までの早期癌は切除により完治が見込まれるが、se、siの癌の多くは予後不良である。ss癌の診断は、進展度に応じた適切な手術が選択されれば予後が期待できるため臨床上重要である。 EUSで表面が小結節状、平滑で、内部が実質様の1p型であれば胆嚢癌の深達度はm と判断される。また、表面不整で実質エコーからなる広基性腫瘤や限局性壁肥厚であっても、lOmm以下で外側高エコー層が保たれていれば早期胆嚢癌(1s,Ua,Ua + Ub)である可能性が高い。外側高エコー層が不整であればss浸潤癌であり、断裂していればse、si、hinflb以上となる。一方、外側高エコー層には組織学的にssの一部も含まれているため、保たれていてもss浸潤は否定できない。胆嚢動脈の造影にて2-3次分枝に閉塞やencasement があればss浸潤癌の診断が可能であるが、最近では非侵襲的な検査が優先され、MDCTや造影エコーなどでのdynamic study が用いられる。 U.胆道癌の内視鏡治療 [内視鏡治療の注意点] 胆膵の内視鏡的診断、治療の基本はERCPである。ERCPは1968年にMcCuneらによって施行され、本邦では1969年に大井、高木らによって初めて報告された。ESTは1973年にKawai ら、1974年にClassen らによって報告されて以来、その有用性、安全性は長期予後も含め確立されている。現在ではこれを応用した各種診断法と、特に内視鏡治療が大きな発展を遂げている。一方、消化器内視鏡実施による医療過誤訴訟では、ERCP関連手技による事例が多いとされている。実際にERCP施行時に起こりうる症状とその発症機序を表lに示す。 ERCPに伴う偶発症の頻度はprospectiveな多施設研究では、4.0%、6.7%という報告がある。また、EST後の偶発症に対する多施設研究では、偶発症の頻度は9.8%であり、勝炎が5.4%、出血は2.0%との報告がみられる。 [EBD : Endoscopic biliay drainage] 悪性胆道閉塞に対する stentingで, plastic stent の問題点は clogging であり、改善策として大口径化を目指した self-expandable metal stent (SEMS) が登場した。一方、SEMSの欠点はメッシユ間隙からみられる tumor ingrowth であり,カバータイプ(CMS:covered expandable metals tent)の出現により改善されている。SEMSの問題点は抜去,再挿入などの自由度の低い点,高価である点、胆管や十二指腸粘膜の損傷のリスクなどが挙げられる。また、CMSは胆嚢管の閉塞による胆嚢炎,逸脱,迷入などが指摘されている。 これまでの報告による plastic stent の開存期間の中央値は、10F以上に限定して検索すると3-6ヶ月であり,これに対しSEMSの開存期間の報告は6-9ヶ月の成績が得られている。悪性肝門部狭窄では複数本の stenting が必要となることが多い。切除不能な肝門部胆管癌を中心とした内視鏡治療を検討した。SEMS (Niti-S) 2本を用いてY字型に留置を施行した20例(YMS群)と、Plastic stent 2本を用いて両葉ドレナージを施行した37例(PS群)を比較すると、YMS群のstent開存期間は平均250日でありPS群の115日を有意に上回っていた(P= 0.0061) 。 閉塞性黄痘で発症した切除不能膵癌では化学療法の前に滅黄術が必須であり、最適なstentを選択することが重要である。減黄後にGemcitabine化学療法(GEM) を施行した36例とhistorical control を比較すると、CMS-GEM群の stent 開存期間の中央値は13.6ヶ月であり、Plastic stent-GEM群より長い結果であった。 GEM施行群では生存期間の延長が確認され、継続投与や患者のQOL改善のためには長期間存の期待できるCMSを選択するべきである。 [ESBD : Endosonography-guided biliary drainage] 十二指腸狭窄や乳頭部浸潤などで、ERCP自体が施行できない場合は、経皮経肝的な穿刺ドレナージが行われてきた。近年、EUS下に行う穿刺機器や処置具が発達し、経消化管的な胆道穿刺ドレナージが可能になった。方法はEUSを使用して穿刺後、ガイドワイヤーで胆管内腔を確保し、テーパードや拡張用バルーンを用いてstent を留置する方法である。偶発症としては胆汁漏出,出血,穿孔,ワイヤーの逸脱などが報告されている。 当センターで非切除悪性胆道狭窄にESBDを施行したのは42例であった。このうちにSEMSを21例に留置し、16例は内視鏡的胆管腸管吻合を目的とし施行し、5例は腫瘍を介して順行性に留置した。