消化器内科の説明/塚本内科消化器科
消化器内科とは、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化管や、肝臓、胆道を主とした
消化器疾患を対象に、内科の立場から専門的に診断と治療を行います。
消化器病専門医とは、日本消化器病学会によると「消化器病専門医は、内科あるいは外科専門医の見識を基本として、さらに消化器領域の疾患と病態を系統的に理解し、高い専門性をもった医療を提供して市民の健康に貢献する。内科の中で最も受診する機会が多い診療科の1つであり、活動は多岐にわたるが、消化器診療に関連する新しい医学、医療を学ぶ姿勢を持ち、チーム医療ならびに病診・病病などの連携医療、予防医療を過不足なく遂行する使命がある。」
人間の消化管の長さは、なんと、口から肛門までの約9メートル近くにもなるのです。消化器内科は口からお尻までの食べ物が通る約9メールの消化管(口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、直腸、肛門)と、それに連なるだ液腺や肝臓、すい臓、胆のうなどの消化器を含んだ、広い領域の病気を、内科的に扱う科です。
消化器内科を受診される患者様は、無症状の方から、腹痛、吐血、下血、だるさ、食欲不振、貧血、やせ、黄疸など幅広い症状の方がいらっしゃいます。消化器内科の病気だと思っていない方でも、身体の調子がわるいな…と思って一般内科を受診される方の半数以上(60%)が、自覚はないものの、消化器内科の病気であることが多いのです。また、日本人のがんの約60%は消化器のがんであり、早期であれば外科手術をせずに消化器内科的な治療(内視鏡下粘膜剥離術=ESD・肝がんのラジオ波焼灼術など)で治せることが多いのです。消化器領域には様々ながんが発生しますが、内視鏡検査などで多くは早期発見可能です。
当院の院長は、消化器内視鏡専門医の資格を有しており、いわば消化器内視鏡のプロです。昭和56年に大阪医科大学を卒業して以来、初期研修医時代から39年間、毎日、消化器内視鏡を修練してきました。
当院では、鎮静剤(ジアゼパム)静注を用いた鎮静下『NBI拡大上部消化管内視鏡検査』を基本としております。1996年に開院以来、現在までに12000人を超える方々がこの方法で胃内視鏡検査を受けていますが、ほとんどすべての方が、苦痛なしに終わっています。検査したことを、殆ど覚えておられません。
検査直後に、検査画像のプリントアウトとコメント(A4ファインフオトペーパー品質)をお渡して、パソコンの大画面液晶モニター画面も見ていただきながら、検査結果を説明いたします。
この検査法では、内視鏡をのどから入れられるときに現れる血圧上昇などの反応も抑えられ、安全性も高い方法です。今まで胃内視鏡は怖いから嫌だと敬遠していた方、どうぞご連絡下さい。
鎮静剤の拮抗剤も用意してあり、更に安全を期しております。
なお、内視鏡検査時には、血圧・心電図・経皮動脈血酸素飽和度・脈拍数・呼吸数などの『生体モニタリング装置』(NIBP)を使用しながら検査実施しますので、安全性がより高くなっております。
また、当院では、大腸がんの早期発見に有効な『NBI下部消化管内視鏡検査』を行っております。
消化器疾患の診断に、当院では、更に、腹部超音波検査・上部消化管造影検査・下部消化管注腸造影検査・ヘリコバクターピロリ検査「尿素呼気試験」を駆使して、診断にあたっています。また、公立刈田綜合病院・みやぎ県南中核病院と連携して、腹部CT検査・腹部MRI検査・内視鏡的胆管膵管造影検査・血管造影検査ができる体制になっております。
★消化器内科の対象疾患は、次のような疾患です
消化管の疾患(食道の疾患)=逆流性食道炎、胃食道逆流症、GERD、食道潰瘍、食道がん、早期食道がん、食道アカラシア、食道裂孔ヘルニア、など。
消化管の疾患(胃の疾患)=胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃ポリープ、ヘリコバクター・ピロリ感染症、慢性胃炎、機能性ディスペプシア、出血性胃炎、蛋白漏出性胃腸症、胃がん、早期胃がん、胃MALTリンパ腫、など。
消化管の疾患(大腸・小腸の疾患)=大腸がん、早期大腸がん、イレウス、虫垂炎、食中毒、O-157、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群、虚血性腸炎、腸管出血性大腸炎、腸結核、腸ベーチェット、大腸憩室症、など。
消化器の疾患(肝臓の疾患)=脂肪肝、急性肝炎、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変、肝がん、早期肝がん、
非アルコール性脂肪性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害、体質性黄疸、肝膿瘍、など。
消化器の疾患(膵臓の疾患)=急性膵炎、早期慢性膵炎、慢性再発性膵炎、慢性膵炎、膵がん、小膵がん、など。
消化器の疾患(胆道系の疾患)=閉塞性黄疸、胆のう結石症、胆のうポリープ、胆のう腺筋症・急性胆のう炎、慢性胆のう炎、総胆管結石症、胆道炎、胆のうがん、胆管がん、など。
★消化器内科では、次のような症状を扱います
★当院塚本内科消化器科の消化器内科で実施する主な検査には、次のようなものがあります
最近の消化器内科に関して、当院院長が勉強してきたこと・・・・・・
(2013/10/12土曜分)
【第21回 JDDW日本消化器関連学会週間】(244KB)の教育講演会(147KB)参加のため、東京(品川)へ日帰り出張だ。
教育講演1 9:00 - 9:50 第1会場:グランドプリンスホテル新高輪国際館パミール/北辰 「消化器癌のサーベイランス」肝がんサーベイランス 2013 司会:名越 澄子 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科 演者:佐田 通夫 久留米大・消化器内科 本邦の原発性肝がんによる死亡者数は年間3万人を超えており,男性は死因の第4位,女性は第5位である.肝がんは,早期発見により外科的切除術やラジオ波焼灼療法などの根治的な治療が可能となることから,肝がんサーベイランスは予後の改善に繋がると考えられる.肝がんは慢性肝疾患患者に高頻度に発症する.しかし,その頻度は一様でないことから,サーベイランスの手法は肝疾患の成因と肝線維化の程度により異なる.科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(日本肝臓学会編)ではB型慢性肝炎,C型慢性肝炎もしくは肝硬変患者を「高危険群」に,B型肝硬変とC型肝硬変患者を「超高危険群」に定めている.高危険群に対しては6ヵ月に1度,超高危険群に対しては3〜4ヵ月に1度の腹部超音波検査と血清腫瘍マーカーによるサーベイランスが推奨されている.サーベイランスを受けていた高危険群の患者は,サーベイランスを受けなかった患者に比べて肝がんが早期発見されるという研究結果がこれまでに多数報告されており,本サーベイランスの有用性が示されている.また,近年,腫瘍マーカー(高感度AFP-L3分画,改良型PIVKA-II)や画像検査(造影エコー,Gd-EOB-DTPA造影MRI)の進歩により肝がんの診断技術は向上している.これらの検査を適切にサーベイランスに組み込むことで,高危険群および超高危険群における肝がんサーベイランスの意義はさらに高まると考えられる.他方,肝がんを発症する患者の特徴が変化していることに留意しておく必要がある.HCV関連肝がんは,これまで肝硬変を経て肝がんを発症する場合が一般的であったが,現在では,肝硬変を経ずに肝がんを発症する症例が増加している.また,インターフェロン治療により持続性ウイルス陰性化が得られた患者からも肝がんが発症する場合があり,これらの発がんの原因として加齢,飲酒,肥満,糖尿病およびその治療薬,潜在性HBV感染などが報告されている.B型慢性肝疾患の治療は核酸アナログ製剤の登場により飛躍的に進歩したものの,未だHBV関連肝がんは減少していない.肝細胞核内のHBV cccDNAと相関する血清HB コア関連抗原は,核酸アナログ服用時における肝がんの発症の危険因子であることが報告されている.このように,各患者に適したサーベイランスを行うためには,肝線維化に加えて,他の危険因子の状態を把握する必要がある.HBs抗原およびHCV抗体が陰性の非B非C肝がんは,近年,その患者数が増加しているだけでなく,進行癌で診断される場合が多い.非B非C肝がんの基礎疾患として自己免疫性肝疾患,非アルコール性脂肪性肝障害,アルコール性肝障害,糖尿病,潜在性HBV感染症などが報告されているものの,これら全ての疾患を有する患者をサーベイランスすることは人的資源や対費用効果の点から現実的でなく,ハイリスクグループ設定のための危険因子の同定が急務である.最近,我々は非B非C肝がんの発症の特徴をデータマイニングにより解析し,非B非C肝がんのサーベイランスに有用と思われる危険因子を同定した.本教育講演では,肝癌診療ガイドラインの肝がんサーベイランスについて概説するとともに,新たな診断法や近年の肝がんの特徴についても紹介する.また,今後も増加が予想される非B非C肝がんに対するサーベイランスについて,当科での研究結果を含めて論ずる. |
教育講演2 9:50 - 10:40 「消化器癌のサーベイランス」胆道癌の診断と治療 司会:滝川 一 帝京大・内科 演者:海野 倫明 東北大大学院・消化器外科学 胆道癌は日本において年間死亡者数は約17000人(第6位)に位置する,決して稀ではない癌腫である.胆管癌・胆嚢癌・十二指腸乳頭部癌がいわゆる狭義の胆道癌であるが,肝内胆管上皮から発生した肝内胆管癌は,取り扱い規約上,肝癌に含まれるが,その由来を考えると広義の胆道癌に含まれるべき癌である.これら胆道癌の治療成績は医学・医療が進歩した現在においてもいまだ不良であり満足すべきものではない.その原因は多岐にわたるが,第一に診断に関する因子が挙げられる.胆道癌の早期診断はいまだ困難であり,黄疸や腹痛などの有症状症例が大部分を占める.高リスク群の絞り込みもいまだ十分ではなく,遺伝要因や環境要因の解析が待たれている.MD-CTやMRI, EUSなどの高細度画像診断機器の発展により局在診断や質的診断の進歩が見られるが,微小な早期癌を発見することは不可能である.また早期診断のためのバイオマーカー研究がなされいくつかの候補が示されているが,いまだに研究段階であり臨床応用にはまだまだ時間がかかるものと思われる.一方,治療に関しても多くの問題が山積している.外科治療の向上により肝門部胆管癌に対する尾状葉併施半肝切除や下部胆管癌・十二指腸乳頭部癌に対する膵頭十二指腸切除などの治療法が確立し,治癒切除率の向上,術後合併症の軽減が図られてきている.診断学の進歩と合わさって,極めて不良であった以前の治療成績は21世紀に入り急速に向上し,5年生存率は40-50%に達するようになった.しかしながら胆道癌の治療は未だに大きな課題を背負っている.第一に切除不能であった胆道癌の予後は極めて不良で,現時点で最も有効であるGemcitabine+CDDP(GC療法)による化学療法を施行しても平均生存期間は1年以内である.より優れた抗癌剤や分子標的治療薬の開発が待たれるところである.第二に,進行癌は治癒切除が行われたとしても多くの症例が再発する.特にリンパ節転移を有している症例は予後不良であり,リンパ行性転移や血行性転移に対する治療戦略確立は急務である.現在,Gemcitabineを軸とする術後補助化学療法の臨床研究が遂行中でありその結果が待たれる.一方,予後不良因子を有する症例,例えばリンパ節転移が高度であるもの,切除断端陽性となる可能性が高いもの,高度な脈管浸潤を有している症例などを,""not optimally resectable""と定義することができよう.これら症例に対しての術前化学(放射線)治療などが検討されており結果が期待される.切除不能症例に対してもGC療法を凌駕する抗癌剤の組み合わせや放射線治療の上乗せ効果の有無,分子標的治療薬の研究開発など,多くの課題が山積している.さらには,発生部位や環境要因,遺伝子変異の有無,バイオマーカー発現等による胆道癌のcharacterizationが行われるべきで,これら科学的因子に基づく個別化治療が望まれている. |
教育講演3 10:40 - 11:30 「消化器癌のサーベイランス」膵臓がんの診断と治療(化学療法を含めて) 司会:横須賀 收 千葉大大学院・消化器・腎臓内科学 演者:古瀬 純司 杏林大・腫瘍内科学 がんの統計によると,わが国の膵癌による罹患数は年間29,025名(2007年),死亡数は年間28,829名(2011年)であり,依然増加傾向にある.また,罹患数と死亡数がほぼ同数であること,切除例も含めた5年生存率が10%以下であることなど,膵癌は極めて予後不良の癌腫である.現在,切除手術が唯一膵癌に対する根治治療であり,早期診断の確立が望まれるが,未だ多くが切除不能の状態で診断されている.1) 膵癌診療ガイドラインの改訂 2013年,膵癌診療ガイドラインが改訂される予定であり,リスクファクター,診断手順,化学療法など新たなエビデンスも出てきている.早期の膵癌診断については,リスクファクターを有する例でのスクリーニングの重要性や早期発見を目指した地域連携の取り組みも行われている.また,リスクファクターのひとつである家族性膵癌ではプラチナベースの化学療法が極めて有効との報告も出てきている.2)切除不能膵癌に対する化学療法わが国では2001年よりゲムシタビン(GEM)単独療法が切除不能膵癌に対する標準化学療法として用いられてきた.その後,新たな治療法の開発が積極的に行われてきたが,必ずしもよい結果は得られていなかった.その中で,上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬エルロチニブがGEMとの併用により,有意な生存期間の延長を示している.わが国でも日本人での安全性確認のための第2相試験が行われ,2011年保険適用が承認された.一方,経口フッ化ピリミジン薬S-1は第2相試験で有効性が見込まれ,2006年適用が承認された.その後,GEM,S-1,GEM+S-1併用(GS療法)の3群による第3相試験(GEST試験)が実施され,GEMに対するS-1の非劣性が証明されたものの,GS療法の優越性は得られなかった.これらのエビデンスにより,2013年の改訂版ガイドラインでは切除不能膵癌に対する標準化学療法として,GEM,S-1,GEM+エルロチニブが推奨されている.最近,海外では5-FU,ロイコボリン,イリノテカン,オキサリプラチンを併用するFOLFIRINOX療法およびGEM+ナブ-パクリタキセル併用療法が相次いでGEMに対して有意な生存期間の延長を示し,わが国でもこれらの治療法が近く導入されるものと期待されている.今後,膵癌治療も多様化が見込まれ,適切な選択と確実な実施が求められるものと考えられる.3) 切除後補助療法の動向GEMが切除不能膵癌の標準治療として確立した後,術後補助療法でもGEMを用いた検討が行われてきた.海外で行われたGEMと手術単独との比較試験(CONKO-01試験),GEMと5-FU+folinic acidとの比較試験(ESPAC-03試験),わが国で行われたGEMと切除単独の比較試験(JSAP-02試験)の結果,GEMが標準術後補助療法として広く用いられてきた. 最近の動向として,海外ではGEM+カペシタビンなどの併用療法やFOLFIRINOXなどによる術後補助療法が行われている.わが国ではS-1とGEMとの第3相試験(JASPAC-01試験)の結果が2013年1月公表された.当初GEMに対するS-1の非劣性を検証するデザインであったが,GEMに対するS-1のハザード比が0.56と有意に良好な成績が得られ,優越性が証明された.2013年改訂ガイドラインでは,治癒切除後の補助療法はS-1が第一選択の治療として推奨されている.現在,直接の抗腫瘍効果の高いGEM+S-1併用を用いた術後補助療法あるいは術前補助療法の臨床試験が進められている. |
教育講演4 14:00 - 14:50 「消化器癌のサーベイランス」食道扁平上皮癌のサーベイランス 司会:屋嘉比 康治 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科 演者:有馬 美和子 埼玉県立がんセンター・消化器内科 食道癌のサーベイランス,特に食道表在癌のサーベイランスには内視鏡検査が不可欠である.ヨード染色とNBIやFICE,Blue LASER imaging (BLI)などの画像強調法併用拡大内視鏡が診断精度の向上に寄与している.食道癌のハイリスクグループおよび,診断経緯,画像強調法併用拡大内視鏡による食道癌のサーベイランスの方法と成績について報告する.1)食道癌サーベイランスにおけるリスク因子:食道扁平上皮癌のリスク因子は,55歳以上の男性,大酒家,ヘビースモーカー,野菜・果物の摂取不足,食道・頭頸部癌の家族歴などが挙げられ,リスク因子が重なるほどリスクが高くなる.飲酒家のなかでもアルデヒド脱水素酵素2 (ALDH2)のヘテロ欠損とアルコール脱水素酵素1B (ADH1B)のホモ低活性型のリスクは高く,現在または飲み始めた1〜2年にコップ1杯のビールで顔が赤くなる体質かどうかが目安になり,赤血球のMCV増大がマーカーとなる.内視鏡所見のマーカーとしては,口蓋や咽頭・食道のメラノーシス,多発ヨード不染が拡がるまだら不染食道があり,これらのサインがある症例は頭頸部癌および,多発食道癌のリスクが高い.2)食道表在癌の発見経緯:食道表在癌の発見には内視鏡検査が必要であることは周知の事実である.2010年1月〜2012年12月に当院で内視鏡治療を施行した表在癌178例でも,177例(99.4%)が内視鏡検査で発見されていた.また,検査を受けるきっかけとなった症状を有した16例中,食道癌が原因と考えられる前胸部違和感や熱い物がしみるなどの症状を示したのは4例(2.2%)に過ぎなかった.150例(84.3%)は症状がないものの,人間ドックや定期的な健康診断,集団検診の内視鏡検査で発見されていた.3)頭頸部癌患者の上部消化管スクリーニング内視鏡検査における食道癌サーベイランス:NBIなどの画像強調法を併用すると,早期食道癌の多くはbrownish areaとなって視認しやすくなるが,これらは通常観察でも十分拾い上げが可能な病変であることが多い.血管変化の乏しい上皮内癌や白色調の病変もあるため白色光観察も重要であり,接線方向になって観察しにくい部位もあるので初回検査時にはヨード染色も併用することが勧められる.頭頸部癌初診患者の初回スクリーニング内視鏡検査における,食道表在癌の拾い上げ診断能を検討した.往路は通常光観察し,復路でNBI/FICE/BLI観察したのち,ヨード染色を行い,2009年12月〜2013年3月に検査を施行した353例中43例(12.2%)に食道癌が発見された.通常光観察で発見された症例が37例(86.1%),NBIが1例,ヨード染色が6例であった.使用機種ではGIF-H260Zを用いた176例中19例(10.8%),EG-590ZWが75例中9例(12.0%),EG-L590ZWが102例中15例(14.7%)の発見率であった.4)食道表在癌内視鏡治療後の多発病変のサーベイランス:食道表在癌内視鏡治療後のfollow up内視鏡は,基本的に6ヶ月ごとに行っている.画像強調法併用拡大内視鏡を用いた内視鏡検査で,異時性多発癌の発見頻度,発見したmodality,症例の特徴を検討した.2006年1月〜2012年10月に内視鏡治療を施行した280例中,多発癌は33例48病巣(11.8%)に認められた.このうち通常光観察で発見したものが37病巣(77%),BLIが2病巣,ヨード染色が9病巣であった.33例中25例(76%)は背景粘膜がヨード染色で高度なまだら不染を示し,そのうちの15例が頭頸部癌合併例であった.食道癌の早期発見には高解像度の内視鏡を使用することが勧められるが,病変の拾い上げには使用している機種に応じた画像強調法の活用が有効と考える. |