One-stepでSEMSを留置したのは7例で、最終的に plastic stent 留置後2期的にSEMSを留置したのは14例であった。標的胆管は肝外胆管80%、肝内胆管20%であり、手技は全例で成功した。内視鏡的胆管腸管吻合を目的とした16例の長期経過は良好で、2例にstent閉塞、1例に逆行性胆管炎がみられたが、平均開存期間は433日であった。 [胆道癌に対する化学療法] 当センターにおいて切除不能の胆道癌に対する化学療法の成績をretrospectlveに検討した。切除例・非切除例に対して、GEM単剤療法を基本として53例、S-l単剤療法を61例に施行していた。1クール以上遂行できた非切除胆道癌55例で1次治療の有効性を検討すると、奏功評価可能であったGEM群21例、S-l群17例では奏効率(CR+PR)はそれぞれ、10%、18%、病勢コントロール率(CR+PR+SD)は、81%、88%であった。生存期間中央値はhistorical controlであるBSC群9.4ヶ月に比較すると、GEM群16.6ヶ月、S-l群11.5ヶ月と長かった。原発部位別に生存期間を検討すると、肝外胆管癌のGEM群はmedian-OSが24.1ヶ月、肝内胆管癌ではS-l群が25.5ヶ月と長かった。また、胆道癌ではGEM投与後のS-l投与にて生存期間延長の上乗せ効果が期待できた。 [最後に] 近年、胆道癌に対する各種画像診断の発展は目覚ましい。原発部位に応じた診断,治療の strategy が必要で、可能な限り患者負担の軽減を計ることが重要である。また、胆道癌に対する術前や化学療法施行時には、適切な内視鏡的ドレナージが必須となることが多く、その後の対応も迅速に行えるようにしなければならない。 |
講習のポイント 1.大腸早期癌のリンパ節転移の危険因子は、SM浸潤度1,000μm以上、脈管侵襲陽性、 低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌、浸潤先進部の簇出(budding)Grade2/3である。 2.直腸癌では、腫瘍の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なっ てくる。 3.大腸癌の分子標的治療薬として、bevacizumab、cetuximab、panitumumabがあり、それ らのうち、cetuximabsとpanitumumabはKras野生型の症例にのみ適応がある。 |
キーワード 1.SM癌 2.腹腔鏡下手術 3.側方郭清 4.分子標的治療薬 |
1 .はじめに 高齢化と食事の欧米化を背景に、大腸癌は増加の一途を辿っており、2001年には、大腸癌の罹患数は毎年10万人を超えるようになっており、2020年には、胃癌、肺癌を抜き、男女をあわせた日本人の癌罹患数、罹患率でともに1位になると予測されている。大腸癌の臨床は日進月歩であり、近年では診断の面ではPETなどの画像診断技術の進歩、治療の面では腹腔鏡下手術の普及、新しい抗癌剤の導入が顕著である。大腸癌の標準的治療方針を提示し、大腸癌治療における施設問格差を是正するために、大腸癌研究会によって大腸癌治療ガイドラインが作成され、治療の均てん化がはかられている。しかし腹腔鏡下手術の適応,遠隔転移に対する治療方針、大腸癌術後補助化学療法、進行・再発大腸癌への化学療法の選択などにおいて、施設問較差は依然として大きい。本講演では、大腸癌に対する現時点における治療法選択および治療の原則について解説する。 2.大腸癌治療における基本方針 大腸癌の治療は,外科的切除が第一選択である。大腸癌の病期(進行度)は、壁深達度, リンパ節転移の有無とその範囲,および遠隔転移の有無によって決定される。切除可能な遠隔転移をもつ患者には,原発巣と遠隔転移巣の切除を同時あるいは分割して施行する。切除不能の遠隔転移をもっ患者に対しても、有症状の原発巣に対しては外科的切除を施行することを原則としているが、病状および患者の全身状態により施行しない場合もある。近年では分子標的治療薬(bevacizumab、cetuximab、panitumumab) の導入により切除不能の大腸癌に、まず化学療法を行い、切除可能とした上で外科的切除を行う、いわゆる conversion therapy が注目を集めている。いずれの治療法の選択においても、ほほ全例において癌の告知と病状、治療法の詳細な説明を行い、その上で患者本人の選択を最優先して施行されるべきである。大腸癌における治療法選択のアルゴリズムを図に示した。アルゴリズムにおける適応決定の基準の詳細を以下に示し,解説する。 3 .外科的切除における術式選択基準 1 )大腸早期癌の治療 内視鏡的摘除、外科的局所切除の適応 大腸内視鏡検査,注腸, EUS、直腸指診による壁深達度診断を総合し、壁深達度がSMまでで内視鏡的切除が可能と判断された病変に対しては、内視鏡的摘除を施行する。内視鏡的摘除が不能な早期直腸癌に対しては、可能なら経肛門的切除などの局所切除が施行される。完全に切除された標本に対して病理組織学的な検索を行い、垂直切除断端陽性の場合、および完全摘除がなされている場合でもリンパ節転移の危険因子を有する場合には追加腸切除を行う。大腸癌治療ガイドラインでは、リンパ節転移の危険因子として、@SM浸潤度1,000μm以上、A脈管侵襲陽性、B低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌、C浸潤先進部の簇出(budding) Grade 2/3を取り上げ、ひとつでも認めれば、追加腸切除の適応としている。 2) 大腸癌のリンパ節郭清 大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は、術前および術中所見における腫瘍の壁深達度とリンパ節転移度から決定される。 ・リンパ節転移を認める場合は、D3郭清を行う。 ・リンパ節転移を認めない場合は、壁深達度によって郭清度が異なる。 M癌はリンパ節転移がなく、リンパ節郭清を要しない。SM癌は約10%のリンパ節転移頻度であり、2群までにとどまることが多いため、D2郭清の対象となる。MP癌もD2郭清が基本となるが、D3郭清を行う施設も多い。SS以深の場合はD3郭清を行う。直腸癌では、腫療の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なってくる。Rs,Ra癌では肛門側直腸間膜を3cm,Rb癌では2cm切除することが望ましいとされる。また、腹膜翻転部より肛門側に下縁を持つ進行癌の場合には側方郭清が必要となる。 3) 腹腔鏡下手術と開腹手術 大腸癌治療ガイドラインにおいては、手術チームの習熟度に応じた適応基準を個々に決定すべきであると規定しており、施設によるぱらつきがかなり見られる。腹腔鏡下手術は結腸癌およびRS癌に対するD2以下の腸切除に適しており、 Stage 0〜Stage 1 がよい適応であるとされているが、年々拡大傾向にあり、D3を伴う腹腔鏡下結腸切除術もかなり一般的になりつつある。一方、直腸癌に対する腹腔鏡下手術も行われるようになってきているが、下部直腸癌に対して腹腔鏡下に側方郭清を行うことはかなりの習熟度を必要とするため、術前化学放射線治療等によって側方郭清の省略が可能かどうか注目されている。 海外の大規模RCTにおいて、結腸癌およびRS癌に対する腹腔鏡下手術の有用性が開腹手術との比較で検討され、短期成績の優越性、合併症発生率および長期予後の同等性が報告されている。 4. Stage IV大腸癌の治療 大腸癌の遠隔転移好発部位は頻度の高い順に,肝,肺,腹膜播種、骨,脳である。肝,肺転移、腹膜播種の一部については切除により根治が期待できる場合もあるが、腹膜播種、骨,脳転移の多くは、全身的な多発転移の一環であり根治は期待しにくい。治療法選択について、図に示した。 1)肝転移 肝転移は大腸癌の同時性遠隔転移のなかで最も頻度の高い転移形式であり、その頻度は大腸癌全体で10.7%、直腸癌では9.5%とされている。治療法としては肝切除、肝転移巣のラジオ波凝固、全身化学療法、肝動注療法が行われている。非切除例では、無治療の場合の50%生存期間はl年未満であるが、近年の分子標的治療薬を含む有効な化学療法が施行された場合では2年を突破してきている。治療法としては、肝切除術が最も効果的な治療として確立しており、治癒切除された場合は40%前後(5年生存率は手術適応の違いにより幅があるが25〜50% ) の長期生存が期待できる。肝切除術の適応基準としては、肝転移が肝に限局しているか、肝外病巣があってもそれが根治的に切除可能であること、肝転移巣の完全な切除が可能で、残肝機能が十分であることが重要である。術式としては、肝部分切除と系統的肝切除があるが、転移性肝癌に対しては、現在一般的には部分切除が選択される場合が多くなっている。切除後の再発は残肝再発と肺転移再発が多く、肝切除後の補助療法の工夫が必要と考えられる。 手術適応がないと判断された症例には、全身化学療法を施行するのが一般的である。肝動注療法は、全身静脈投与に比べて奏効率では優るが延命効果は少ないとされている。切除不能例を全身化学療法や肝動注による縮小効果で切除可能とし、肝切除を施行したConversion therapyの場合の予後は通常の肝切除例と同等か若干劣るとされるものの、非切除例と比較すれば有意に良好であり、注目されている。 2)肺転移 肺転移の多くは、原発巣の術前あるいは術後経過観察中に、通常無症状で発見される。