教育講演5 14:50 - 15:40 「消化器癌のサーベイランス」胃がんのサーベイランス(診断と治療を含めて) 司会:平石 秀幸 獨協医大・消化器内科 演者:上村 直実 国立国際医療研究センター国府台病院 他のがんと同様,胃がんも遺伝子異常の重複により臨床的胃がんへと発育することが知られているが,H. pyloriの出現によりその概念や診療における対応が大きく変わってきた.本教育講演では,現時点での胃がんのサーベイランスに関する最近の変化を紹介する.1)胃がんの疫学と自然経過悪性腫瘍の中でも罹患率が最も高く,死亡者数は肺がんに次いで2番目である.最近の疫学における動向では,H. pylori感染率の推移と並行して若年者の胃がん死亡率は著明に低下しているが,高齢者の胃がん死亡者数は逆に増加している.胃がんは,分子レベルの発がんから内視鏡で観察可能な大きさに発育するのに10年以上を要すると推測されているが,,H. pylori感染は早期の段階におけるpromoterとして胃がんの発育に関与している.その後,臨床的に内視鏡治療可能な早期がん,外科的切除が可能な早期から進行がん,そして腹膜浸潤や遠隔転移を有する予後不良な進行がんに発育していく.2)H. pylori除菌による胃がんの予防現時点で分子レベルでの発がん予防をヒトで確認する手段はないが,H. pyloriの除菌による胃がん予防が注目されている.中でもEMR後の除菌による異時性胃がんの発見頻度が低下するとの報告が有名であるが,除菌後にも胃がんが発見されるケースもあり,除菌による胃がん予防が完全でない点に注意する必要がある.3)胃がんの早期発見方法H. pylori除菌による胃がん予防が完全でない現在,胃がん対策には早期発見が重要である.わが国は胃がんの最多国であり,従来,バリウム検診を中心として胃がんの早期発見に対する努力が払われてきたが,最近.バリウム検診に多くの課題がみられる.一方,胃粘膜の萎縮性変化を判定できる血清ペプシノゲン法(PG法)と血清のピロリ抗体を利用した『胃がんリスク検診』が注目されている.この方法は,X線や内視鏡のように病変を直接調べるものではなく,H. pylori感染の有無とPG値から背景胃粘膜の胃がんリスクを判定する方法である.今後,胃がんによる死亡者を減少するためには血清学的に判定可能であるPG法と血清抗体法を使用した『胃がんリスク検診』と除菌治療を組み合わせた戦略が必要と思われる.その他,来るべきH. pylori陰性時代を考慮してH. pylori感染に関連のない胃がんについても言及したい. |
教育講演6 15:40 - 16:30 「消化器癌のサーベイランス」大腸 司会:屋嘉比 康治 埼玉医大総合医療センター・消化器・肝臓内科 演者:斎藤 豊 国立がん研究センター中央病院・内視鏡科 【大腸癌の発育進展】大腸癌の発育進展には,以前よりポリープ癌化説が支持され大腸癌における早期診断・治療の中心的役割を担ってきた.一方,工藤らの診断努力により陥凹型早期大腸癌が稀ならず存在することが明らかとなっている.【多施設前向き無作為化比較試験-Japan Polyp Study (JPS)】陥凹型腫瘍の頻度も異なり,内視鏡観察の精度も異なる欧米の知見をそのまま日本に当てはめることには異論があり,日本における多施設共同無作為化比較試験が計画され,すでにRCT後の経過観察を終了した.【多施設における遡及的検討-JPSレトロ】JPSを開始するに際し,6施設おける遡及的検討を行った.Index Lesion;IL(0mm以上の上皮性腫瘍,癌腫)の推定発生率は,A(Pure-NAD )+B(5mm以下腺腫のみ)群;(5%)<C(6mm以上の腺腫切除)+D群(M癌);(13%)と後者が有意に高率であった(p<0.0001.ILの発生率5%以内を許容範囲とした場合の適正な検査間隔は,A群は10年を超えるもののB群では6年,C・D群で3年という結果であった.【ESDとEMRの治療成績】2003年1月から2006年12月までに当院で20mm以上の大腸腺腫・早期癌に対して内視鏡治療を行った553病変中,病理学的に大腸癌治療ガイドラインの治癒切除基準を満たし,6ヶ月以上の経過観察が可能であった373病変(EMR:228病変,ESD:145病変)を対象とし,治療法別の遺残再発率,偶発症,治療時間を検討した.EMR群,ESD群における一括切除率は33% vs. 84%であり,ESD 群で有意に高く,その結果,遺残・再発率はEMR群では14% とESD群の2%より有意に高かった(平均観察期間13.4±7.9, range:6‐40).内視鏡での追加治療で94%は対処可能であったが,1例は浸潤癌として再発し,外科手術を要した.偶発症の観点からは,穿孔をEMR群,ESD群でそれぞれ0.9%,6.2%に,また,後出血をEMR群3.1%,ESD群1.4%に認めた.治療時間はそれぞれ平均29分・108分とESD群では約3倍の時間を要した.【大腸SM癌内視鏡治療後のFollow-up】大腸pSM癌の長期成績(多施設・retrospective)からガイドライン治療の妥当性を検討した.783例のうち経過観察可能症例は123例で,長期成績は再発2例(1.6%),死亡4例(原病死1例),5年無再発生存 93%,5年全生存 97%であった.追加治療が考慮された症例のうち,追加治療非施行群102例と施行群197例において,再発率はそれぞれ5.8% vs 2.5%,5年無再発生存90% vs. 97%と,統計学的有意差はないものの追加手術施行群に良好な傾向にあり,外科手術の意義が示唆された.長期成績の観点からは,ガイドラインに即した治療法選択は妥当であると考えられたが,実臨床においては,経過観察可能群においても再発riskを念頭におく必要性がある.【おわりに】大腸がんの診断・治療・サーベイランスについて述べたが,大腸がんは早期発見・治療することで高率に治癒が期待できる疾患であり,早期発見・診断法の確立と内視鏡的治療法の開発・普及に加え,大腸がん検診の国民への啓蒙が重要である. |
(2013/5/12日曜分)
【第85回 日本消化器内視鏡学会】(外部リンク)=国立京都国際会館の「教育講演」
教育講演 1:「上部消化管腫瘍に対するESDとその先にみえるもの」
東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 藤城 光弘 先生
司会:北里大学 名誉教授 比企 能樹 先生
教育講演 2:「消化管リンパ腫の診断と治療」
九州大学先端医療イノベーションセンタ一 中村 昌太郎 先生
司会:藤田保健衛生大学 坂文種報徳會病院 内科 芳野 純治 先生
教育講演 3:「胃カルチノイドの取り扱い」
横浜栄共済病院 外科 細川 治 先生
司会:新潟大学 名誉教授/株式会社ピーシーエルジャパン病理・細胞診センター 特別顧問 渡辺 英伸 先生
教育講演 4:「カプセル内視鏡の基本と最新情報」
獨協医科大学 医療情報センタ一 中村 哲也 先生
司会:日本医科大学 消化器内科学 坂本 長逸 先生
教育講演 5:「内視鏡医に役立つ統計学」
国立がん研究センター がん対策情報センター 山本 精一郎 先生
司会:防衛医科大学校 三浦 総一郎 先生
教育講演 6:「膵腫瘍に対する腹腔鏡下治療」
川崎医科大学 消化器外科 中村 雅史 先生
司会:九州大学大学院医学研究院 臨床・腫場外科 田中 雅夫 先生
教育講演 7:「消化管のEUS」
ムラタクリニック 村田 洋子 先生
司会:北里大学名誉教授/ 北里大学東病院 内科 西元寺 克禮 先生
教育講演 8:「消化器内視鏡における感染対策」
山梨大学医学部 第一内科・光学医療診療部 佐藤 公 先生
司会:愛知医科大学病院 消化器内科 内視鏡センタ一 春日井 邦夫 先生
教育講演 9:「Barrett食道腺癌内視鏡診断の現況と展望」
国際医療福祉大学 化学療法研究所附属病院内視鏡部 天野 祐二 先生
司会:兵庫医科大学 消化器内科 上部消化管科 三輪 洋人 先生
教育講演 10:「緊急医療における内視鏡診断と治療」
帝京大学医学部附属病院 内科 久山 泰 先生
司会:大阪市立大学大学院医学研究科 消化器内科学 荒川 哲男 先生
教育講演 11:「消化器内視鏡医における臨床研究のあり方,進め方」
浜松医科大学 臨床研究管理センター 古田 隆久 先生
司会:東京医科歯科大学 消化器内科 渡辺 守 先生
教育講演 12:「内視鏡を用いた上部消化管運動機能の評価」
川崎医科大学 総合臨床医学 楠 裕明 先生
司会:名古屋市立大学大学院医学研究科 消化器・代謝内科学 城 卓志 先生
教育講演 1:上部消化管腫瘍に対するESDとその先にみえるもの 東京大学医学部附属病院 光学医療診療部 藤城光弘(ふじしろ みつひろ) 1980年代に開発されたERHSEより端を発し、EMRのー亜型として開発、改良が行われていたESDは、2006年4月に胃・十二指腸、2008年4月に食道においてEMRから独立した手技として保険収載された。ESDの特徴は、病変周囲の粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して切除する技術のため、理論上、切除できる大きさに制限がなく、また、粘膜下層の線維化を有する病変も切除できることにある。現在までに、高周波ナイフ、その他の各種処置具、局注液の開発、更には、最適な治療環境、周術期管理について多くの知見が集積され、本邦を中心に、良好な短・中期の後ろ向き治療成績が数多く報告されている。しかし、食道、胃、十二指腸と其々の臓器で未だに解決しえない問題点が存在するのも事実である。 食道では、術後狭窄の克服が必須であり、病変が3/4周性以上に進展する場合、バルーンによる予防的拡張術を行うのか、粘膜欠損部へのステロイド局注なのか、ステロイド内服なのか、の検証が必要であり、研究段階ではあるが、生体吸収型ステントや生体吸収性ポリマーシートによる食道再生療法なども行われており、近い将来に臨床応用されることを期待したい。 胃では、2010年10月以降、未分化型への適応拡大の舵が切られたが、その検証が急務である。さらに近年では、胃の粘膜下腫湯に対するESD技術と腹腔鏡技術を組み合わせたLaparoscopic and endoscopic cooperative surgery (LECS)、その亜型であり我々が開発したNon-exposed endoscopic wall-inversion surgery (NEWS) なども積極的に行われるようになっている。現在はGISTを主な対象病変としているが、リンパ節転移のない胃癌への応用が最終目標であり、リンパ節転移検索技術の開発と共に、ESDと定型胃切除術の中間に位置する、胃癌縮小手術と位置付けられることを期待したい。 十二指腸では、その安全性と病変自体の生物学的悪性度の観点から、ESDの必要性についても議論がある。私見では球部は胃と同様の考えでESDを行うことが妥当と思われるが、下行脚以深については、分割EMRや外科的局所切除、LECSなど、症例に合わせた慎重な治療適応の選択が求められよう。 今後は、リンパ節転移頻度からみた更なる適応拡大とトレーニングシステムの確立による国内・外への更なる普及が、ESDを巡る共通の課題として模索されていくものと思われる。日本初のESDは、本邦ではすでに成熟期に入った感があるものの、海外に目を向けると、本邦と大きく異なり、主要都市ですらESDが受けられる状況にない。海外へのESD技術移入を目指した、産学官の取り組みをより積極的に行っていくことも我々の責務であると考えている。 |
教育講演 2:消化管リンパ腫の診断と治療 九州大学先端医療イノベーションセンター 中村昌太郎(なかむら しょうたろう) 消化管は悪性リンパ腫の好発部位であり、消化管原発リンパ腫は節外性リンパ腫の30〜50% を占める。消化管腫瘍の中では、リンパ腫の頻度は1〜10% と低いが、日常臨床においては、癌や炎症性疾患との鑑別を要する重要な疾患である。浸潤部位は、消化管の中では胃が最も多く60〜80% を占める。次いで小腸が多く(20〜30%) 、大腸や食道はまれである。しばしば多発し、5〜15% の例では複数の消化管部位に病変を認める。 リンパ腫の診断には病理組織検査が必要である。組織型は多彩であり、WHO分類(第4版,2008年)に従って診断する。消化管ではMALTリンパ腫とびまん性大細抱型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma :DLBCL)の二型が70〜80% を占める。ほかには、濾胞性リンパ腫、T細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫などがみられる。確定診断には免疫組織化学染色が必須であり、特異的な遺伝子異常の検索も有用である。 肉眼分類として確立されたものはないが、演者らは、胃リンパ腫は表層・腫瘤・ぴまん・その他の4型に、腸管リンパ腫は隆起・潰瘍(狭窄・非狭窄/動脈瘤)・MLP (multiple lymphomatous polyposis)・びまん・混合の5型に分類している。組織型と肉眼形態には相関があり、胃リンパ臆のうちMALTリンパ腫は表層型、DLBCLは腫瘤型が多い。腸管リンパ腫は多彩な肉眼形態を呈し、最も多い潰瘍型はDLBCLが大半を占め、びまん型はT細胞リンパ腫とIPSID (immunoproliferative small intestinal disease)、MLP型は濾胞性リンパ腫やマントル細胞性リンパ腫に特徴的である。 リンパ腫の診療には臨床病期が重要であり、消化管リンパ腫はLugano国際会議分類(T,U1,U2,UE,W) に従って診断する。病期診断のためには頚・胸・腹部CT,FDG-PET/CT,バルーン内視鏡やカプセル内視鏡による小腸検査、骨髄検査などが必要である。 胃MALTリンパ腫の第一選択治療法はHelicobacter pylori 除菌であり、60〜80% の例で完全寛解が得られる。H.pylori陰性、進達度SM以上の深部浸潤例やt(11 ; 18)/API2-MALT1転座陽性例では除菌治療が奏効し難い。除菌無効例には、慎重な経過観察(watch and wait) ,放射線療法,化学療法や抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブを用いた免疫療法が選択される。最近、本邦の多施設共同試験で、H. pylori除菌治療後の長期予後がきわめて良好であることが確認された (Nakamura S,et al. Gut 2012)。胃DLBCLに対しては、リツキシマブ併用化学療法(+放射線)が勧められるが、H. pylori陽性の限局例(T/U1期)では、除菌治療で30〜60% の例で寛解が得られる。 腸管リンパ腫のうち、限局例には外科的切除+化学療法が一般的である。T/U1期の濾胞性リンパ腫にはwatch and waitやリツキシマブ単剤療法が選択される。IPSIDや十二指腸・直腸のMALTリンパ腫には抗菌薬治療が奏効することがある。病期進行例には化学療法を第一選択とする。消化管リンパ腫の予後規定因子として、発生臓器(胃より腸が不良),病期,年齢,T/B表現型,組織学悪性度などが報告されている。 以上のように、消化管リンパ腫の治療には多くの選択肢があり、組織型と病期により予後が異なるため、治療前の正確な診断が重要である。本講演では演者の施設における消化管リンパ腫630例の解析結果を中心に、各組織型に特徴的な肉眼形態と遺伝子異常、ならびに至適治療法について考察したい。 |
教育講演 3:胃力ルチノイドの取り扱い 横浜栄共済病院 外科 細川治(ほそかわ おさむ) 福井県立病院 病理 海崎泰治 1907年にOberndorferは「癌に似て、さに非ず」という意味を込めてカルチノイドを提唱した。癌に類似する組織形態を有するが、臨床的に低悪性度の経過をたどる一群の腫瘍を表す呼称である。わが国では直腸、呼吸器、胃、十二指腸、虫垂の順に多く発生している。経験数が少ないこともあり、臨床診断に難渋するのみならず、分類が複雑に入り組んでいることから臨床医にとって本腫瘍を理解し、治療方針を決定することに戸惑いが多い。 胎生学的発生部位に基づき、前腸、中腸、後腸系の3群に分類する方法、組織学的特徴に基づき、充実結節型、索状・吻合状型、管腔状・腺房状・ロゼット状、低分型、混合型に5型に分類する方法に加え、腫瘍細胞の銀反応性、電顕による神経内分泌穎粒の形態的特徴、産生されたアミン・ペプタイドの種類からの区分も行なわれた。さらに2010年のWHO Classificationでは分類上での大きな変化がもたらされ、胃カルチノイドは神経内分泌腫瘍 Neuroendocrin tumour (NET) G1と呼ばれることになり、名称そのものがフェードアウトする気配さえある。 ともかくも、胃に発生したカルチノイドは他臓器のものと異なる。本腫蕩の多くはヒスタミンを分泌するクロム親和性顆粒を持つEnterochromaffin-like cell (ECL細胞)に起源を有し、3つに亜分類される。TypeTはA型萎縮性胃炎を背景に持ち、Type II はZollinger-Ellison症候群に伴い、高ガストリン血症のtrophic action を受けてECL細胞の増殖、過形成、腫瘍化に至る。sporadic なTypeVは悪性度が高い。TypeTは幽門腺領域の非萎縮粘膜に対して高度に萎縮した胃底腺粘膜領域に発生して、多くの場合は1cm以下の大きさで多発する。Type II は高酸分泌能を有する過形成胃粘膜上に診断され、同様に大きくなく、多発する。TypeVは大半が単発であり、背景粘膜に特徴的な所見に乏しく、大きさはさまざまであるが、転移を来した例でカルチノイド症状を有したことも報告されている。3つのTypeの個々の腫瘍の肉眼形態は背景粘膜を除いては違いが少ないが、TypeT,Uにおいては腫瘍周囲の平坦な粘膜からの生検でも増殖性のendocirine cell micro nestsが見出される。 悪性度の高いTypeVに関しては癌と同様の取り扱いが必要となる。他方、高ガストリン血症に伴って発生するTypeT,Uにおいては異なる取り扱いが提起されている。すなわち、腫瘍の大きさや深達度、核分裂像やki67指数などの悪性度により局所管理法としては切除だけではなく経過観察の手法があり、さらに高ガストリン血症に対する対策として分泌領域の幽門洞切除を行なう方法も行なわれている。臨床データに基づいて正確な病型分類を行うことが、胃カルチノイドの取り扱いに関しては重要である。 |
教育講演4:カプセル内視鏡の基本と最新情報 獨協医科大学 医療情報センター 中村哲也(なかむら てつや) 本講演では、まずカプセル内視鏡の基本と国内外における現況を紹介し、ギブンのパテンシーカプセルが認可されたことによって大きく変化したカプセル内視鏡の保険適用について解説する。さらに、カプセル内視鏡の最新情報について紹介したい。 カプセル内視鏡の現況 日本で使用可能なカプセル内視鏡は、2012年12月現在ギブンとオリンパスの小腸用カプセル内視鏡2機種である。また、2012年7月にはパテンシーカプセルが保険適用になった。 海外では韓国製や中国製の小腸用カプセル内視鏡が実用化され、ギブンは第二世代の食道用や大腸用のカプセル内視鏡を開発し、さらに第三世代のカプセル内視鏡の開発を始めている。その上、ギブン、オリンパス共に可動式のカプセル内視鏡を開発し、実用化に向けて検討を重ねている。なお第二世代大腸用カプゼル内視鏡PillCam COLON2は日本での治験が終了し、認可申請中である。 保険適用の拡大 小腸用カプセル内視鏡は、上部および下部消化管の検査(内視鏡を含む)を行っても原因不明の消化管出血を伴う患者に使用した場合にのみ保険が適用され、確定診断済みのクローン病などは禁忌とされていた。カプセル内視鏡のほぼ唯一の偶発症は、滞留(retention:消化管内の狭窄部の口側にカプセルが2週間以上とどまること)である。そこで、滞留をおこさないように消化管の適切な開通性を評価する目的でパテンシーカプセルが開発された。それは小腸用カプセル内視鏡と同じサイズ( 幅約11mm、長さ約26mm)の嚥下可能な崩壊性カプセルで、10%の硫酸バリウムを含むラクトース製のボディとラクトース性のタイマープラグから成り、非溶解性のコ一テイ一ング膜で覆われている。消化管内で30時間以上とどまるとタイマープラグが溶け始め、100〜200時間たつと完全に崩壊する日本独自のカプセルである。パテンシーカプセルを併用することにより、カプセル内視鏡の適用対象は小腸疾患が既知又は疑われる患者に 拡大された。 カプセル内視鏡の最新情報 カプセル内視鏡は1秒あたり2枚の画像を撮影し、最近では1検査あたり最大で10万枚以上の静止画が撮影されるようになった。また、第二世代小腸用カプセル内視鏡では画質が格段に向上している。このカプセル内視鏡画像を読影するのに重要な動体視力を向上させるためには、これまでの内視鏡検査とは異なったトレーニングが必要になる。2012年4月に、世界で初めてのカプセル内視鏡関連学会である「日本カプセル内視鏡学会」が設立された。 おわりに カプセル内視鏡は機器やソフトウェアの目覚ましい進歩により、これまで以上に効率的かっ正確な読影と診断が求められるようになっている。今後、大腸用カプセル内視鏡が使用可能になれば、これまで以上の読影力が要求される。カプセル内視鏡検査に携わる医師は、本学会におけるカプセル内視鏡関連セッションや、日本カプセル内視鏡学会などに積極的に参加して、読影力の向上をめざしていただきたい。 |