大腸癌の同時性肺転移は肝転移に次いで多く、肝転移巣からの二次的転移としても起こりるが、肝転移を伴わずに肺転移のみをきたすことも多く、その頻度は大腸癌全体で1.6%、直腸癌では1.7%とされている。 肺転移巣の治癒切除がもっとも有効な治療として確立している。肺転移に対する手術は、原発巣および肺以外の遠隔転移が根治的に切除でき、手術による肺機能の損失が少なく転移巣の根治性が高い場合に行われている。術式としては、末梢に位置する場合には胸腔鏡下で自動縫合器により楔状切除が行われ、肺門部に近くて部分切除が困難な例、腫瘍径が大きいものには開胸下の肺葉切除、肺切除が選択される。 根治的肺切除例の5年生存率は手術適応により幅があるが25〜60%である。両側転移例、縦隔リンパ節転移例、肺以外に転移巣のあるものは予後不良である。肺転移が切除できなかった場合、抗癌剤の全身経静脈投与が行われる。 5 .大腸癌の抗癌剤補助化学療法 病理組織学的病期がstageIIIa,stageIIIbの症例については抗癌剤による術後補助化学療法を施行するのが一般的である。stageIIの症例については、ハイリスクのものを選別して施行してよいこととなっているが、ハイリスクのコンセンサスは確立していない。 推奨される術後補助化学療法:投与期間6カ月を原則とする ・5 - FU/ LV療法 ・UFT/ LV療法 ・capecitabine療法 ・FOLFOX4療法またはmFOLFOX6療法 6. StageW大腸癌の化学療法 切除不能とされたStageW大腸癌については腫蕩増大の遷延、症状のコントロールと延命効果を期待して抗癌剤による化学療法が施行される。国内外の第V相試験により生存期間の延長が検証され、現在国内で使用可能な一次治療レジメンとしては以下のものがあげらる。ただし、cetuximab,panitumumabはKRAS野生型の患者に適応がある。 ・FOLFOX療法±bevacizumab ・CapeOX療法±bevacizumab ・FOLFIRI療法±bevacizumab ・FOLFOX療法±cetuximab / panitumumab ・FOLFIRI療法±cetuximab / panitumumab ・5 - FU+LV療法±bevacizumabまたはUFT+LV療法 おわりに 大腸癌の近年のトピックは、腹腔鏡下手術と化学療法の急速な普及と進歩であり、大腸癌患者の QOL、予後に大きな変化をもたらしてきている。臨床医は常に最新の知識を得る努力が必要である。 |
『予防接種まちがい防止チェックリスト』 ワクチン接種前の最終確認! 接種前のひと呼吸、しっかりチェックしましょう。 |
□ ひと呼吸! 確認するのはあなた○○○○○○です。 ・それぞれの職種の方が、接種の前に意識して確認しましょう。 □ ひと声かけて!確認しましょう! 母子手帳と予診票 【氏 名】 ・ 「被接種者」 と兄弟姉妹を間違えていないか、予診票で確認しましょう。 【年齢と接種量】 ・ 「被接種者の年齢」 に応じた 「接種量」 であるか確認しましょう。 【接種間隔】 ・ 「前回ワクチン接種」 と 「適切な間隔」 であるか確認しましょう。 □ ひと目見て!確認しましょう! ワクチンラベル 【ワクチンラベル】 ・ 「有効期限」 を確認しましょう。 ・ 接種希望の 「ワクチンの種類」 であるか確認しましょう。 (「バイアルキヤップ・ラベル」 と 「予診票」 の色を確認しましょう。) □ 同時接種を行う場合は、もう一度、はじめから確認しましょう! |
「接種まちがい防止の実際」についてのまとめ ◆1.各施設の実情にあった『チェックリスト』を活用する。 ◆2.『母子手帳』を予診票と照らし合わせてよく調べる。 (母子手帳を持参しなかった場合は接種を行わないほうが無難。) ◆3.ワクチン接種の前には、保護者、本人、医療スタッフで 大きな『声を出して確認する』。 ◆4.『医師は、ワクチン接種直前にもう一度母子手帳を見て』 適切な接種であることを確認する。 『誤接種防止は、母子手帳の確認に始まり、終わる』 |
総まとめ ◆1.接種まちがいは、健康被害としては皆無〜軽微かもしれないが、 子どもと保護者そして医療従事者の苦痛は小さくない。 ◆2.わが国の定期(公費)ワクチンの正常化により、 接種まちがい(誤接種)は一時的に増加するおそれがある。 ◆3.接種まちがいの防止の基本は、 ・人(接種される子ども) ・物(接種するワクチン) ・時(母子手帳と予診票からの過去の情報) を医療スタッフ・保護者といった大人が各自責任を持って確認する ことに尽きる。 ◆4.接種まちがい防止への取り組みが、日本の予防接種の普及と医療事故 全般の防止につながっていくことを期待したい。 |