教育講演 5:内視鏡医に役立つ統計学 国立がん研究センター がん対策情報センター 山本精一郎(やまもと せいいちろう) 内視鏡医に役立つ統計学 臨床研究の種類を分ける方法はいろいろあるが、疫学・統計学的には次の4つに分けると、必要な研究デザインや仮説、統計手法を整理しやすい。多くの場合、専門分野によって4つのうちよく使う研究の種類があるが、内視鏡医は、4つともよく用いるのではないだろうか。 一つ目は、診断研究である。正確、精確、簡便、侵襲が少ない、使いやすいといった種々の意味でより「よい」診断方法が開発された場合に、病理診断などの至適基準(gold standard) と呼ばれる正診に対してどのくらい一致するかを、感度、特異度といった指標を用いて調べる研究である。どのような診断の場で用いられるのか、検診の場で用いられるかによって、研究対象者、達成すべき感度、特異度の値も変わってくる。 二つ目は治療開発研究である。抗がん剤開発に代表されるような、phase l,2,3 と順に毒性や安全性、有効性を調べ、最終的に既存治療との優劣をランダム化比較試験で検証する研究デザインである。内視鏡や手術の治療開発の場合、この順}に開発を行うことは稀かもしれないが、標準治療になるまでに、安全性の確認と、有効性の検証を行うことが必要なのは同じである。化学療法の場合と異なり、技術のラーニングカーブや標準化、品質管理を考慮した研究を行う必要がある。手術に比較して低侵襲な内視鋭による治療が優れている検証するには、生存期間で劣っていないことを証明する非劣性デザインを用いれば十分な場合もあるであろう。 三つ目は、予後因子研究、すなわち、診断時の情報をもとに予後を予測する方法を調べる研究である。予測される予後によって治療方針を変更する、その集団に対する治療開発を行うことが予後因子研究の目的だとすると、どんな因子で予後が予測できるか、なぜその因子で予測できるのかといったことよりも、(理由はわからなくとも)高い確率で予後が予測できる方法を開発することが目標となる。この際、手元のデータで予測ができることを調べるだけでは不十分で、開発した予測方法が別の対象者(別のデータセット)でも十分役に立つかを調べることが必須となる。分子標的薬の開発に伴い、コンパニオン診断として現在多くの研究が行われている分野である。 四つ目は、病気の原因を調べるいわゆる疫学研究である。ビロリ菌が胃がんの原因であるとか、遺伝的多型によって食道がんに対する喫煙や飲酒のリスクが異なるといった研究である。コホート研究やケース・コントロール研究といった観察研究を行って原因となる曝露(exposure) が調べ、その曝露を除く(もしくは増やす)ことにより疾患が予防できるかを調べるランダム化比較試験を行うことが大きな目的である。内視鏡医が観察研究を行う場合には、内視鏡所見をサロゲートエンドポイントとしたケースコントロール研究が有力な研究デザインとなると考えられる。 これまでの私の経験から、内視鏡医が行うであろう研究と4つの研究の種類との関係を記述してみた。これには必ずしも現状を反映していないところもあると考えることから、今後内視鏡医とよく相談し、学会当日には、より内視鏡医に役立つ研究デザインや統計手法の紹介をしたい。 |
教育講演 6:膵腫瘍に対する腹腔鏡下治療 川崎医科大学 消化器外科 中村雅史(なかむら まさふみ) 九州大学大学院 医学研究院 臨床・腫傷外科 田中雅夫 はじめに:膵切除術は、1930年代から40年代にかけてWhippleらにより確立されたが、その後、胃温存形式や再建法の変遷を経ながらも基本的に大きな変更はなかった。ところで、1987年に腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われて以来、腹腔鏡下手術の適応は消化器外科手術の様々な分野に急速に広がった。膵臓外科分野もこの例外ではなく、1994年にGagnerらが腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術(LPD) 第一例目を報告し、1996年には同じくGagnerらが最初の腹腔鏡下膵体尾部切除術(LDP) を報告した。その後、手術器械の改良も手伝って、LDPの報告例は2006年頃より急速に増加してきている。初期のLDPに関するメタ・アナライシスの結果では、開腹手術と比較してLDPは非劣性であるが優位性は示されていなかったが、最近では、短期成績が開腹手術よりも良好であるとする解析結果も明らかになりつつある。LPDも報告例が増加しつつあるが、周術期の有意性を示す報告はあまりない。このような趨勢の中で、H24年から本邦でもLDPが良性腫瘍に対し保険収載されることとなった。本講演では、保険収載された良性腫蕩に対するLDPの基本事項を中心に、腹腔鏡下膵切除の全般に関して概説する。 LDP:脾摘を伴う術式では内側アプローチが一般的に行われている。脾温存の術式はWarshaw法と脾血管温存術式の2法があるが、可能であれば血管温存術が望ましい。血管温存術施行時は、膵体部中央部で脾血管が膵実質に埋没する構造を認識する必要がある。また、脾動脈のみの温存は遠隔期の静脈瘤出血の危険性があるので、脾静脈を温存できない場合は脾動脈も離断する必要がある。膵液瘻防止策としては、膵の切離時圧縮が重要であるということが報告されているが、硬化膵や厚い膵ではDuVal法に準じた膵断端の内瘻化も考慮する必要がある。現在、浸潤性膵管癌は保険適用ではないが、将来的に適応拡大される場合に重要なポイントとしては、リンパ節郭清の精度と剥離面の癌陰性化がある。このうち、リンパ節郭清は腹腔鏡下胃切除術でほぼ確立されているので、剥離面の陰性化が開腹と遜色ない程度に可能であれば、今後の適応拡大も安全に行えると予想される。 LPD: LPDは未だ実験的な術式であり、その臨床的なメリットも明らかにされていない。このため術式も定型的と呼べるものはないが、咋今報告される術式の多くで膵頭十二指腸の授動を左側より行う傾向にある。これは、腹腔鏡では、臍を中心とした放射線方向への水平に近い視野がより得られやすいということが理由であると思われる。また、同様の理由より、上腸間膜動静脈も左右方向でなく上下方向に並列している脈管として視認されやすい。再建は小開腹下に膵消化管吻合を行う場合と完全鏡視下に行う場合とがあるが、現状では、より安全な再建術式が望ましい。 |
教育講演 7:消化管のEUS ムラタクリニック 村田洋子(むらた ようこ) 超音波内視鏡が開発された当時より、現在まで行ってきた、食道癌の進行度診断を中心に消化管全般に渡って、超音波内視鏡診断(EUS) について報告する。 消化管壁 消化管は粘膜、粘膜下層 固有筋層 漿膜または外膜の構造をしている。超音波は周波数により分解能が異なる。一般的に使用される中心周波数7.5MHzでは、5層構造に分離される。しかし、食道、大腸など の薄い管腔では、3層として描出されることもある。低エコーにみえる固有筋層が最も描出されやすく層をみる場合のメルクマールとなる。その上の粘膜下層は、高エコーとして描出、粘膜は胃の腺組織では、低エコーに描出される。ここに複雑に絡んでくるのが、境界エコーである。境界エコーは周波数が高いほど、薄く、低いほど厚い境界エコーが生じる。従って20,30MHzを使用した場合は、層の分解は良く、境界エコーの幅も薄くより病理組織に近い像が得られるようになる。また、均一な組織は内部にエコーを反射するものが無い場合は、低エコーで均一に、内部に血管、繊維組織のある場合は反射するため、ややエコーレベルが高く、脂肪組織などは、高エコーに描出される。層構造を読むときは、まず、ビームが垂直に入射されているかどうか、固有筋層の低エコーはどれかを目安に、その上の高エコ一層を粘膜下層、その上の低エコー層を粘膜として読影すれば良い。 深遠度診断 癌腫は低エコー腫瘍として描出されることが多いが、この低エコー腫瘍がどこまで層を破壊し、どの層が保たれるかによって診断する。癌巣が薄い粘膜癌は、周波数が低ければ描出が難しい。正常の粘膜より厚く、または低エコーに描出される。癌巣が薄いものは、癌の反応による細胞浸潤リンパ濾胞形成なども診断を難しくする。 粘膜下腫瘍 腫瘍がどの層由来か、腫瘍のエコーレベル、構造より組織診断が予測できる。この場合もどの層と連続しているかが重要となる。良悪性の鑑別には経時的な大きさの変化と穿刺細胞診による判定が必要になる。 リンパ節転移診断 メルクマール臓器を目安に、どのリンパ節が腫大しているか診断する。リンパ節の形態から転移の可能性が示唆される。正確な診断は穿刺細胞診により腫瘍組織を獲得する。 機能診断 噴門部の形態の3次元表示や、形態の動きを観察する事により、機能診断も可能となる。上記診断につき、重要な点、困難な点につき述べる。 |
教育講演 8:消化器内視鏡における感染対策 山梨大学医学部 第一内科 光学医療診療部 佐藤 公(さとう ただし) はじめに 内視鏡検査は消化器疾患の診断と治療に不可欠のものとなっており、スクリーニング検査から、外科手術に比べて侵襲性が低いなどの理由から日和見感染をきたしやすいハイリスク患者に対する内視鏡治療まで、さまざまな医療場面で用いられている。 院内感染対策の中で最も基本となるものは接触感染予防であり、その中心になるのは「汗を除くすべての体液は感染源となりうる」という標準予防策(standard precaution)の概念である。体液との接触が避けられない消化器内視鏡に求められる感染対策とはどのようなものであろうか。本教育講演では、内視鏡医および内視鏡室の責任者として知っておくべき、ガイドラインを踏まえた消化器内視鏡の感染対策および残された課題を解説することで、その責を果たしたい。 消化器内視鏡に伴う感染の実態と本邦における対応 消化器内視鏡に関連した感染としては、文献的には細菌、真菌、ウイルスの感染の報告がある。アメリカにおける消化器内視鏡に関連した感染の頻度は180万件に1件程度とされるが、この数値には報告されない、あるいは認識されない感染症が相当数存在することが指摘されている。高水準消毒が普及した1993年以降の消化器内視鏡に関連した微生物の伝搬のほとんどが、誤った感染予防策や内視鏡や不適切な付属品・処置具の洗浄・消毒と関連している。また、ERCPなどの侵襲性の高い手技や鉗子拳上装置などの複雑な構造を有する内視鏡では、感染の頻度が高いことが知られている。 本邦においては、消化器内視鏡の洗浄・消毒の必要性が強く認識される契機となったのは、1980年代半ばから内視鏡検査後に発症する急性胃粘膜病変が多数報告されたことである。後に、その原因がHelico bacter pyloriの内視鏡を介した急性感染であることが判明し、内視鏡の洗浄・消毒を中心とした感染対策への関心が高まっていった。第一次日本消化帯内視鏡学会消毒委員会(委員長:春日井達造)は全国調査を実施し、内視鏡検査を受けた患者の8.5%においてB型肝炎マーカーの陽性化が認められ、グルタルアルデヒドを用いた消毒で感染が防止できることを1985年に報告した。1995年に日本消化器内視鏡学会甲信越支部消毒委員会(委員長:藤野雅之)から本邦初めての消化器内視鏡の消毒ガイドラインが発表された。その後、1996年には日本消化器内視鏡技師会安全管理委員会から、1998年には第二次消化器内視鏡学会消毒委員会(委員長:小越和栄)から、検査間の洗浄・高度水準消毒の推奨、観血的処置に用いられる処置具は減菌あるいはディスポーザブルとすることなどを含む、「内視鏡機器の洗浄・消毒に関するガイドライン」が発表された。2008年に日本消化器内視鏡学会、日本消化器内視鏡技師会、日本環境感染学会が合同で作成した「消化界内視鏡の洗浄・消毒に関するマルチソサイエティ・ガイドライン」では、内視鏡室の環境、検査前・検査時の対応、内視鏡および処置具の洗浄・消毒について具体的な対応が示され、今後更に改定が予定されている。 消化器内視鏡に関する感染制御 一般に感染の成立には、原因微生物の存在と感染成立に十分な量の微生物との接触、感受性部位の存在、感染経路の存在が必要である。感染制御とは、一つ以上のこれらの要素を絶つ対策を意味する。病原微生物の種類、行われる医療行為、宿主の免疫状態などに応じて、感染成立に関わる条件は異なるため、安全性を担保するためには、一定の感染対策を恒常的に行うことが重要である。このためには、スコープの洗浄・消毒だけでなく、内視鏡の検査開始から次の患者に再使用するまでの切れ目のない対応が不可欠である。 医療従事者への感染・有害事象 消化器内視鏡に関した感染には、患者間の交差感染とともに、医療従事者への感染も懸念される。その実態の把握は困難であるが、消化器内視鏡従事者には有意にHelicobacter pylori感染者が多いとする報告もあり、ガウン、手袋、マスクなどの個人用防護具(Personal protective equipment) の使用による接触感染予防が重要である。また、高水準消毒薬の中には刺激性のある薬剤もあり、内視鏡スタッフの限や呼吸器に障害を起こすことがあり、一時社会問題化した。厚生労働省からの通達により、グルタルアルデヒドについては、蒸気曝露を基準値以下に抑え、それを維持できる換気設備の設置が求められている。 おわりに 消化器内視鏡に限らず院内感染対策は、より厳密な対応が求められる傾向にある。内視鏡を含めた医療材料の再処理に関しては、より均ーかつ高い精度で行い、その精度を監査し、記録するという流れが海外を追う形で進行している。医療施設の規模によらず、安全な内視鏡医療を提供するために感染対策の徹底が極めて重要である。 |
教育講演 9:Barrett食道腺癌内視鏡診断の現況と展望 国際医療福祉大学化学療法研究所附属病院 内視鏡部 天野 祐二(あまの ゆうじ) 近年、本邦でもGERD症例の著しい増加とともに、Barrett食道、更にそれを母地とするBarrett食道腺癌症例が増加しつつある。現在、欧米で最も増加率の高い癌がBarrett癌となっており、Barrett食道症例の死亡率も一般人口の25倍に上昇していることを鑑みると、本邦でも真撃な態度でBarrett食道・腺癌に向き合うべき時期に来ていると思われる。Barrett癌はSM浸潤とともに予後が急激に不良となることが報告されているが、DMM症例でも10数%に脈管侵襲を認めるなど、より早期に発見し、内視鏡治療を行うのが理想であることは言うまでもない。今回、Barrett食道及びBarrtt癌内視鏡診断のポイントなどについて現況と将来の展望を解説する。 1. Barrett食道の内視鏡診断 内視鏡的にBarrett食道を診断するためのlandmarkが、本邦では食道柵状血管の下端、欧米では胃縦走襞の最口側となっていることが、臨床の場に少なからず混乱を与えている。柵状血管を観察するにあたって、胃内の空気を少なくし、被検者に深吸気をしてもらうことで、被検者聞の観察環境をほぼ一定の条件に揃えることが可能である。しかしながら、LSBEでの観察率は低く、また逆流性食道炎による炎症の強い粘膜、異型性病変が存在する場合には観察できない。胃の襞口側端の診断一致率は、静止画像では食道柵状血管のそれよりも高いが、術者間での観察空気量の違いが診断一致性を大きく妨げる。後者のlandmarkを用いたC&M分類がglobal consensusを得つつあるが、柵状血管に重きをおいた内視鏡診断は、微小Barrett食道腺癌を診断する上でも意義は深く、早期にBarrett食道における低い内視鏡診断一致率を解決する必要がある。 2. Barrett食道腺癌の内視鏡診断 Barrett癌は食道前壁から右側壁に多いことが知られており、この部位を丹念に観察することが肝要となる。通常光内視鏡診断では、柵状血管の不自然な消失・発赤が重要であり、初期微小癌の発見に繋がる。色素内視鏡を含めた広義のimage-enhanced endoscopyは、Barrett癌を効率よく発見する上で有用であることは衆目の認めるところであり、積極的に併用すべきである。Mucosal及ぴcapillary patternの詳細な観察は、Barrett癌の存在診断や範囲診断をより正確なかつ簡便なものにするが、pattern分類は確立されておらず臨床応用には未だ問題点も多い。食道学会では拡大内視鏡診断基準の作成が始まっており、今後の動向を注視していきたい。また、本邦も内視鏡サーベイランスが必要な時期に来ていると思われる。SSBEが圧倒的に多い特徴などを考慮し、高い内視鏡技術を駆使した本邦独自の効率の良いサーベイランス法を確立する必要がある。 |
教育講演 10:緊急医療における内視鏡診断と治療 帝京大学医学部 内科学講座 久山 泰(くやま やすし) 我が国の緊急医療において消化管疾患は高頻度でありかつ多岐にわたっている。救急疾患を扱う医療機関では、常時内視鏡を用いた処置が可能な体制が必要である。ここでは当院の診療体制を示しながら、緊急医療における内視鏡の関わりについて述べる。 当院では、独歩の消化器疾患患者は、日中は内科外来、夜間はER外来に来院する。救急車の場合はER(2次救急)及び救命救急センター(3次救急)が窓口となっている。いずれも初療を外来担当医が行い、日中は消化器科病棟責任医師に、夜間はオンコール医師(指導医1人+卒後3-6年目1人)に連絡、緊急内視鏡の必要性を判断する。消化管出血症例については、採血検査(血液型判定、クロスマッチ採血)、レントゲン等の他、可能な限り腹部造影CT検査を施行し、疾患の診断及び現在の出血の評価を行う。上部消化管止血(非静脈瘤疾患)では、止血クリップ、高張エピネフリン局注の{也、アルゴンプラズマ凝固による焼灼法を頻用している。内視鏡止血が困難な症例では、外科当直医及び放射線オンコール医師と連絡をとり、動脈塞栓術や緊急手術を行う。緊急に減圧術が必要と判断された腸閉塞症例では、まず透視下でのイレウス管挿入を試みるが、挿入困難例では内祖鏡下で挿入を行っている。消化管異物についてはCTで評価を行った後に摘除の必要があると判断された場合には、外科当直医と連携しながら内視鏡的除去を試みている。 急性化膿性胆管炎など胆道緊急症については、可及的速やかに内視鏡による胆道ドレナージを試みる。高齢者が多く抗血栓薬を服用している症例も少なくなく、また情報が不十分である場合もあるため、当院では緊急時には原則としてドレナージのみを行い、後日除石などの治療を行っている。また敗血症を伴っている重症例も少なくないため、必要に応じて他の消化器医や内科当直医に応援を要請し、安全面に配慮しながら施行している。 最近の傾向として、大腸憩室出血などの下部消化管出血及び急性胆管炎が増加している。いずれもより労力及び技術を必要とするため、緊急を担当している医師の負担が増加している。日常業務を行いながら夜間のオンコールにも対応しているが、緊急症例が増加傾向であり過剰労務の傾向にある。コメデイカルスタッフも含め、全病院的な体制作りが必要と考える。 |
教育講演 11:消化器内視鏡における臨床研究のあり方、進め方 浜松医科大学 臨床研究管理センター 古田 隆久(ふるた たかひさ) 消化管疾患は患者数も多く、また、疾患構造も時代とともに変遷しており、当然のことながら、内視鏡検査の診断機器、治療法の開発が必要であり、そのための研究も盛んに行われている。研究成果を実臨床に応用するためには、有効性・安全性を実際の患者さんで検証されることが必要であり、そのためには、質の高い臨床試験によってエピデンスとして認められる必要がある。 ヒトを対象とした試験である臨床試験では、守られるべき原則がある。ひとつは、倫理的原則である。ヒトを対象とした試験である以上、倫理的な配慮のないプロトコールでの試験はありえない。また、科学的原則も重要である。用いる手段全てが科学的に検証されており、解析も正しい統計的手法によらなくてはならない。そして、データの信頼性である。当然、人の行う事であるから、エラーはつきものであるが、そうしたエラーが排除され誤差の少ないデータでなくてはならない。この3つの原則を守ってできた臨床試験の結果こそあらたなエビデンスとして認められるのである。 内視鏡検査を用いた臨床試験では、いくつかの独自の問題点がある。評価項目に内視鏡所見がある場合には、病変の写真の質、発見率等は個々の症例の違いに加えて術者の技量に影響する。検査時間等も同様である。機器の使い勝手の評価も術者で異なるであろう。所見の記載にしても、用語の統ーはしていても個々で解釈が微妙にことなるため、バラツキがおこりやすい。数字では表現できない内容が多く、いかに普遍性・再現性のある評価を行っていくかがポイントとなる。 内視鏡検査を用いる臨床試験ではそうした内視鏡検査独自の問題点があるためいくつかの工夫がされている。内視鏡所見が評価項目の場合には中央判定といって術者とは別に数名の内視鏡医が合議制で写真のみに基づいて所見を判定している。なるべく術者間での評価の差を少なくするための試みである。大腸ポリープの経過観察での研究でも大腸内視鏡を2回行ってクリーンコロンとするなど、ヒューマンエラー(ここでは見落とし)を極力少なくする試みがされている。エビデンスの高いデータを創るためにはその他にも様々な工夫が必要であろう。 さて、しっかりとした臨床研究で得られたエピデンスは、患者さんや担当医が臨床的な決定をする際の根拠となる。すなわち患者さんに説明するときのデータなのである。この場合、最も重要なことはそうしたエピデンス創りに自らが参加・協力することである。自らの参加したデータであれば、高い説得力で患者さんに説明できるであろう。 今後も多くの大規模な臨床研究が行われるであろうが、消化器内視鏡学は医学分野の中でも日本が世界で最もリードしているところであり、日本が最も優越性をもてる分野である。今後も日本が世界をこの分野でリードしていくためにも消化器内視鏡分野において質の高い臨床研究を行っていく必要がある。 |
教育講演 12:内視鏡を用いた上部消化管運動機能の評価 川崎医科大学 総合臨床医学 楠 裕明(くすのき ひろあき) 近年の内視鏡機器の進歩はめざましく、それに伴う消化管疾患の診療技術の進歩には目を見張るものがある。しかし、内視鏡では世界をリードする本邦の内視鏡エキスパート達も、消化管運動についての興味は薄く、検査中に実際の前庭部収縮運動を見ながら、その出現頻度や強さに注意を払う内視鏡医は少ない。この理由としては、本邦の内視鏡学が胃癌の診断と内視鏡的治療を中心に発展してきたこと、本邦の内視鏡メーカーがそれを支える多くの新しい技術を開発してきたことなどがあるが、保険適応のある一般臨床で、簡便に実施可能な運動機能検査が無かったことも大きく関与している。従って、本邦の消化管運動研究は多少欧米に後れを取ることとなったが、現在もいくつかの施設で多くの研究が行われている。われわれは体外式超音波を用いて生理的に多くの項目を同時に評価できる方法を考案し、薬効評価などに用いることで、注目されつつあるが、内視鏡を用いて消化管運動を評価する方法もいくつかあり、今回はそれらの方法を解説します。ミンクリア散布で前庭部運動が低下するメカニズムなどの消化管運動機能の基礎知識は、内視鏡医としても必ず役に立つものであると信じます。 ●内視鏡検査で可能な消化管運動のチェック #胃内の観察・・・内視鏡の胃内挿入時に、胆汁混じりの黄色の胃液の貯留や、とき卵状の浮遊物の胃壁付着に遭遇することがある。これは空腹期に十二指腸の胆汁が胃に逆流した証拠であり、十二指腸への過剰酸暴露などで生じる現象です。また、MMCと呼ばれる空腹期の消化管強収縮や幽門輪の機能低下なども関与した現象と言われています。 #前庭部運動の観察・・・ もし、ブスコパン注射などの前処置なしに内視鏡を施行すると、前庭部収縮はl分回に3回の頻度で正確に収縮します。これは胃の拡張刺激によって体上部大彎のトリガーが刺激された結果発生するため、内視鏡で送気した後にも生じます。 #幽門輪の開閉・・・前庭部収縮が幽門輸の2〜3cmまで到達したら幽門輸は閉鎖しますが、これは前庭部が食物を粉砕するために必要な現象です。内視鏡を幽門輸に挿入しようとすると幽門輸が閉鎖する現象は、内視鏡によって収縮と同じ刺激が生じた結果である可能性があります。 ●超音波内視鏡を用いた食道運動の観察 細径超音波を用いて食道の収縮を観祭することが可能であり、水嚥下による食道の収縮による筋層の肥厚を確認することで食道運動を評価可能である。特に内輪筋と外縦筋を別々に評価可能なため、どちらが優位に収縮しているかを判定できる。 ●鉗子口挿入式pHセンサーを用いた上部消化管のpH測定 鉗子口挿入式pHセンサーで内視鏡下に上部消化管の様々な場所のpHを測定する。GERD患者や機能性ディスペプシア患者では、下部食道や十二指腸のpHが健常対象より低いという報告もあり、酸クリアランス能力の評価が可能であると考えられます。 |
日本消化器病学会東北支部 第14回教育講演会テキスト(18.2MB) |
講習のポイント 1.肝硬変の予後は代償性に比し非代償性で極端にあっ化する。 2.肝硬変の基本病態は、肝細胞機能不全、門脈圧亢進、腎前性腎不全、hyperdynamic circulationである。 3.肝硬変の抗ウイルス療法(核酸アナログ、インターフェロンなど)が、発癌のリスク減少 のみならず繊維化を改善する可能性がある。 4.肝細胞癌の危険因子に応じて生活習慣の改善、サーベイランスの頻度の調節を行う。 |
キーワード 1.非代償性肝硬変 2.門脈圧亢進 3.HVPG 4.Hyperdynamic circulation 5.癌化の危険因子 |
1 .はじめに 我が国の肝細胞癌による死亡者数は年間約3万人で,悪性腫蕩のうち肺癌,胃癌に次いで第3位となっている。肝細胞癌は慢性肝疾患を発生母地とする場合がほとんどであり,その代表である肝硬変による死亡も死因全体の第10位である。従って,慢性肝炎から肝硬変への進展とその非代償化および肝細胞癌の発生は,我が国の健康および社会問題上重要な課題であり,各段階に応じた対策が求められている。 2 .肝硬変の予後と非代償性 肝硬変は,肝のぴまん性の線維化と再生結節を特徴とする病理学的な診断名であるが,その臨床症状・症候は無症状から昏睡まで極めて幅広く,予後も大きく異なる。D'Amicoによるシステマティックレビューによると,代償性肝硬変の生存期間の中央値は12年以上であるのに対し,非代償性では2年以下と大幅に低下している。また, 5年生存率は代償性肝硬変の75%に対し,非代償性肝硬変では25%と低下しており,経過中も代償性を維持した例と比較するとその差は更に大きくなっている。 また,死亡例のほとんどは,代償性肝硬変から非代償性肝硬変へと移行した後,肝不全で死亡するという経過をとると言われ,静脈瘤の出現,腹水の出現,静脈瘤出血と非代償化の段階を経るに従い,1年間の死亡率が急激に上昇する。そして,非代償性の最初の症候は腹水の出現のことが多いと言われる. この様な傾向は,我が国の多施設集計でも示されており,肝移植の時期を決定する根拠にもなっている。すなわち,肝不全死亡例のChild-Pughスコアの経緯をレトロスペクテイブに見ると,スコアは経過とともに緩やかに上昇し, 9点を超えた(すなわちクラスCに移行する) 辺りから急激な上昇に転じ, 6ヶ月後に死亡に至る。 以上のことから,肝硬変の診療においては,非代償性への移行の阻止が重要なポイントとなり,非代償化の機序とその予防法の理解が重要となる。 3. 非代償性肝硬変の基本的病態 1 )腹水の発生病態と非代償性肝硬変 非代償性肝硬変の最初の症候であることの多い腹水を例にとると,その病態生理は概ね図のようになっている。すなわち肝硬変に伴う門脈圧亢進(機序は後述)と肝細胞機能の低下およびこれによる末梢血管拡張物質の貯留が基本的病態である。肝硬変における腹水の起源は主に肝リンパ液の肝表面からの漏出と考えられている。リンパ管あるいは類洞からの血漿およびリンパ液の漏出は,門脈圧すなわち漏出圧が膠質浸透圧(主としてアルブミンによる)を上回ったために起こる(Starlingの末梢血管の法則)。従って,肝硬変における門脈圧の亢進と血清アルブミンの低下(肝細胞機能低下)は,腹水形成に対して少なくとも相加的に関与する.。一方,初期の軽度門脈圧充進に伴い,腸管における血管拡張作用物質産生が亢進し,しかも肝によるこれらの物質の代謝・排世機低下が加わり,末梢血管とりわけ内臓血管の拡張を引き起こす。これにより神経系, レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(ARRS)などを介した心拍出量および心拍数の増加が起こりhyperdynamic circulation が形成される。これと同時に,末梢血管の拡張は有効循環血漿量の低下を招き, RAASやバゾプレシンを介したNa,水の貯留が引き起こされる。このようにして腹腔内に肝リンパ液(腹水)の漏出がおこると,更なる有効循環血漿量の減少を招き,悪循環が形成される。 腹水の発生に関する上述の機序は,腹水に限らず,非代償性の肝硬変に共通して認められる病態であり,形成された悪循環は種々の合併症,非代償性症候の発現に繋がる。 2) 肝性腹水の性状 上述のように,門脈圧充進に伴う腹水は,アルブミンによる膠質浸透圧を門脈圧が凌駕する形で漏出するため,腹水と血清のアルブミン濃度に較差(SAAG) が生じ,一般にSAAG1.1 g/dl以上が門脈圧尤進性腹水の基準とされる。また正常な類洞は基底膜を欠く上に,内皮に無数の小孔を有するため,肝の類洞から漏出する組織間液(リンパ液)には相当量の蛋白が含まれているのが特徴である。 従って,類洞内皮が正常の状態で漏出する後類洞性門脈圧亢進性腹水(心不全や初期のBudd-Chiari症候群)では腹水中の蛋白濃度が通常2.5g/dl以上を示す。これに対して,肝硬変では,肝線維化が進行するため,デイッセ腔が消失し,内皮も小孔を閉鎖して,いわゆる毛細血管化が起こるため,形成されるリンパ液は通常の組織と同様に低い蛋白濃度を示し,腹水も2.5g/dl以下となる。 4. 肝硬変における門脈圧亢進の機序とその臨床的意義 1 )門脈圧充進の機序 肝の重量は体重の約2.0-2.5%の容積であるのに,受け取る血流は平均して心拍出量の約27%程度である. しかも,肝の血流は体位や食事により大きく変化するため,門脈は血管抵抗をダイナミックに変化させて圧を一定に保っている。すなわち正常肝は血流に対して大きなコンブライアンスを有している。しかし肝硬変では上述のように,門脈血流の増大があるにもかかわらず,肝血管のコンブライアンスが低下,肝血管抵抗の増大があるために門脈圧充進が進行する。 肝血管抵抗の増大の機序は,解剖学的および機能的要因の2つが上げられている. このうち肝の線維化と再生結節の形成などに伴う解剖学的機序が主体と考えられ,これに星細胞の活性化および収縮による機能的要因が加わって,相加的に圧が充進すると考えられている。 2) 門脈圧の測定とその臨床的意義 日常臨床での門脈圧の直接的な測定は困難であり,これに変わるものとして肝静脈圧較差(HVPG)が肝硬変の予後と極めて良く相関することが示されている。HVPGは肝静脈に挿入したカテーテル先端の圧センサーで肝静脈圧とバルーン閉塞したときの圧較差として測定する。HVPGの正常値は,1-5mmHgで, 6mmHg以上が門脈圧充進と診断される。しかし食道静脈瘤や腹水発現など臨床的に有意の症状を来しうるのは,10-12 mmHg以上と言われ,これを"Clinically significant portal hypertension (CSPH)" と呼んでいる。事実,HVPG 10 mmHg未満と10mmHg以上では,累積非代償化率が有意に異なることが示されている。また,既にHVPGが12mmHgを超えた肝硬変においては,治療によってHVPGを12mmHg 以下に減少させるか10%以上の低下を得ることにより,静脈瘤出血や非代償化の危険を有意に低下させうると報告されている。従って,肝硬変において,門脈圧(HVPG)のコントロールは,予後を改善する重要な治療目標と言える。 しかし. HVPGの測定は侵襲もあり,我が固においては必ずしも普及しているとは言えず,非侵襲的測定あるいは推測の手段の開発が待たれる。その目的で,超音波による肝の弾性度の測定が検討されている。HVPG 10mmHg あるいは 12mmHg にする弾性度の値は報告によりまちまちであるが,近年,C型肝硬変を対象とした検討でそれぞれ13.6 kPa. 17.6 kPaが提唱されている。 3) 門脈圧允進症に対する治療 肝硬変における門脈圧亢進の機序(上述)に応じた治療法を示す。肝硬変は病理学的,解剖学的に大きな変化を伴うため,肝血管抵抗の増大を標的とした治療に限らず,肝硬変の原因に対する治療が最も重要なことは言うまでもない。これには,抗ウイルス療法(ウイルス肝炎),アルコール中止(アルコール性),ステロイド(自己免疫性肝炎),潟血(ヘモクロマトーシス),銅キレート(Wilson病)などの効果が報告されている。また,肝硬変および門脈圧尤進の増悪因子として,肥満,アルコール摂取が報告されており,食事(カロリー,塩分制限を含む),運動,アルコール摂取などのライフスタイルの改善の意義が提唱されつつある。かつて,肝硬変は病理学的に不可逆の病態と言われていたが,原因治療により線維化も含めた病理学的所見の改善が見られることが報告されている。 門脈血流の増大に対する治療法としては,古くから非選択制のβ遮断薬であるプロプラノロールの有効性が示されている。これはアドレナリンのβ1受容体(心拍,心筋収縮)およびβ2受容体(末梢血管拡張)の両者に対する阻害作用が,肝硬変におけるhyperdynamic circulation を抑制する目的に合致しているためで,欧米を中心に広く使用され,有効性の評価も多数報告されている。 しかし,HVPGの目標達成率は必ずしも高くなく,低血圧,気管支喘息など禁忌症例も少なくない。 アンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)は,星細胞の活性化および収縮抑制作用により肝類洞血管抵抗と肝線維化を抑制すると言われる。中等度から高度の門脈圧亢進を有する患者のHVPGを losartan が45%程度低下させるという報告がなされた。その後のシステマティックレビューではChild A の症例で有効と評価されている。一方では,アンギオテンシンIIは腎糸球体の輸出細動脈の収縮作用が強いため,この抑制はGFRを低下させる可能性があることも指摘されている。 5 .肝細胞癌の危険因子と予防対策 わが国における肝細胞癌の約90%がウイルス性慢性肝障害を発生母地とし、そのうち最も多いC型肝硬変においては年約7%程度の率で発生することは周知の事実である。また、近年は非アルコール性脂肪性肝炎からの発癌の増加も指摘されている。これまで、肝硬変の成因,性,年齢,肥満など疫学的な観点からの危険因子が明らかにされている一方で,近年ではGWASにより,肝細胞癌の疾患感受性の高い SNP が報告されるなど,発癌予測がより精密に行われる可能性が生まれている。 さらに,発癌の分子機構に関わる遺伝子異常の研究から,炎症や肝細胞再生,酸化ストレスと発癌との関連が明らかにされつつあり,分子標的治療のみならず発癌予防の標的も示されつつある。 これまで肝細胞癌の発症率を抑制する事が示されている治療法は,B型慢性肝炎に対するインターフェロン療法や核酸アナログ製剤, C型肝炎に対するインターフェロン投与および著効(SVR),瀉血療法,肝硬変に対するインターフェロン少量長期投与,分岐鎖アミノ酸製剤,非環式レチノイド(二次予防)などである。 6 .肝細胞癌のサーベイランス 上述のように、肝細胞癌は危険群がほぼ特定されている極めて特殊な癌である事から、これを対象とした頻回のサーベイランスを可能にしている。すなわち、危険群を絞り込み、事前確率を高めた上で、繰り返し検査を行うことにより、癌の検出の精度を高めている。 肝細胞癌の腫蕩体積倍加時間 (DT) は報告により開きがあるが、平均で30-600日と報告されている。腫瘍を球体と仮定した場合、その直径の増大速度は、10mm を起点とした場合、体積2倍で12mm、4倍で16mm、8倍で20mm、16倍で26mm となる。従って、仮に 10mm で見逃したとすると、DTの4倍 (4期間) を経過すると 26mmに達していることになる。 DTが仮に90日 (3ヶ月) とすると、1年で局所療法の選択を変更せざるを得なくなる可能性もある。事実、B型肝硬変に対する 6ヶ月毎の超音波検査と AFPによるサーベイランスで、有意に死亡率を減少させたと報告されている。 日本肝臓学会の「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2009年版」による肝細胞癌診断アルゴリズムを示す。基本的には、超音波検査で結節の存在診断を行い、dynamic CT あるいはMRI で質的診断を行う。検査の間隔は、高危険群では6ヶ月、超高危険群では3-4ヶ月を推奨している。 |
講習のポイント 1.ischemic/reperfusion injuryの対策を知る。 2.種々の肝切離手技について習熟する。 3.新しい用語を習得する。 4.vascular control手技に習熟する。 |
キーワード 1.ischemic/reperfusion injury 2.Parenchymal transection 3.Liver volumetry 4.Pringle's maneuver 5.Pre-conditioning |
1 .はじめに 1886年Luisにより初めて肝切除が施行されたが、術直後出血で患者は死亡した。最初の肝切除成功例は1888年Langenbuchにより施行された症例であるが、やはり、出血で再手術されている。当初より肝切除術では出血のコントロールが大きな問題であったことがわかる。1908年Pringleにより肝十二指腸間膜遮断による出血コントロールが記載され、この手技は現在も多くの症例で採用され、出血コントロールに役立つている。最初の成功例以来124年が経過し、肝切除成績は飛躍的に改善したが、これは、肝解剖の理解、術前・中・後管理、肝切除手技、などの進歩により、術中出血量の低減、術後肝不全の減少、が得られたことに寄与するところが大きい。本セミナーでは、腹腔鏡下肝切除手技を除いた、肝切除全般に関わる最近の進歩について概説することにする。 2. Brisbane 2000 Nomenclature of Liver anatomy and Resections 2000年Brisbaneで開催された第4回国際肝胆膵外科学会においてLiver anatomyとResectionに関する新しい名称が提唱された。アメリカ、アジアを中心にして、2006年までの約80%の論文で使用されるようになった。このterminologyはさらに普及する傾向にあり、改めて使用を推奨したい。 3. Liver volumetry 肝切除術式は肝機能と予定切除肝容積を照らし合わせて選択される。したがって、肝容積測定は肝切除術前に必須の検査と言える。以前は、2D-CT画像をなぞり、volumeを算出していた。Sectorの容積は正確に測定できるが、亜区域の測定はできなかった。現在は3D-CT画像に基づき、門脈枝一本一本の支配容積まで semi-automated に測定することができる。さらに、生体肝移植では、グラフト選択のほか、肝静脈枝のドレナージ領域容積を算定し、枝の再建の必要性を評価することにも役立てられている。術前肝容積測定は保険算定もできるようになっており、各施設で正確に亜区域まで評価できる体制が必須である。 4. 門脈塞栓術 門脈塞栓術は、righthepatectomy, right lobectomyの安全性を増すうえで有用な手技であり、無水エタノールなどを用いて、各施設で工夫して施行されている。最近、門脈結紫術を応用した新しい術式が報告されている。Schnitz bauer らは、right lobectomyで切除可能な腫瘍を有する症例に対し、体重に対する left lateral lobe 容積の比が0.5以下の場合、初回手術時に門脈右枝を結紮し、in-situに肝鎌状間膜に沿い、肝実質を切離することにより、急速な left lateral lobe の肥大が得られ、平均9日後に二期的に right lobectomy を安全に施行できた、と報告している。患者は、動脈血で栄養されるright liverと全門脈血を受けるleft lateral lobe で耐術することになる。肝切離しているので、S4の再生・肥大はなく、門脈右枝とP4に対して門脈塞栓術を施行した状態に近似している。その機序は現時点では不明だが、left lateral lobe の急速な肥大が得られ、この二期的肝切除術は残肝容積が小さい症例で有用な可能性がある。 5. Vascular control 出血は肝切除後の予後に影響する最も重要な因子である。肝切除を安全に施行し、出血量を軽減するためには、様々な出血コントロール手技に精通していなくてはならない。 1) Pringle' s maneuver 最も施行されている出血量軽減手技である。15分クランプ、5分解除で施行することが多いが(intermittent clamp)、欧米では肝切離完了までクランプすることもある(continuous clamp)。クランプ解除中に出血量が増すことが危倶されるが、総出血量、輸血頻度に関し、intermittent群とcontinuous群で差がなかったと報告されている。 Continuous Pringle により、肝切離の中断はなくなるが、手術時間の短縮には繋がらないとも報告されている。慢性肝障害例では、intermittent Pringleのほうが有用であろう。 2) 片葉阻血 S8切除で前区域と後区域の境界の肝切離をする際、Pringle法を施行しても良いが、右肝を栄養する脈管のみをクランプするだけで肝切離は可能である。Fogarty鉗子を用いて右ないし左を栄養する脈管を一括遮断し肝切離を施行する(30分遮断、5分開放)手技が片葉阻血である。Pringle法に比較して肝障害を軽減できると考えられている。 3) Glissonian pedicle clamping 高崎らにより開発されたGlissonを一括処理して肝切除を行う手技である。 right paramedian sectorectomy,right lateral sectorectomy、などに有用であると報告されている。 4) Total hepatic vascular exclusion 肝へのinfiowとoutfiowを完全に遮断する手技である。利点として、肝静脈の逆流による出血および空気塞栓の減少、が挙げられる。しかし、技術的に難しく、心拍出量、血圧は40-60%に減少し、それに伴い、頻脈などが起こり、約15%の患者しか耐えられないと報告されている。さらに、術後合併症の増加、手術時間の延長、など欠点も多い。 5) Hanging maneuver 多くの場合、右肝静脈と中肝静脈の間で、下大静脈前面の無血管領域にテープを通し、釣り上げるhanging maneuver により、肝授動をすることなく、出血量を軽減させ肝切除を施行することができる。また、深部では肝切離の方向性を確認するうえで有用である。テープを通す部位を適宜変え、工夫することにより様々な肝切除手技に応用可能である。 6. Ischemia reperfusion injuryの軽減 肝流入血遮断手技はischemia-reperfusion injury(I/R injury)を併発し、術後肝機能不全に繋がる危険がある。このI/R injuryを軽減するために様々な工夫がなされている。 1) Pre-conditioning ClavienらはRCTにより、30分間の連続遮断に先立ち、10分間のクランプ、10分間の解除を施行することにより、特に若い症例でI/R injuryを軽減することができたと報告している。しかし、meta-analysisによると、intermittent Pringleに比較して、出血量で差が無かったとも報告されている。また、肝移植においては、Andreani らにより preconditioning の効果が検討されている。彼らは、阻血障害、primary graft non-function、急性拒絶頻度 、morbidity,mortality において優位性を見いだせなかった。現時点では、肝移植において、ischemic preconditioning の有意な効果は認められていない。肝臓外科における血流遮断を利用した pre-conditioning 効果については今後も検討する必要がある。 2) Pharmacological preconditioning Ratを用いた動物実験で、肝阻血前に isofiurane を導入することによりI/R injuryから肝細胞を守る効果があることが報告された。この結果に基づき、isofiurane などの麻酔薬を preconditioning に用いたRCTが報告されている。Beck-Schimmer らは、Propofol を用いた麻酔において、30分以内の肝阻血前に3.2vol % sevoflurane を30分導入することにより pharmacological preconditioning の効果が得られ、ASTの上昇、合併症率を低減できたと述べている。薬による I/R injury の軽減は新しい概念であり、今後普及する可能性もある。 3) Post-conditioning Ishemic preconditioningの不十分な点をカバーするため、post-condi tioningが考案された。reperfusion後、潅流、阻血を繰り返し施行し、I/R injuryを軽減させる試みである。Zhaoらは実験動物モデルで急性心筋梗塞に対する post-conditioningの有用性を示した。 肝細胞の apoptosis を減少させ、I/R injury を軽減させると考えられているが、人間で臨床応用するほど有用な実験データは得られていない。 4) Remote ischemic preconditioning 体の広範囲の組織で一過性の虚血を起こさせることにより、全身に I/R injury に対する防御能を起こさせる概念である。小児先天性疾患の心臓手術では既に臨床応用されている。 7. Parenchymal transection 肝実質切離は出血量に直結する重要な手技である。様々な手技が採用されており、どの手技を用いるにしても、肝要なのは、麻酔医との協力のもと中心静脈圧を5cmH2O以下に抑えておくことである。 1) Crush-clamp technique 最も基本的な肝実質切離手技である。ペアンなどを用いて肝実質を破砕し、残った細い脈管を結繋・切離する。 Pringle法下に施行し、電気メスを用いれば、肝実質の硬度にもよるが、効果的に切離が可能である。 2) Ultrasonic dissection CUSAは肝実質を破砕・吸引し、2mm以上の脈管を露出させ、結紮・切離することにより、出血、胆汁漏を軽減させるうえで有用である。 CUSAは肝硬変の有無に関わらず有効であるが、crushclamp法に比較して、切離に時間はかかる。 同様な原理を用いた Harmonic Scalpel は55500/秒で振動するはさみではさむことにより、3mmまでの脈管をseal し、切離することが可能である。蛋白変性を起こすことにより止血効果が得られるとされている。特に腹腔鏡下肝切除術における肝実質切離に有効である。しかし、harmonic scalpel の使用は、手術時間短縮、出血量軽減、に繋がるが、術後胆汁漏が増加すると報告されている。 3) Sealing devices Sealing装置は切離前に細い血管を seal して肝実質を切離するのに使用される。Ligasure Vessel Sealing System (Covidien,Mansfield,MA,USA)は bipolar 電気メスの原理を応用した seal 装置であり、7mmまでの血管を seal できる。Crus-clamp 法に比較して、出血量、結繋回数の減少に繋がったという報告もあるが、手術時間、出血量は減少しなかったという報告もあり、その有用性に関し今後の検討を要する。 4) Tissue Link 円錐状の先端に水滴を滴下しながら radiofrequency のエネルギーを伝えることにより、鈍的に実質切離するとともに、止血効果を得る装置である。Geller らは、Tissue Linkの使用により、輸血率、胆汁漏、合併症率が減少したと報告している。 5) Radiofrequency-assisted liver resection ラジオ波のプローベを使用して、前凝固し、肝実質切離する方法である。2本のプローベを付けた装置など開発されており、面で前凝固し切離していく。しかし、術後の膿瘍形成、胆汁漏などの頻度が高いと報告されている。 6) Water jet dissection 高圧の waterjet で肝実質を破砕し、血管・胆管のみ剥離・結紮し、その結果、出血量を減らすことを目的としている。剥離してから結紮する点で、seal 装置より時間がかかるが、切離面を明瞭に露出できる、熱ダメージがない、血管を露出させるのに有用である、などの利点もある。Rau らは、CUSA などと比較して、出血量、切離時間を減らすことができたと報告している。 7) Vascular stapler technique Vascular stapler は主要血管の切離に使用されていたが、肝実質切離にも使用されるようになった。 切離予定ラインを大きな鉗子で圧挫した後、連続的にファイアーすることにより肝実質を切離する。 Crush-clamp 法に比較して、手術時間、出血量、輸血率が減少したと報告されている。 8)肝下部下大静脈クランプ 肝実質切離に際し、中心静脈圧を5cmH2Oに下げることが出血量を減らすうえで重要であることは前述した。輸液量を減らす、などの方法の他、肝下部下大静脈クランプは中心静脈圧を下げるのに有用であり、ほとんどの患者で施行可能である。中心静脈圧が5cmH2O以上の症例で施行する意義あり、5cmH2O以下の症例では施行する必要はない。 8 .まとめ 肝切除にまつわる最近の進歩について概略した。一見、変化、進歩が無いように思われる領域でも、日進月歩で進歩が得られていることを肝に銘じて、日々の臨床に臨んでいただきたい。 |
講習のポイント 1.食道癌手術の適応。 2.食道癌手術の実際。 3.補助化学療法・補助化学放射線療法。 4.サルベージ手術。 |
キーワード 1.3領域リンパ節郭清 2.術前化学療法 3.胸腔鏡補助下食道切除 4.食道外科専門医 |
1.食道癌の概説 わが国における食道の悪性新生物による死亡数は、2007年には総数11,699人(男性9,900人、女性1,769人)であり、人口10万人あたりの死亡率は9.3人(男性16.1人、女性3.7人)となっている。(参考:胃癌の死亡率は40.1人)。食道の悪性新生物による死亡数は、全悪性新生物による死亡数の約3.5%であり、悪性新生物のなかで総数では第9位、男性に限ると第6位となっている。食道悪性新生物の死亡率の近年の年次推移は、女性はほぼ横ばい、男性はわずかに増加していることから、全体としてはわずかではあるが増加傾向が認められている。 2. 食道癌の手術適応 食道癌の深達度がT1aのうちEP(M1),LPM(M2)のリンパ節転移率は5%以下であり、内視鏡治療の適応とされている。MM(M3),SM1 (200μm 以内)では、約9〜20%のリンパ節転移があり、内視鏡治療は相対的適応となっている。SM2以深では50%以上のリンパ節転移率があり、進行癌と同様に取り扱う必要がある。したがって、手術適応はT1a-MM以深の食道癌となる。もちろん、全身状態に大きな問題はないこと、本人・家族の同意、承諾が得られることなどの条件がクリアされることはいうまでもない。 近年、化学療法の発達は各臓器において目覚ましいものがある。日本でも、食道癌に対する治療として、欧米で多く施行されている化学放射線療法に高い期待が寄せられ、数年前までは根治的化学放射線療法をまず行い、根治できなかった患者さんのみに手術をすればよいと考える医師が多数いたのも事実である。しかし、その後、晩期合併症が無視できないものであること、根治的化学放射線療法の後に手術を行うサルベージ手術が非常にリスクの高いものであることが認識されるようになり、再び「切除可能な食道癌の標準治療は手術である」といっ意見が主流となっている。 3 .食道癌の手術 食道癌の手術は、主病変のある食道切除とリンパ節郭清、さらに再建からなる。食道癌の存在部位によって、切除範囲や郭清部位、そして再建方法も異なってくる。 1 )胸部食道癌の外科治療 胸部食道癌の外科治療の原則は、食道亜全摘、3領域リンパ節郭清である。すなわち頚部食道以外の食道はほとんど切除し、頚部・縦隔・腹部のリンパ節を郭清する術式である。 @ 到達術式 a. 右開胸・開腹・頚部切開 従来、右開胸は後側方切開で多く行われてきたが、近年ではqualityof lifeも考慮し、前側方切開によって胸筋温存したり、肋骨切離を控えたりするような工夫も行われている。そのために比較的大きな開胸でも、胸腔鏡を補助的に用いることも多い。 b 胸腔鏡・腹腔鏡子術 近年、胸腔鏡を用いた手術が多く行われるようになってきた。手術そのものは通常開胸の手術と変わりなく、郭清程度も変わらないため、侵襲そのものはあまり変わらないといわれている。しかし、実際、胸部の創痛が少ないことで呼吸抑制も少なく、術後の立ち上がり、日常生活動作への復帰も早いのは確かである。 イ左側臥位:従来から行われていた通常開胸の延長として行われている。通常開胸を行ってから、胸腔鏡手術に移行する場合にわかりやすいことと、急な出血にも対処しやすいなどが利点である。また、胸腔鏡でも開胸手術と同じような視野となるため、教育的には良いと考える。 ロ:腹臥位:縦隔が重力でシフトするため、下縦隔の郭清スペースが保たれること、出血した血液が前方に貯留するため、血液が郭清部位の妨げにならないこと、少ない人数で手術が可能であることなどが利点であるが、通常の開胸の視野と異なるので解剖に十分注意する必要がある。 A 切除術式 基本的に頚部食道を除いた食道および噴門部および胃小彎を切除する。後縦隔経路で胸腔内吻合をする場合は、胸部上部の切除をやや控えることになる。 B 郭清術式 3領域郭清:胸部食道癌は広範囲にリンパ節転移を起こすことから、本邦では頚部・縦隔・腹部の領域にわたる3領域リンパ節郭清が広く行われている。これによって良好な成績が発表され、2002年のガイドライン作成以降、日本の標準郭清術式として認められている。 しかし、3領域郭清のevidenceは、無作為比較試験を行っていないため低くみられ、リンパ節郭清をあまり重視していなかった欧米ではあまり受け入れられていない。ただし、Altorki らは Skinner らが提唱した en bloc esophagectomy に頚部郭清を加えて報告し、さらに日本と同様の3領域リンパ節郭清として郭清の有用性を報告している。Udagawaらは、転移度と郭清症例の5年生存率からリンパ節部位ごとに efficacy index を計算し、郭清の有用性、とくに3領域郭清の意義を示した。これは比較的均一の手術方法で広範囲の郭清を行っている施設であることから、信頼性があるデータといえよう。 C 再建術式 a 再建臓器 イ.胃:原則的には、胃を用いて再建することが標準的に行われている。左右の噴門リンパ節、小彎リンパ節を郭清するように胃管を作成する。比較的太い胃管を作成する場合と大彎側の細経胃管を作成する場合がある。 ロ.結腸:胃切除後や胃癌を合併して胃が用いられない場合などは、結腸を用いることが多い。一般的であるが、縫合不全の頻度が高い。 1.回結腸:回結腸動脈を切離し、中結腸動脈を栄養血管茎として、右側の回結腸を拳上する方法。 2. 横行結腸(左結腸動脈):中結腸動脈を切離し、左結腸動脈を栄養血管として、上行結腸から横行結腸を拳上する方法。 3.空腸:有茎空腸を用いるが、血管吻合が必要なこともある。 b 再建経路 イ.胸壁前経路 ロ.胸骨後経路 ハ.後縦隔経路 従来は、美容上の外観、手術の安全性などの理由から、胸骨後経路が多く行われてきたが、近年は後縦隔経路の頻度が増加している。嚥下に有利であるとの理由であるが、逆流が起きやすいことや再発時や胃管病変の処理などに難渋すること、縫合不全の際に重篤になる可能性があることなど、他の方法に比較して一概に優れているとは言いがたい。 2) 頚部食道癌の外科治療 頚部食道癌は進行癌が多く、リンパ節転移の頻度も高いが、頚部に限局することが多い。 @ 到達術式 頚部切開:襟状切開、U字切開などの切開を置く。広頚筋 Platysma まで切開した後、皮膚を上方に翻転し、頚部の術野を展開する。まれに胸部上部に大きな横切聞を置いて、大きな術野を確保することもある。 胸骨縦切開:頚部切聞に加え、胸骨を縦切開したり、逆T型に切離し、観音開きにして、上縦隔の術野を得ることもある。 縦隔鏡:近年では、縦隔鏡や胸腔鏡を用いて、上縦隔の郭清を追加することも行われている。 A 切除術式 イ.喉頭温存手術:喉頭、気管に浸潤なく、腫瘍口側が食道入口部より下方にとどまる症例が適応。 a.喉頭温存頚部食道切除 b. 喉頭温存食道全摘 ロ.咽頭喉頭食道切除(喉頭合併切除) a. 咽頭喉頭頚部食道切除 b 咽頭喉頭食道全摘:胸部食道まで癌が伸展している場合は食道を全摘する。また、食道全体に異型上皮が存在し、いわゆるヨードの斑不染が認められる場合などは考慮される場合がある。 B 郭清術式 頚部食道癌の第1群リンパ節は101、106rec、第2群リンパ節は102、104、105であり、T1b以深の頚部食道癌では頚部郭清に加え、上縦隔リンパ節(106rec、105) のリンパ節郭清が必要である。 C 再建術式 頚部操作のみの手術では、遊離空腸再建が原則である。 食道を全摘した場合は、通常、後縦隔経路に胃管を拳上し、咽頭まで届かない場合は、遊離空腸を間置する。 3)腹部食道癌の外科治療 通常は、下部食道・噴門側胃切除を行う。食道胃接合部癌と同様で、開腹・経食道裂孔によるか、左開胸・開腹によるアプローチが多い。経食道裂孔的に下縦隔の郭清を行う方が、左開胸よりも予後が良いという食道浸潤胃癌に対する臨床試験JCOG9502の結果もあるが、腹部食道癌に対してはいずれのアプローチも使用されている。 縦隔・下部食道へ進展しているようなら、胸部下部食道癌に準じた右開胸・開腹の食道亜全摘手術と郭清が必要となる場合もある。胃への浸潤が大きい場合は、食道浸潤胃癌に準じて胃全摘・膵合併切除を行う。 @ 到達術式 a.左開胸・開腹 b. 経食道裂孔的 c. 右開胸・開腹 A 切除術式 a. 下部食道・噴門側胃切除 b. 下部食道・胃全摘 c. 食道亜全摘 B 郭清術式 a. 下縦隔郭清+胃D1+ b. 下縦隔郭清+胃D2 c.上中下縦隔郭清+D1+/2 C 再建術式 a. 食道・胃管吻合 b. 有茎空腸間置 c. 空腸Roux-en-Y再建 d 結腸再建 4 .偶発症 食道癌の手術は、術後に多くの偶発症(いわゆる合併症)が起こる危険性が高いとされている。 Ando らは、術後の偶発症では呼吸器合併症が19.5%と高く、在院死亡の40〜 60%が呼吸器偶発症であったことを報告している。またGriffinらによると、食道癌根治手術後の偶発症発生率は45%であり、うち呼吸器関連は17%、心血管系は7%であり、やはり呼吸器偶発症が最も問題であった。 1 )呼吸器偶発症:無気肺、肺炎、肺水腫、呼吸不全など。食道癌術後には最も高頻度に起こる偶発症である。 2) 不整脈:頻脈、心房細動など。虚血性心疾患や心不全などに結びつくこともあり、注意を要する。 3)縫合不全:頚部の食道皮膚痩なら自然に軽快するが、縦隔炎を起こすと重篤化する可能性がある。 リンパ節転移のためなどで切離した場合を除き、通常は半年以内に回復することが多い。 4) 吻合部狭窄:器械吻合を行った場合には高頻度に起こることも指摘されているが、手縫いでも器械でも縫合不全や狭窄の頻度に差がないという報告もある。いずれにせよ、狭窄の多くは内視鏡下にバルーン拡張で対処可能である。ただし、頚部や胸部上部に吻合部があるため、嚥下の際につかえや誤嚥をしないように注意深く嚥下させる必要がある。 5)反回神経麻痔(さ声):反回神経周囲のリンパ節郭清を行う際に損傷すると神経の麻痺が起こり、声帯麻痺が起こる。片側ならばさ声で済むが、両側だと気道閉塞の可能性もある。また誤嚥を起こしやすいので、注意を要する。 6) 乳ぴ胸:術中胸管損傷によって、乳ぴ胸が発生する。保存的に経過観察したり、胸膜の癒着療法で軽快することが多いが、手術が必要とすることもある。 7)術死・在院死亡:30年以上前には、食道切除手術は非常に危険な手術とされ、Akiyamaらの術死率3%という良好な報告は世界的に驚かれた歴史がある。その後、Andoらは術死(手術直接死亡) (30日死亡)率1.7%、在院死亡率7.9%と報告している。近年は、欧米でも、術死率2%、在院死亡率4%という極めて良好な報告がなされている。また胸部外科学会の全国調査によると、術死率は、2007年1.2%、2008年1.2%、在院死亡率は、2007年3.4%、2008年2.8%であり、従来に比較すると、また欧米と比較するとはるかに安全に手術が可能となっている。 5. 補助療法 1 )補助化学療法 JCOG 9204試験では、術後補助化学療法としてシスプラチン(CDDP) /5-FU群が対照群に比べて、全生存率では有意の差は認められなかったが、無再発生存率で有意に良好な成績を示しており、その結果より、2007年度版のガイドラインでは、リンパ節転移を有する症例におけるCDDP/5-FUの術後化学療法を推奨されていた。 しかし、JCOG9907試験によって、術前化学療法が術後化学療法より効果的であることが示され、Stage II/III食道癌に対して、術前のCDDP/5-FU投与が標準治療とされている(食道癌診断治療ガイドライン2012年版) 。また、StageIIIでは術前化学療法の予後上乗せ効果はほとんど認められないため、その効果は十分とはいえなかった。したがって、近年はより強力なDocetaxel/CDDP/5-FU(DCF)などの化学療法を術前に施行する試みがなされている。 なお欧米では多くの無作為比較試験がなされているが、これらを基にしたメタアナリシスの結果からは、切除可能例に対する術前化学療法の有効性は明確ではない。 また、JCOG9907試験では、術前と比較して術後の化学療法完遂率が低いことが成績の差となった可能性が指摘され、一概に術後化学療法が無効とは結論できない。 2)補助化学放射線療法 欧米では、術前化学放射線療法を用いた比較試験が多く行われているが、化学放射線療法の術後生存率への上乗せ効果ははっきりしていない。化学放射線療法によって高いpCRが得られ、よく効いた症例では、さらに手術を追加しても生存率は向上しないという主張もある。術前化学放射線療法群と手術単独群を比較したメタアナリシスも数多く行われているが、はっきりとした結論は出ていない。 3年生存率をエンドポイントとするメタアナリシスでは、術後90日以内の手術関連死亡が上昇するものの、局所再発率を低下させ、3年生存率を有意に上昇させることが報告されている。 術後に施行する予防的な放射線治療に関しては、1980年代後半には積極的に行われていた。無作為試験ではないが術後予防照射による生存率の改善や局所再発の頻度を低下させる効果も報告され、またJCOGの無作為比較試験でも術後放射線療法が生存率を改善することが報告された。しかし、海外で行われた4つの無作為比較試験にいずれにおいても、術後照射による局所再発は有意に低下するものの、生存率の向上はみとめられなかった。CDDP導入による化学療法の進歩とともに、予防的な放射線療法はあまり行われなくなっている。 非治癒に終わった症例に対しては、遠隔転移がなければ化学放射線療法は広く行われており、有効であるとの報告も散見されるが、無作為比較試験は行われていない。 6 .サルベ-ジ手術 根治的(化学)放射線療法後の癌遺残または再発に対する手術をサルベージ手術と定義されている。 根治的放射線量はわが国では一般に60Gy以上としている施設が多いが、欧米ではINT0123試験の結果より50.4Gyが標準となっている。したがって、50Gy以上の放射線照射を行った症例に対する食道切除を一般にサルベージ手術としている。 サルベージ手術の術後5年生存率は25〜35%であり、予想以上に良好な成績を示している。しかし、サルベージ手術は決して容易ではなく、目標とするROを達成できないことも多い。非治癒切除率は15〜35%であり、非治癒の場合の予後は極めて不良である。 さらにサルベージ手術では、呼吸器偶発症や縫合不全など術後偶発症の頻度が高いことが指摘されている。気管壊死・穿孔などの組織虚血による重篤な偶発症が多いのも特徴である。したがって、在院死亡率も7〜22%と極めて高率であり、決して安全な手術ではないことに留意しなければならない。 以上より、サルベージ手術によって長期生存が期待できる症例はあるが、リスクが高い手術であることに留意して、慎重に適応を決定する必要がある。 7 .その他の食道癌に対する手術 1 )非開胸食道抜去 頚部食道癌の胸腹部食道切除、胸腹部食道癌で癒着・低肺機能で開胸困難例、高齢者、郭清が不要な表在癌症例などが適応とされてきた。現在は、化学放射線療法やEMR/ESDの普及でその適応が限られている。しかし、一方、内視鏡手術の発達により、縦隔鏡下で従来不能であった郭清操作が可能になってきている。 2)バイパス手術 切除不能食道癌で手術以外の治療でも狭窄が改善しない場合、食道気管凄など経口摂取が不能な症例を適応として、バイパス手術を行うことがある。サルベージ手術時に切除不能と判断された時の姑息的手術として行われることもある。食道ステント挿入術の普及でその頻度は従来と比較すると減少している。 8.食道外科専門医制度 食道癌の手術治療は難しく、かつ手術によって手術成績が大きく異なる可能性がある。また術後も十分な管理が必要であり、生死に関わる偶発症も多い。手術数の多い病院ほど術後偶発症が少ないことが指摘されている。米国における全国的な解析調査から食道切除と肺切除でその傾向が強いことが示されている。英国でも、National Health Service のガイドラインでは、食道切除は大病院で行うことが推奨されている。一方、食道癌治療で生存率を左右するのは病院の手術症例数ではなく、個々の外科医の手術症例数であるとの報告もある。また同じような手術を行っても、術後管理を行うチームによって差が出ることも事実であり、術後管理を行うチームの経験も重要な要素である。 そういう意味でも、食道癌の外科治療ではきちんとした教育や資格が必要な分野であると考える。 そこで、2010年度より日本食道学会の食道専門医制度がスタートした。最初の2年間のみ食道外科暫定専門医を認定し、2011年度がらは暫定専門医による食道外科専門医の認定作業が始まっている。したがって、暫定専門医は、暫定という名称ではあるが、実際は食道手術100例以上、筆頭論文10篇以上という日本の食道外科をリードする指導医である。現在までに、暫定を含め166人の食道外科専門医が認定されており、今後は食道外科医選択の参考にしていただければと考える。 |
講習のポイント 1.ESDの登場に伴い、胃癌の内視鏡診断が著しく進歩した。 2.内視鏡治療適応の原則は、リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除 できる大きさと部位にあることである。 3.ESDの適応拡大病変の問題点を十分に把握しておくことが大切である。 4.ESD後の根治性の評価と切除後の治療方針が重要である。 5.ESDの偶発症として穿孔、術後出血などが重要であり、適切な対応と防止対策が必要 である。 |
キーワード 1.早期胃癌 2.EMR 3.ESD 4.胃癌治療ガイドライン 5.適応拡大病変 |
1 .はじめに わが国の胃癌診療は検診システムの整備・発展や内視鏡機器の進歩により、早期癌が多数発見されるようになり急速な進歩を遂げた。その中で、機能温存かつ根治性を追究した内視鏡治療が広く行われている。 内視鏡治療は、1960年代の胃ポリペクトミーに始まり、1980年代には多田らがstrip biopsy法を開発し、これが内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection :EMR)の原点となった。EMRでは、平坦な病変に対しても病変部の一括切除が可能となり、病理組織学的検討が行えるようになった。しかし、EMRでは一括切除できる大きさに限界があり、分割切除になることもあり、正確な病理診断は困難になり、さらには再発率が高くなるという問題があった。そのような状況の中で病変を一括切除する方法として、平尾らは高張性食塩水局注法(endoscopic resection with local injection of hypertomic saline-epinephrine solution :ERHSE)、すなわち針状ナイフを用いて全周切開を行い、スネアで切除する方法である。しかし、本法では大きな病変の切除が困難であることや、穿孔の危険性が高いことより、一部の施設にとどまった。その後、EMRに際して一括切除の重要性が主張されるようになり、1990年代後半より、細川・小野らにより ITナイフを用いた、粘膜切開後さらに粘膜下層を剥離する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection :ESD)が提唱された。その後Hook ナイフ、フレックスナイフなどが次々と発表され、広く普及しつつある。ここでは、胃癌の内視鏡治療としてEMR.ESDを中心に述べる。 2 .内視鏡治療の適応 日本胃癌学会が発表した「胃癌治療ガイドライン改訂第3版Jによれば、内視鏡治療適応の原則は、「リンパ節転移の可能性がきわめて低く、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること」とある。 1 )絶対的適応病変 2cm以下の肉眼的粘膜内癌(cT1a)と診断される分化型癌(pap,tub)。肉眼型は問わないが、Ul(-)に限る。 2) 適応拡大病変 cT1a, 2cm超、Ul(-)の分化型癌 cT1a, 3cm以下、Ul(+)の分化型癌 cT1a, 2cm以下、Ul(-)の未分化型癌(por,sig) 内視鏡治療遺残再発病変:cT1a,U l(-)の分化型癌 3) 適応病変からみた治療手技 絶対適応病変では病変の性状や術者の技量により、EMRまたはESDが選択されるが、適応拡大病変ではEMRでは一括切除は困難でありESDが行われている。 適応拡大病変に対する標準治療は外科切除であることを留意したうえで行う。 Ul(+)病変は技術的に難しいことが多く、手技や器機の進歩が必要である。 3. 術前検査 内視鏡治療の適応基準である組織型、腫瘍径、深達度、潰瘍瘢痕(Ul)の有無について、術前検査で厳密に診断する必要がある。とくに、病変の範囲や深達度を診断するために、詳細な通常観察に加え、 画像強調観察[色素法、光デジタル法(NBI)、デジタル法(FICE,i-scan) ]、拡大観察などを用いて、内視鏡治療の適応病変(ガイドライン病変または適応拡大病変)に入るかどうかを検討する。病変の境界が不明瞭な場合は、癌の境界の外側で正常と思われる部位から生検し、病理学的に境界を決定しておく。なお、超音波内視鏡は必須ではないが、深達度や潰瘍瘢痕所見の補助診断として有用なこともある。 4 .内視鏡治療の実際 EMR ESDで使用する医療器機、医療材料としては、高周波発生装置、電子スコープ(前方送水機能付き)(病変部位によりMulti-bendingスコープ)、止血用処置具(ホットバイオプシー紺子、止血紺子、クリップ、APCなど)、局注針(25G)、局注液(生理食塩水、グリセオール、ヒアルロン酸製剤など)、CO2送気装置、EMR用処置具(ワニ口把持紺子、半月形スネア、爪付きキャップ、EVL用キットなど)、ESD用処置具(IT系ナイフ、針状ナイフを改良した先端系ナイフ、ハサミ系ナイフなど)、ESD時のカウンタートラクション用処置具(先端アタッチメント、先端細径透明フード、エンドリフタ一、外付け把持鉛子、糸付きクリップ)などがあり、施行する治療手技に応じて準備しておく。 1) EMR EMRの手技としては、Strip biopsy法、透明プラスチックキャップ法(EMRC法)、内視鏡的吸引粘膜切除法(EAM)、食道静脈瘤に対する結紫術を応用したEMR-L法など様々な方法が開発されたが、ESDの登場によりEMRの施行頻度は減少している。しかしながら、EMRは簡便で安全性の高い手技であるので、病変によってESDと使い分けることが望ましい。 2) ESD @ 前処置および術中管理 抗血栓薬服用中の場合は、内服薬に応じて、治療前に一定期間の休薬が必要である。 降圧剤や冠血管拡張剤など、内服が望ましい薬剤以外の内服薬は当日朝より中止する。 前日から術後1ヶ月間、PPIの投与を行う。 ESD前に静脈確保を行い、鎮痙薬、鎮静薬などの静注を行う。当内視鏡診療部では、ソセゴン(15mg) 1Aを静注し、ドルミカム1A+生理食塩水18mlの溶液を呼びかけに応じなくなるまで5mlずつ静注する。治療中に体動があれば適宜追加する。終了後、フルマゼニルで覚醒させる。 術中モニタリングは必須であり、血圧、酸素飽和度、心電図、脈拍はモニターし記録に残しておく。 A ESDの手技 a.病変の観察 術前検査で決定した切除範囲を確認、再度範囲診断を行う。 b.マーキング 病変の辺縁より約5mm程度外側に、針状ナイフやAPCを用いて2-3mm間隔で全周性 にマーキングを凝固波で行う。切除標本の口側と肛側の位置関係がわかるようにいずれかに目印を付けておく。 c.局注 マーキングのやや外側局注針を穿刺し粘膜下層に局注を行い、十分な粘膜膨隆を形成させる。 d.全周切開および粘膜下層剥離 各種デバイスで粘膜を全周性に切開する。粘膜下層に局注を追加しながら、粘膜下層の剥離を進めていく。 当内視鏡診療部では、ESDの工夫の1つとして、2011年10月からカルボキシメチルセルロースナトリウム(sodium carboxymethylcellulose:SCMC )を局注剤として用い、粘膜下層の剥離を施行している。SCMC注入により粘膜下層が浮き上がり、良好な視野のもとに粘膜下層の剥離が安全に行えるようになった。 e.標本回収と粘膜欠損部の処置 標本を回収後、再度スコープを挿入し、露出血管の確認を行い、止血甜子などで処置しておく。 f.内視鏡安全チャックリストとタイムアウト 当内視鏡診療部では、ESDを安全に行うためにチェックリストを用いて、治療直前にスタッフ間での前処置の確認、患者確認、抗血栓薬服用の有無、禁忌薬剤の確認を行い、さらにタイムアウト(モニターが患者に装着され作動しているか、すべてのチームメンバーの名前と役割を確認する、内視鏡治療の方法や予定時間の確認、各種ライン・輸液の確認、予想される重要なイベントの確認など) を行い、ESDを開始する。治療後にサインアウト(検体・標本の氏名と患者氏名が一致しているかを確認、患者の回復および管理について注意すべき問題点を確認)し、最後にそれぞれ署名して終了する。 B 術後の処置 治療当日はベット上安静とし、絶食とする。 必要最低限の内服(胃薬を含む)のみ可とする。 治療翌日に、採血、胸腹部XP施行する。 治療翌日あるいは翌々日より流動食や粥食から開始する。 5. ESD後の評価 ESD後の根治性の評価は、局所が完全に切除されているか、リンパ節転移の可能性がほとんどないか、という2つの因子によって決定され、これらがクリアできて治癒切除と評価できる。 治癒切除の原則は、「腫瘍が一括切除され、腫瘍径が2cm 以下、分化型癌で、深達度がpT1a,HM(-),VM(-),Ul(-),ly(-),v(-)である」と定義されている。 適応拡大病変の治癒切除については、胃癌治療ガイドラインによれば、一括切除でHM(-),VM(-),lyv(-)でかつ以下の基準を満たすものとされている。 @ 2cm超、Ul(-)、分化型、pT1a(M) A 3cm以下、Ul(+)、分化型、pT1a(M) B 2cm 以下、Ul(-)、未分化型、pT1a(M) C 3cm以下、分化型、pT1b( SM1: 500μm未満) ただし、@で未分化成分が2cm超、Aで未分化成分のあるもの、CでSM浸潤部に未分化成分のあるものは、非治癒切除とする。 6. ESDの治療成績 当内視鏡診療部にて2003年7月から2012年9月まで施行した胃ESD症例は571例であった。平均年齢71.9歳(41-86歳)で、平均標本径42.lmm(15-115mm)、平均腫瘍径18.6mm(2-75mm)、一括切除率96.8% (553/571)、完全一括切除率89.6%(493/571)、治癒切除率86.3%(493/571)であった。 7 .偶発症とその対策 当内視鏡診療部で施行した胃ESD症例571例における偶発症は、穿孔16例(2.8%)、術後出血27例(4.7%)、誤嚥性肺炎10例(1.8%)などであった。 1 )穿孔 一般に術中穿孔は1-5%程度と報告されている。当院では2.8%であった。 手術時間が長くなったり、U領域(体上部、体部大彎)の病変、大きな病変、潰瘍瘢痕を伴 う病変など、難易度の高い病変で多い。 穿孔した場合は、クリップで閉鎖し、経鼻胃管による持続減圧吸引、抗生剤の投与、PPIまたはH2受容体拮抗薬の静脈内投与を行う。クリップ閉鎖の方法には、孔をクリップで完全に閉じるいわゆる縫縮術(simple closure) と小網もしくは大網を充填するomental patchと呼ばれる方法がある。ほとんどの場合は保存的に治療可能であるが、重篤な腹膜炎をきたした場合は、緊急外科手術の適応を考慮する。 遅発性穿孔は0.1%以下とされているが、保存的に治療できないことが多く、原則は開腹手術の適応である。 2)術後出血 治療後2週間までの術後出血の報告がある。 切除後の潰蕩面の露出血管を、止血紺子やホットバイオプシー鉗子、APCなどで凝固処置することで術後出血のリスクが減少する。 術後出血防止のためにPPIの投与や生活制限を行う。 8. ESD後の治療方針 1 )治癒切除の場合 年1-2回の内視鏡による経過観察を行い、とくに適応拡大病変では、腹部エコー検査やCT検査を併用することが望ましい。 治癒切除の場合、ヘリコバクタービロリ感染の有無を検査し、陽性者では除菌を行う。 2) 非治癒切除の場合 @ 追加外科手術を必須としないもの 分化型癌を一括切除したが、水平断端(HM)が陽性であった、または分割切除になったものの、HMのみが非治癒因子であるという場合である。このような場合は転移の危険性が低く、患者へのインフォームドコンセント後に、再ESD、切除時の焼灼効果(burn effect)を期待した厳重な経過観察、焼灼法(APC,レーザーなど)の追加、あるいは追加外科切除を選択する。 A 追加外科手術を必須とするもの 上記以外は非治癒切除として追加外科手術を選択する。 おわりに EMRからESDへの内視鏡治療の発展に伴い、消化管癌の内視鏡診断が著しく進歩している。ESDのさらなる先には、NOTES関連手技として腹腔鏡補助下内視鏡的胃全層切除術(laparoscopy-assisted endoscopic full-thickness resection :LAEFR) や内視鏡的全層切除術(endoscopic full-thickness resection :EFTR) が期待されている。 |
講習のポイント 1.2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、早期慢性膵炎という概念が加えられた。 2.早期慢性膵炎の診断には、膵実質の微細な変化を捉えられるEUSの役割が大きい。 3.慢性膵炎への早期医療介入のためにも、早期慢性膵炎の臨床徴候および画像所見を 理解しておく事は重要である。 |
キーワード 1.早期慢性膵炎 2.超音波内視鏡 |
1 .はじめに 慢性膵炎の予後は悪く、慢性膵炎の予後調査によれば、慢性膵炎患者の死亡率は一般人口の死亡率の約2倍とされ、1993年の世界的な疫学調査では、膵癌の発生率は年齢・性別・国を調整した予想発症数の26倍にものぼることが明らかにされた。このようなことから、慢性膵炎を早期に診断し、適切な治療を行うことの重要性が認識されていたが、2009年に慢性膵炎診断基準が改定され、この中で早期慢性膵炎という概念が世界に先駆けて提唱された。これは、慢性膵炎に対するより早期からの医療介入のためにも画期的な改訂であった。早期慢性膵炎の診断においては、微細な膵実質・膵管異常を示す画像が重要視されており、非侵襲的に高解像度で至近距離から膵臓を観察できる超音波内視鏡(endoscopic ultrasound: EUS) の役割が大きい。本稿では、早期慢性膵炎の診断のポイントについて記す。 2 .早期慢性膵炎診断基準 「早期慢性膵炎」とは、膵炎を疑わせる臨床症状や検査値異常、飲酒歴などの複数の因子を有し、EUSや内視鏡的逆行性膵管造影(Endoscopic retrograde pancreatography: ERP) で早期慢性膵炎に合致する軽微な膵実質・膵管異常を呈する疾患群である。早期慢性膵炎診断基準を表に示した。なお、体表からの超音波検査やCTでは早期慢性膵炎の特徴的な画像の描出はできないため、検査法からは除外されている。早期慢性膵炎が通常の慢性膵炎に進展するか否かについては、現在国内でも検討が進められているが、CatalanoらはEUSで早期慢性膵炎(mild chronic pancreatitis : CTやセクレチン試験では慢性膵炎所見が陰性)と診断された37症例を5年間経過観察した結果を報告し、20例でEUS所見の増悪が観察されたとしている。また、このうちの18例ではCTでも慢性膵炎を示唆する所見が出現. 16例ではセクレチン試験で異常値を示したと報告しており、EUSで捉えられた微細な膵実質・膵管変化は、まさに慢性膵炎の初期像である可能性が高いことが示されている。 3.早期慢性膵炎の臨床徴候 早期慢性膵炎診断基準では、臨床徴候として以下の4項目:1 )反復する上腹部痛、2)血中・尿中膵酵素値の異常、3) 膵外分泌障害、4) 一日80g以上の大量飲酒歴、が挙げられている。以下に各徴候と早期慢性膵炎を念頭に置いた考え方について具体的に記す。 1 )反復する上腹部痛 慢性膵炎の腹痛の特徴は「反復する腹痛」である。胃潰瘍などの消化管由来の腹痛の性状とは異なり、痛みの性状の詳細な問診も診断に役立つことが多い。また、上部消化管内視鏡検査や腹部超音波検査を施行しても有意な所見がなく、痛みの原因となる様な器質的な疾患の存在が考え難い場合は早期慢性膵炎も鑑別診断として考えておく必要がある。また、PPIの試験的投与も早期慢性膵炎診断過程においては試みてよい方法である。 2) 血中・尿中膵酵素値の異常 膵酵素異常とは、血中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇あるいは正常下限未満に低下、もしくは尿中膵酵素が連続して複数回にわたり正常範囲を超えて上昇することとされている。しかし、早期慢性膵炎では膵酵素異常が認められない場合も少なくない。 3)膵外分泌障害 臨床診断基準においては、膵外分泌障害はBT-PABA試験で明らかな低下を複数回認めることとされており、確実な再現性が求められている。膵外分泌障害の特徴的な症状としては、脂肪便、下痢、体重減少、栄養障害などがあるが、組織学的にも軽微な変化である慢性膵炎早期の段階で機能障害に関連した顕著な症状を呈する事は少ない。 4) 一日80g以上の大量飲酒歴 前述の反復する上腹部痛を訴える患者を診察する際には、飲酒歴の詳細な問診は不可欠である。純エタノール換算で一日80gの飲酒量とは、概ねビール大瓶3本、日本酒3合、25%焼酎2合、である。飲酒と慢性膵炎EUS所見との関連について、Thulerらは、アルコール多飲者と非多飲者間で慢性膵炎のEUS所見の差異について検討しており、アルコール多飲者で有意にEUS異常所見が観察されたとしている。また、Sahaiらは、1157人の飲酒量とEUS所見を解析し、飲酒量に比例して慢性膵炎のEUS所見数が多くなったと報告している。それほどの自覚症状がなくとも、相当量の飲酒をする患者に対してはEUSでの精査が推奨される。なお、女性は男性に比してアルコールによる膵障害は起きやすいとされている。原因がはっきりしない上腹部痛を訴える女性の場合は、飲酒量が必ずしも80g/日でなくとも早期慢性膵炎も念頭に診療にあたることは重要と考える。一方、Petroneらは、飲酒のみならず喫煙、および年齢も加味した検討を行っており、年齢に伴う膵実質や膵管異常を考慮しても、長期の喫煙とアルコール摂取は慢性膵炎EUS所見(hyperechoic foci やhyperechoic ductal margin) の発現リスクが明らかに高いことを報告している。飲酒のみならず喫煙についても慢性膵炎のリスクファクターであることを認識して問診を行うことは求められる。 4. 早期慢性膵炎の画像診断 1 )基本的事項 早期慢性膵炎の診断基準では、画像診断としてEUSとERPが取り上げられている。いずれも専門施設での特殊検査の類に入るものではあるが、早期慢性膵炎は膵実質の微細な変化を主体とするため、その診断の確実性といった点からこれらの検査が要求されている。一般に施行されている体表からの腹部超音波検査では、EUSで描出される微細な膵実質変化を捉える事は困難であり、前述の臨床徴候から早期慢性膵炎が疑われる場合は、積極的な専門施設への紹介が望ましい。特にEUSは非侵襲的な検査であり、ERPに比してそのハードルは明らかに低い。筆者らの検討では、ほほ同時期に腹部超音波検査とEUSを施行した患者の所見を比較してみると、腹部超音波検査で正常範囲内と考えられた患者のうち、その約半数でEUSでは早期慢性膵炎像を呈していた。すなわち、先述の臨床徴候が2項目以上ある患者(特に大量飲酒者)においては、腹部超音波検査が問題なくともEUSは施行しておいてよい。 2)超音波内視鏡(EUS)所見 EUSは高解像度で至近距離から膵臓を観察できるため、早期慢性膵炎の画像診断に極めて有用な検査法である。正常膵実質は肝臓とほぼ同等かやや高エコーで均一に描出され、fine reticular patternを呈しており、その膵実質エコー内には拡張・蛇行した主膵管や、不整拡張分枝膵管は観察されない。主膵管壁は膵実質に比してわずかに高輝度の均一線状エコーとして観察され、その径は頭部で2.4mm、体部で1.8mm、尾部で1.2mm程度である。これらの所見を基本とし、表に示した様な異常所見が定義されている。 早期慢性膵炎診断基準においては、慢性膵炎の重症度が考慮され、表に示した7項目が挙げられており、特にその中でも蜂巣状分葉エコー、不連続な分葉エコー、点状高エコー、索状高エコーの4項目は特に重要とされている。以下に、正常像も含めた早期慢性膵炎のEUS画像について解説する。なお、各所見の定義はRosemont分類(2009年に提唱された、以前から定義されてきた各EUS所見をその重要度に応じて格付けすることによる新しいEUS診断基準)に則り記載した。 @ 分葉エコー(Lobularity) @)蜂巣状分葉エコー(Lobularity,honeycombing type) A)不連続な分葉エコー(Nonhoneycombing lobularity) 分葉エコーは、膵実質が高エコーの線で分葉状に区切られ網目の様に見えるもので、その線で囲まれた一分葉の大きさは5mm以上であり、膵体尾部に少なくとも3つは見られるものである。3つ以上のLobularが連続性に見られるものが蜂巣状分葉エコーであり、分葉状のパターンに連続性がないものは不連続な分葉エコーと定義される。 A 点状高エコー(Hyperechoic foci: non-shadowing) 少なくとも3つ以上の、陰影を伴わない径3mm以上の点状高エコーである。陰影を伴う点状高エコーは石灰化であり早期慢性膵炎所見からは排除される。 B 索状高エコー(Stranding) 膵体尾部に3mm以上の線状高エコーが3つ以上見られる所見である。索状高エコーはアーチファクトとしても観察される事があり、有意な索状高エコーはその方向性にばらつきがみられる。また、高エコーを呈する膵管壁との区別にも注意しなくてはならない。 C 嚢胞(Cysts) 短径が2mm以上の円形または長円形を呈する膵実質内の無エコー構造物である。その個数に規定はない。 D 分枝膵管拡張(Dilated side branches) 主膵管と交通のある1mm以上の径を持つ分枝膵管拡張であり、少なくとも3本以上の不整拡張分枝膵管が見られる場合を有意所見とする。 E 膵管辺縁高エコー(Hyperechoic MPD margin) 膵体尾部でみられる主膵管の半分以上の範囲で、その壁が高エコーに観察される所見である。 3) 内視鏡的逆行性膵管造影(ERP) 早期慢性膵炎診断におけるERP所見は、主膵管には大きな変化を認めないが3本以上の分枝膵管に不規則な拡張が認められるものである。適切に分枝膵管の拡張を評価するためには、ある程度主膵管内に圧をかけて画像を得る必要がある。 5. おわりに 早期慢性膵炎診断のポイントとしては、1)原因の同定が出来ない上腹部痛を訴える患者では、早期慢性膵炎の可能性を念頭に置く。2) 飲酒歴がある患者や検診等で膵酵素上昇/低下を指摘された患者に対しては、症状がなくともEUSでの精査を勧める。 このような事を念頭に消化器診療にあたることにより、早期慢性膵炎確定の診断は出来なくとも早期慢性膵炎疑いの患者を拾い上げる事は可能であり、この事は長期的に見ても患者にとっては大きな福音になる。EUSやERPによる膵画像診断においては、腫瘍診断という観点だけではなく、早期慢性膵炎診断といった観点からも取り組んでいただければ幸いである。 |
講習のポイント 1.胆道癌の治療方針の決定にはMRCP、MDCTが有用である。 2.胆嚢癌ではEUS、胆管癌ではERCPが診断の基本となる。 3.胆管癌では側方進展の診断が重要で、IDUS、胆道鏡と生検が有用である。 4.化学療法導入のための減黄には、開存期間が長いmetallic stentが有用である。 5.ERCP下胆道ドレナージが困難な場合には、経消化管的なEUS下穿刺ドレナージが用 いられるようになってきた。 |
キーワード 1.ERCP:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography 2.EUS:Endoscopic ultrasonography 3.IDUS:Intraductal ultrasonography 4.EBD:Endoscopic biliary drainage 5.ESBD:Endosonography-guided biliary drainage |
はじめに 本邦の人口動態調査によると、胆道癌の死亡数は2007年度、癌死亡の第6位で全体の5.0%を占めていた。罹患数は年間19000人程度で、癌死亡数と差が少ないことから、胆道癌が予後不良であることがわかる。特に欧米に比べて本邦では胆道癌の発生頻度が高く、高度で着実な対応が望まれる。胆道癌の根治治療は外科手術であるが、本稿では診断のポイントと内視鏡治療に関して述べて行きたい。 I .胆道癌の診断 [胆道癌の拾い上げ] 胆道疾患は胆管拡張などをUSで拾い上げ、病因検索には簡便なMRCPが有用である。MRCPは静止水を画像化するため、黄疸時の閉塞部位と全体像の把握に適している。すなわち拡張した胆管枝の情報からドレナージの適応、方法、ルートの選択など治療のstrategyを組み立てることができる。 MRCPによる悪性胆管狭窄の質的診断能を、胆道ドレナージ施行前に検討すると、胆管癌100%、膵癌86%、乳頭部癌63%と総じて高いレベルにあった。MRCPの診断で注意を要するのは、下部胆管狭窄で直下の胆管虚脱を伴う場合や、乳頭部癌例である。その他の pitfall としては、右肝動脈の圧排による偽狭窄像、Oddi筋収縮による下部胆管偽狭窄像、flow artifact などが挙げられる。いずれMRCPで胆管閉塞が確認されればさらなる精査、加療に進む。 [胆管癌の部位別診断ポイント] ・上部胆管(Bs)癌では右肝動脈浸潤の有無は、肝右葉切除もしくは切除不能の判断根拠ともなる重要な因子である。この判定にはERCPに引き続き、管腔内超音波検査(以下、IDUS)が有用である。 ・中部胆管(Bm)癌は三管合流部となることが多く、予後不良な胆嚢管癌との鑑別が問題となる。胆嚢管癌の画像はMRCP、ERCP ともに片側性の狭窄、平滑、ふた瘤状の圧排像を呈する。 ・下部胆管(Bi)癌は膵癌の他、良性胆管狭窄として慢性膵炎、自己免疫性膵炎(AIP) によるものとの鑑別が必要である。 ・肝門部胆管癌(Bp)の局在は、胆管と周囲脈管が複雑な解剖学的位置を示すため、進展度診断には再構成画像の情報量が多いMDCTが有用である。鑑別診断には原発性硬化性胆管炎(PSC)が挙げられるが、AIPにおける多発胆管狭窄例の86%が肝門部に狭窄を伴っており、血清、組織学的なIgG4検索が必要である。 ・広範囲胆管癌は、表層進展が肝内にみられても顕性黄疸を発現しにくい点や、画像でも腫瘤像として描出されにくいことから発見が遅れることがあり注意を要する。 [胆管癌の進展度診断] 胆管癌は側方進展(表層進展、壁内進展)を伴いやすいという特徴を有し、手術適応や術式の決定にはその診断が重要である。基本はERCPや経皮経肝的胆管造影による直接造影であるが、引き続きIDUSや胆管生検、胆道鏡(POCS)など精密検査が必要となる。胆管癌切除例からIDUSの側方進展の診断能を検討すると、正診率は上流側78%、下流側70%であった。これらは胆管壁への影響を考慮してドレナージ前に評価することが重要である。また、IDUSによる膵浸潤、十二指腸浸潤の正診率はそれぞれ90%、90%と良好な成績を報告している。超音波による胆管壁の深達度診断は、内側低エコー層にss浅層(線維組織)も含まれるため、厳密な意味では早期癌(T1)と進行癌(T2)との鑑別は困難である。診断基準として低高エコー境界が整である所見をm-ss(Tis-T2)、不整のものをss(T2)、外側高エコーが断裂、消失したものをse以深(T3)としたとき、IDUSの正診率は83%であり、EUSの正診率79%を上回っていた。これまでの報告でもIDUSの正診率は85-87%と良好とされている。 [胆石と胆嚢癌との関係] 胆石と胆嚢癌の因果関係は明らかにされていない。当センターの切除例をみると、切除例というbiasはあるが、胆石からみた胆嚢癌の合併率は2.2%、胆嚢癌からみた胆石の合併率は55%であった。無症状胆石の胆嚢癌発生率は、画像診断の発達した近年の報告をみると、長期観察群の0.5%以下とするものが多い。これは超音波検診で発見される胆嚢癌の頻度が0.02%前後であることから、検診例の長期逐年群に相当する可能性がある。一方、全国胆石症調査では胆石症からみた胆嚢癌の合併率は0.81%と高率であることが報告されている。胆嚢癌切除例では胆石を有していても(有石胆嚢癌)、症状がみられたのは76%であり、4人にl人は無症状であった。胆嚢癌の術前診断能は,胆石を合併していない胆嚢癌(無石胆嚢癌)では隆起型が84%で、約90%が診断可能であったのに対し、有石胆嚢癌の診断はより低率で、強く胆嚢癌を疑った例は65%にとどまっていた。このような有石胆嚢癌の特徴、肉眼型を把握しておくことが重要で、肉眼型は隆起として指摘し難いUa, Ub型の早期癌と平坦型の進行癌が37%を占めており、無石胆嚢癌の16%と比較すると倍以上であり、これは術前確診が困難であった症例の分布とよく相関していた。また、有石胆嚢癌の切除例では術前診断の難しいm癌が34%を占め、術後に初めて発見されることが多く、標本の詳細な検索の重要性を示している。 [胆嚢癌の診断] 胆嚢癌の質的診断や深達度診断に際してはEUSによる形態評価、MDCTでの viability を含めた dynamic study が有用である。胆嚢癌の予後規定因子を切除例の多変量解析からみると、壁深達度が最も重要な因子と報告されている。深達度がm、mp(pT1a pT1b)までの早期癌は切除により完治が見込まれるが、se、siの癌の多くは予後不良である。ss癌の診断は、進展度に応じた適切な手術が選択されれば予後が期待できるため臨床上重要である。 EUSで表面が小結節状、平滑で、内部が実質様の1p型であれば胆嚢癌の深達度はm と判断される。また、表面不整で実質エコーからなる広基性腫瘤や限局性壁肥厚であっても、lOmm以下で外側高エコー層が保たれていれば早期胆嚢癌(1s,Ua,Ua + Ub)である可能性が高い。外側高エコー層が不整であればss浸潤癌であり、断裂していればse、si、hinflb以上となる。一方、外側高エコー層には組織学的にssの一部も含まれているため、保たれていてもss浸潤は否定できない。胆嚢動脈の造影にて2-3次分枝に閉塞やencasement があればss浸潤癌の診断が可能であるが、最近では非侵襲的な検査が優先され、MDCTや造影エコーなどでのdynamic study が用いられる。 U.胆道癌の内視鏡治療 [内視鏡治療の注意点] 胆膵の内視鏡的診断、治療の基本はERCPである。ERCPは1968年にMcCuneらによって施行され、本邦では1969年に大井、高木らによって初めて報告された。ESTは1973年にKawai ら、1974年にClassen らによって報告されて以来、その有用性、安全性は長期予後も含め確立されている。現在ではこれを応用した各種診断法と、特に内視鏡治療が大きな発展を遂げている。一方、消化器内視鏡実施による医療過誤訴訟では、ERCP関連手技による事例が多いとされている。実際にERCP施行時に起こりうる症状とその発症機序を表lに示す。 ERCPに伴う偶発症の頻度はprospectiveな多施設研究では、4.0%、6.7%という報告がある。また、EST後の偶発症に対する多施設研究では、偶発症の頻度は9.8%であり、勝炎が5.4%、出血は2.0%との報告がみられる。 [EBD : Endoscopic biliay drainage] 悪性胆道閉塞に対する stentingで, plastic stent の問題点は clogging であり、改善策として大口径化を目指した self-expandable metal stent (SEMS) が登場した。一方、SEMSの欠点はメッシユ間隙からみられる tumor ingrowth であり,カバータイプ(CMS:covered expandable metals tent)の出現により改善されている。SEMSの問題点は抜去,再挿入などの自由度の低い点,高価である点、胆管や十二指腸粘膜の損傷のリスクなどが挙げられる。また、CMSは胆嚢管の閉塞による胆嚢炎,逸脱,迷入などが指摘されている。 これまでの報告による plastic stent の開存期間の中央値は、10F以上に限定して検索すると3-6ヶ月であり,これに対しSEMSの開存期間の報告は6-9ヶ月の成績が得られている。悪性肝門部狭窄では複数本の stenting が必要となることが多い。切除不能な肝門部胆管癌を中心とした内視鏡治療を検討した。SEMS (Niti-S) 2本を用いてY字型に留置を施行した20例(YMS群)と、Plastic stent 2本を用いて両葉ドレナージを施行した37例(PS群)を比較すると、YMS群のstent開存期間は平均250日でありPS群の115日を有意に上回っていた(P= 0.0061) 。 閉塞性黄痘で発症した切除不能膵癌では化学療法の前に滅黄術が必須であり、最適なstentを選択することが重要である。減黄後にGemcitabine化学療法(GEM) を施行した36例とhistorical control を比較すると、CMS-GEM群の stent 開存期間の中央値は13.6ヶ月であり、Plastic stent-GEM群より長い結果であった。 GEM施行群では生存期間の延長が確認され、継続投与や患者のQOL改善のためには長期間存の期待できるCMSを選択するべきである。 [ESBD : Endosonography-guided biliary drainage] 十二指腸狭窄や乳頭部浸潤などで、ERCP自体が施行できない場合は、経皮経肝的な穿刺ドレナージが行われてきた。近年、EUS下に行う穿刺機器や処置具が発達し、経消化管的な胆道穿刺ドレナージが可能になった。方法はEUSを使用して穿刺後、ガイドワイヤーで胆管内腔を確保し、テーパードや拡張用バルーンを用いてstent を留置する方法である。偶発症としては胆汁漏出,出血,穿孔,ワイヤーの逸脱などが報告されている。 当センターで非切除悪性胆道狭窄にESBDを施行したのは42例であった。このうちにSEMSを21例に留置し、16例は内視鏡的胆管腸管吻合を目的とし施行し、5例は腫瘍を介して順行性に留置した。One-stepでSEMSを留置したのは7例で、最終的に plastic stent 留置後2期的にSEMSを留置したのは14例であった。標的胆管は肝外胆管80%、肝内胆管20%であり、手技は全例で成功した。内視鏡的胆管腸管吻合を目的とした16例の長期経過は良好で、2例にstent閉塞、1例に逆行性胆管炎がみられたが、平均開存期間は433日であった。 [胆道癌に対する化学療法] 当センターにおいて切除不能の胆道癌に対する化学療法の成績をretrospectlveに検討した。切除例・非切除例に対して、GEM単剤療法を基本として53例、S-l単剤療法を61例に施行していた。1クール以上遂行できた非切除胆道癌55例で1次治療の有効性を検討すると、奏功評価可能であったGEM群21例、S-l群17例では奏効率(CR+PR)はそれぞれ、10%、18%、病勢コントロール率(CR+PR+SD)は、81%、88%であった。生存期間中央値はhistorical controlであるBSC群9.4ヶ月に比較すると、GEM群16.6ヶ月、S-l群11.5ヶ月と長かった。原発部位別に生存期間を検討すると、肝外胆管癌のGEM群はmedian-OSが24.1ヶ月、肝内胆管癌ではS-l群が25.5ヶ月と長かった。また、胆道癌ではGEM投与後のS-l投与にて生存期間延長の上乗せ効果が期待できた。 [最後に] 近年、胆道癌に対する各種画像診断の発展は目覚ましい。原発部位に応じた診断,治療の strategy が必要で、可能な限り患者負担の軽減を計ることが重要である。また、胆道癌に対する術前や化学療法施行時には、適切な内視鏡的ドレナージが必須となることが多く、その後の対応も迅速に行えるようにしなければならない。 |
講習のポイント 1.大腸早期癌のリンパ節転移の危険因子は、SM浸潤度1,000μm以上、脈管侵襲陽性、 低分化腺癌、印環細胞癌、粘液癌、浸潤先進部の簇出(budding)Grade2/3である。 2.直腸癌では、腫瘍の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なっ てくる。 3.大腸癌の分子標的治療薬として、bevacizumab、cetuximab、panitumumabがあり、それ らのうち、cetuximabsとpanitumumabはKras野生型の症例にのみ適応がある。 |
キーワード 1.SM癌 2.腹腔鏡下手術 3.側方郭清 4.分子標的治療薬 |
1 .はじめに 高齢化と食事の欧米化を背景に、大腸癌は増加の一途を辿っており、2001年には、大腸癌の罹患数は毎年10万人を超えるようになっており、2020年には、胃癌、肺癌を抜き、男女をあわせた日本人の癌罹患数、罹患率でともに1位になると予測されている。大腸癌の臨床は日進月歩であり、近年では診断の面ではPETなどの画像診断技術の進歩、治療の面では腹腔鏡下手術の普及、新しい抗癌剤の導入が顕著である。大腸癌の標準的治療方針を提示し、大腸癌治療における施設問格差を是正するために、大腸癌研究会によって大腸癌治療ガイドラインが作成され、治療の均てん化がはかられている。しかし腹腔鏡下手術の適応,遠隔転移に対する治療方針、大腸癌術後補助化学療法、進行・再発大腸癌への化学療法の選択などにおいて、施設問較差は依然として大きい。本講演では、大腸癌に対する現時点における治療法選択および治療の原則について解説する。 2.大腸癌治療における基本方針 大腸癌の治療は,外科的切除が第一選択である。大腸癌の病期(進行度)は、壁深達度, リンパ節転移の有無とその範囲,および遠隔転移の有無によって決定される。切除可能な遠隔転移をもつ患者には,原発巣と遠隔転移巣の切除を同時あるいは分割して施行する。切除不能の遠隔転移をもっ患者に対しても、有症状の原発巣に対しては外科的切除を施行することを原則としているが、病状および患者の全身状態により施行しない場合もある。近年では分子標的治療薬(bevacizumab、cetuximab、panitumumab) の導入により切除不能の大腸癌に、まず化学療法を行い、切除可能とした上で外科的切除を行う、いわゆる conversion therapy が注目を集めている。いずれの治療法の選択においても、ほほ全例において癌の告知と病状、治療法の詳細な説明を行い、その上で患者本人の選択を最優先して施行されるべきである。大腸癌における治療法選択のアルゴリズムを図に示した。アルゴリズムにおける適応決定の基準の詳細を以下に示し,解説する。 3 .外科的切除における術式選択基準 1 )大腸早期癌の治療 内視鏡的摘除、外科的局所切除の適応 大腸内視鏡検査,注腸, EUS、直腸指診による壁深達度診断を総合し、壁深達度がSMまでで内視鏡的切除が可能と判断された病変に対しては、内視鏡的摘除を施行する。内視鏡的摘除が不能な早期直腸癌に対しては、可能なら経肛門的切除などの局所切除が施行される。完全に切除された標本に対して病理組織学的な検索を行い、垂直切除断端陽性の場合、および完全摘除がなされている場合でもリンパ節転移の危険因子を有する場合には追加腸切除を行う。大腸癌治療ガイドラインでは、リンパ節転移の危険因子として、@SM浸潤度1,000μm以上、A脈管侵襲陽性、B低分化腺癌,印環細胞癌,粘液癌、C浸潤先進部の簇出(budding) Grade 2/3を取り上げ、ひとつでも認めれば、追加腸切除の適応としている。 2) 大腸癌のリンパ節郭清 大腸癌手術におけるリンパ節郭清度は、術前および術中所見における腫瘍の壁深達度とリンパ節転移度から決定される。 ・リンパ節転移を認める場合は、D3郭清を行う。 ・リンパ節転移を認めない場合は、壁深達度によって郭清度が異なる。 M癌はリンパ節転移がなく、リンパ節郭清を要しない。SM癌は約10%のリンパ節転移頻度であり、2群までにとどまることが多いため、D2郭清の対象となる。MP癌もD2郭清が基本となるが、D3郭清を行う施設も多い。SS以深の場合はD3郭清を行う。直腸癌では、腫療の局在により腸管の切除範囲およびリンパ節の郭清範囲が異なってくる。Rs,Ra癌では肛門側直腸間膜を3cm,Rb癌では2cm切除することが望ましいとされる。また、腹膜翻転部より肛門側に下縁を持つ進行癌の場合には側方郭清が必要となる。 3) 腹腔鏡下手術と開腹手術 大腸癌治療ガイドラインにおいては、手術チームの習熟度に応じた適応基準を個々に決定すべきであると規定しており、施設によるぱらつきがかなり見られる。腹腔鏡下手術は結腸癌およびRS癌に対するD2以下の腸切除に適しており、 Stage 0〜Stage 1 がよい適応であるとされているが、年々拡大傾向にあり、D3を伴う腹腔鏡下結腸切除術もかなり一般的になりつつある。一方、直腸癌に対する腹腔鏡下手術も行われるようになってきているが、下部直腸癌に対して腹腔鏡下に側方郭清を行うことはかなりの習熟度を必要とするため、術前化学放射線治療等によって側方郭清の省略が可能かどうか注目されている。 海外の大規模RCTにおいて、結腸癌およびRS癌に対する腹腔鏡下手術の有用性が開腹手術との比較で検討され、短期成績の優越性、合併症発生率および長期予後の同等性が報告されている。 4. Stage IV大腸癌の治療 大腸癌の遠隔転移好発部位は頻度の高い順に,肝,肺,腹膜播種、骨,脳である。肝,肺転移、腹膜播種の一部については切除により根治が期待できる場合もあるが、腹膜播種、骨,脳転移の多くは、全身的な多発転移の一環であり根治は期待しにくい。治療法選択について、図に示した。 1)肝転移 肝転移は大腸癌の同時性遠隔転移のなかで最も頻度の高い転移形式であり、その頻度は大腸癌全体で10.7%、直腸癌では9.5%とされている。治療法としては肝切除、肝転移巣のラジオ波凝固、全身化学療法、肝動注療法が行われている。非切除例では、無治療の場合の50%生存期間はl年未満であるが、近年の分子標的治療薬を含む有効な化学療法が施行された場合では2年を突破してきている。治療法としては、肝切除術が最も効果的な治療として確立しており、治癒切除された場合は40%前後(5年生存率は手術適応の違いにより幅があるが25〜50% ) の長期生存が期待できる。肝切除術の適応基準としては、肝転移が肝に限局しているか、肝外病巣があってもそれが根治的に切除可能であること、肝転移巣の完全な切除が可能で、残肝機能が十分であることが重要である。術式としては、肝部分切除と系統的肝切除があるが、転移性肝癌に対しては、現在一般的には部分切除が選択される場合が多くなっている。切除後の再発は残肝再発と肺転移再発が多く、肝切除後の補助療法の工夫が必要と考えられる。 手術適応がないと判断された症例には、全身化学療法を施行するのが一般的である。肝動注療法は、全身静脈投与に比べて奏効率では優るが延命効果は少ないとされている。切除不能例を全身化学療法や肝動注による縮小効果で切除可能とし、肝切除を施行したConversion therapyの場合の予後は通常の肝切除例と同等か若干劣るとされるものの、非切除例と比較すれば有意に良好であり、注目されている。 2)肺転移 肺転移の多くは、原発巣の術前あるいは術後経過観察中に、通常無症状で発見される。大腸癌の同時性肺転移は肝転移に次いで多く、肝転移巣からの二次的転移としても起こりるが、肝転移を伴わずに肺転移のみをきたすことも多く、その頻度は大腸癌全体で1.6%、直腸癌では1.7%とされている。 肺転移巣の治癒切除がもっとも有効な治療として確立している。肺転移に対する手術は、原発巣および肺以外の遠隔転移が根治的に切除でき、手術による肺機能の損失が少なく転移巣の根治性が高い場合に行われている。術式としては、末梢に位置する場合には胸腔鏡下で自動縫合器により楔状切除が行われ、肺門部に近くて部分切除が困難な例、腫瘍径が大きいものには開胸下の肺葉切除、肺切除が選択される。 根治的肺切除例の5年生存率は手術適応により幅があるが25〜60%である。両側転移例、縦隔リンパ節転移例、肺以外に転移巣のあるものは予後不良である。肺転移が切除できなかった場合、抗癌剤の全身経静脈投与が行われる。 5 .大腸癌の抗癌剤補助化学療法 病理組織学的病期がstageIIIa,stageIIIbの症例については抗癌剤による術後補助化学療法を施行するのが一般的である。stageIIの症例については、ハイリスクのものを選別して施行してよいこととなっているが、ハイリスクのコンセンサスは確立していない。 推奨される術後補助化学療法:投与期間6カ月を原則とする ・5 - FU/ LV療法 ・UFT/ LV療法 ・capecitabine療法 ・FOLFOX4療法またはmFOLFOX6療法 6. StageW大腸癌の化学療法 切除不能とされたStageW大腸癌については腫蕩増大の遷延、症状のコントロールと延命効果を期待して抗癌剤による化学療法が施行される。国内外の第V相試験により生存期間の延長が検証され、現在国内で使用可能な一次治療レジメンとしては以下のものがあげらる。ただし、cetuximab,panitumumabはKRAS野生型の患者に適応がある。 ・FOLFOX療法±bevacizumab ・CapeOX療法±bevacizumab ・FOLFIRI療法±bevacizumab ・FOLFOX療法±cetuximab / panitumumab ・FOLFIRI療法±cetuximab / panitumumab ・5 - FU+LV療法±bevacizumabまたはUFT+LV療法 おわりに 大腸癌の近年のトピックは、腹腔鏡下手術と化学療法の急速な普及と進歩であり、大腸癌患者の QOL、予後に大きな変化をもたらしてきている。臨床医は常に最新の知識を得る努力が必要である。 |
(2012/10/12金曜分)
今日明日は学会出張(【JDDW
2012-KOBE】(第20回 日本消化器関連学会週間))=SAVE(227KB)にて休診。神戸国際展示場1号館2階に行って、15,000円の登録費を払って、学会参加登録をする。及び会議資料(プログラム集、CD-ROM抄録集、コングレスバッグなど)を受け取り、又、財団法人日本消化器病学会専門医更新単位登録票 第54回大会(JDDW)[23単位]に記入する。
(12/10/13土曜分)
8時20分には神戸国際展示場1号館2階に行って、LS42ランチョンセミナーの整理券をゲット。8時30分には教育講演(JDDW-KOBE プログラムSAVE(470KB))の第4会場に席を確保。9時きっかりに午前の部が始まった。
教育講演の抄録
教育講演1
胃:機能性ディスペプシア(FD)
三輪洋人(兵庫医大・内科(上部消化管科))
ディスペプシアとは胃の痛みやもたれなどの心窩部を中心としたさまざまな上腹部症状を表す用語であり、機能性ディスペプシア(FD:functional
dyspepsia) とは「症状の原因となる器質的疾患がないのにもかかわらず胃十二指腸に由来すると思われる症状を呈するもの」と定義される。またFDではディスペプシア症状を慢性的に認められることも特徴であり、機能性消化管疾患のーつとして位置づけられている。FD患者はこれまで慢性胃炎として取り扱われることが多かった。しかし元来、慢性胃炎とは「胃粘膜の組織学的炎症」を意味する診断名であり、症状の有無や程度と関連するものではない。実際には胃の組織学的炎症がなくとも症状があることは少なくないため、上腹部症状があることと組織学的に胃炎があることは厳密に区別されるべきである。FDという疾患の出現により、このようなどちらかというと暖昧な疾患概念が近年整理されつつある。FDは非常にありふれた疾患で患者数も多い。日本では国民の約1割がディスベブシア症状を慢性的に感じているとされており、日常臨床で最も多く遭遇する疾患のひとつである。FD患者のQOLは大きく損なわれ、労働生産性も低下していることが知られている。臨床医はこの疾患を正しく理解し、対応する必要がある。実際のFDの定義は現在Rome基準が用いられている。Rome委員会は機能性消化管疾患を調査、分類している研究機関である。1989年に初めてFDが定義されたが、現在は2006年に発表されたRomeIII分類が使用されている。この分類ではディスベプシアを腹部膨満感、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感の四つの症状のみで定義し、症状を食事と関連する前二者の症状(食後愁訴症候群PDS)
と痛みと関連する後二者の症状(心窩部痛症候群EPS) に分けていることが特徴的である。以前はFDに胸やけを含めることがあったが、内視鏡で異常がないのに胸やけや逆流感を生じる疾患は「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」として別に扱うことが一般的になっている。胃や十二指腸に器質的病変がないにもかかわらずディスベプシア症状があるのは、胃・十二指腸の生理機能の異常によるものであると考えられている。特に胃運動機能異常、内臓知覚過敏などが症状と直接関連する因子として注目されている。この他、精神心理的因子や胃酸分泌過多、ヘリコバクター・ピロリ感染、遺伝子異常,感染後ディスペプシア,幼少時・思春期環境,食事因子,生活習慣などがさまざまな因子が病因として挙げられているが、実際にはこれら多くの因子が複雑に絡み合い、互いに修飾し合って上部消化管の生理機能異常を発現したり強めたりしており、これが症状発現に寄与していると考えられている。
教育講演2
大腸:炎症性腸疾患─最近の進歩─
渡辺守(東京医歯大・消化器内科)
炎症性腸疾患は日本では比較的稀な疾患と考えられ、厚生労働省難治性疾患になっているが、近年、患者数は増加の一途をたどり、2008年度特定疾患医療受給者証交付件数で、潰瘍性大腸炎121,319名、クローン病32,187名と、合わせて約15万人を越えた。過去20年間ほとんど変わっていなかった炎症性腸疾患に対する内科的治療の考え方が、この5年間で劇的に変化してきている。その変化をもたらしたのは、炎症性腸疾患の病態解明が直接的に治療に結びついた結果として開発された、初めての生物学的製剤「抗TNF-α抗体」である。クローン病に対する抗TNF-α抗体の治療効果は予想を大きく上回る驚くべきものであり、全世界で汎用されるに至っている。抗TNF-α抗体がクローン病治療に与えたインパクトは単にその治療効果に止まらなかった。多くのインパクトを与えたが、最も重要なものは、「粘膜治癒」効果、即ち潰瘍を治す事が病気の再燃を防ぐ上で大切だという考え方の導入であった。クローン病の治療はこれまでは症状を改善すれば良いという臨床的効果のみを考えていた。抗TNF-α抗体療法はこの考え方を大きく変え、クローン病の再発予防には内視鏡的にも良くする事「粘膜治癒」が必要であるという考え方が出てきたのである。これは治療に対する劇的な考え方の変化であり、初めて、クローン病のnatural
historyが変えられ、早く強力に治療すれば完全治癒させる可能性があるのでは、という考え方に繋がっている。新しい治療概念の変化をもたらした抗TNF-α抗体療法は、日本においても新しいステージを迎えている事は間違いがない。抗TNF-α抗体療法において、結論は出ていないが今、考えるべき問題点、どんな患者に使うか、どれを選ぶか、いつ開始するか、免疫調節薬との併用はどうするか、効果がなくなったらどうするか、長期投与は安全なのか、これまで治療の第一選択であった栄養療法とどう棲み分けるか等を考えてみたい。一方、潰瘍性大腸炎に対しては20年前からの治療が依然として主体であるが、既存の薬物治療に対する考え方/使用法などが大きく変わり、治療成績は飛躍的に向上している。特に病態の解明により、免疫抑制から免疫調節へと考え方が変わったAZA/6-MPの高い有効性が示されてきた。更に薬物治療の副作用などの問題から、non-pharmacological
therapyが俄に見直され、日本オリジナルの血球成分除去療法が海外に発信されようとしている。潰瘍性大腸炎においても局所における免疫担当細胞の異常、サイトカインや接着分子異常が明らかとなったことから、種々の抗サイトカイン療法などが欧米で臨床応用されようとしている。最近、潰瘍性大腸炎の寛解導入治療に日本オリジナルの免疫調節薬タクロリムス、抗TNF-α抗体が臨床の現場に登場し、クローン病で起こった治療に対する考え方の変化、即ち、症状の改善のみではなく「粘膜治癒」を治療目標にする考え方が潰瘍性大腸炎にも適用されようとしている。炎症性腸疾患に対しては生物学的製剤を主体とする免疫異常を制御する数々の臨床試験が現在、凄まじい勢いで進められている。しかもその多くが日本も加わった国際共同治験になっており、今後の炎症性腸疾患治療はいわゆる「Drug Lag」がなくなるという画期的な段階に入っている。このような内科的薬物療法の進歩を考えると、炎症性腸疾患は将来、完全治癒が期待できる可能性がある疾患である事を理解して戴きたい。
教育講演3
がん薬物療法:分子標的治療薬
大津敦(国立がん研究センタ一東病院・臨床開発センター)
消化器がんの薬物療法は大きく変貌しつつあるが、その主役は近年多数開発されている分子標的治療薬である。がんに伴う分子異常を標的としてよりがん特異的に作用する薬剤として開発が行われ、抗体薬とレセブターチロシンキナーゼ阻害などの小分子化合物の2つに大別される。がんの増殖因子やその受容体とシグナル伝達、血管新生阻害などがんの間質に作用する薬剤も多数開発され、ほとんどの消化器がんで日常診療に導入されている。GISTのようにc-KIT遺伝子のone-hit
mutationのみで発生する腫瘍に対しては、c-KITチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブが著効を示すように、原因となる遺伝子異常が単純であるほど(driver
geneとも呼ばれる)その効果が高い。一方で、血管新生阻害剤 (ベバシズマブなど)のように主として間質に作用する薬剤は特異性が低く効果も限定的で、適切なバイオマーカーも見つかっていない。1)
EGFR (HER 1 )阻害剤 EGFRに対する抗体薬としてセキシマブ、パニツムマブが大腸癌に対して臨床導入されている。大腸癌においてはKRAS遺伝子変異なし(野生型)の症例に対して効果が期待され、切除不能進行例では主として二次・三次治療として単剤あるいはイリノテカンとの併用で用いられるが、KRAS野生型で、かつ肝転移限局例など奏効後に手術が期待される症例ではFOLFOXなどとの併用も行われる。ざ創様発疹や爪囲炎など皮膚障害が主な毒性であるが、抗生剤や軟膏の適切な使用で軽減が図れる。胃癌においても現在EGFR抗体薬の臨床試験が進行中である。2)HER2阻害剤HER2は胃癌全体の約15%程度の症例で陽性である。大多数は分化型腺がん症例で、診断は免疫染色(IHC)
および、FISHで行われ、IHC3+あるいはIHC2+/FISH+が抗HER2抗体トラスツズマブの治療適応となり、IHCの発現強度と治療効果に相関がみられる。切除不能進行再発例では、初回治療例ではカベシタビン(S-1)
+シスプラチンとの併用で行われる。副作用は軽微であるが、心毒性がまれにあるため、定期的な心機能評価を行う必要がある。トラスツズマブ以外にも、ラパチニブ、pertuzumab、TDM-1などの新規薬剤も臨床試験で評価中である。3)
血管新生阻害剤 抗VEGF抗体であるベバシズマブは大腸癌で単剤での効果はないもののFOLFOXなどとの併用効果が示され、切除不能進行例で初回治療から使用される。副作用は概ね軽微であるが、まれに腸管穿孔、血栓など重篤な副作用があり注意を要する。血清VEGF-Aなど治療効果予測因子の検討がなされているが確立していない。VEGFR、PDGFR、c-KITなどとのマルチキナーゼ阻害剤であるスニチニブはGISTのイマチニブ抵抗例に対する二次治療として標準化し、ソラフェニブは進行肝癌で標準治療となっている。さらに同様の薬剤であるregorafenibが大腸癌およびGISTにおいて比較試験で有効性が証明され、現在承認申請中である。これらのマルチキナーゼ阻害剤の副作用は多彩であり、倦怠感、手足皮膚障害、高血圧、甲状腺機能低下などの管理を要する。他にも膨大ながん分子標的治療薬が開発段階にある。すでにポストゲノム時代に入り、フルゲノムシークエンスが安価に解析される時代となっている。例えば、HER2陽性は乳癌・胃癌のみならず、食道や大腸癌でもまれながら存在し、トラスツズマブなどの抗HER2療法の効果が期待されるなど、疾患ベースから標的ベースへと治療が変化しつつある。本講演では、消化器癌に対する分子標的治療薬を最新の知見を交えながら概説する。
教育講演4
食道:臨床応用のための食道発癌および癌進展機構解明へのアプローチ
三森功士(九州大病院別府病院・外科)
食道癌の治療成績を向上させ致死率を逓減させるためには、発癌あるいは予後増悪のハイリスク者を正確に囲い込み、早期発見・早期診断・治療をすることが重要である。このためには食道発癌および癌進展機構を分子レベルで正しく理解することが重要であるが、今日までの論文報告は散発的なものが多くpublic
databaseにも登録された情報はほとんどない。今回はこれまでの報告をまとめると同時に、われわれのグループによる多施設共同研究の成果について発表する。1)食道扁平上皮癌におけるこれまでのおもな報告(1)癌遺伝子の増幅;c-MYC,
HER-1, CYCLIN D, INT 2はゲノムレベルの増幅を伴い、発現上昇を認めている。(2)癌抑制遺伝子の突然変異:p53の変異は約50%でありexon5-8に集中。pRBは約40%に変異を認め、exon17に集中。APCあるいはMCCの欠失変異も約10%と報告されている。(3)アリル欠失:3p14/FHIT
(22%)、5q31.1/IRF (57%)、9p21/p16 (50%)、17q25/不明(71%) などが報告されている。(4)メチル化遺伝子:p16/CDKN2
(62%) 、CDH 1 (45%) 、FHIT (45%)、SST (54%) 、RASSF 1A (50%)などが報告されている。以上、これまでの報告から食道発癌過程を推察すると、a)
発癌刺激に暴露された健常細胞が、b) 遺伝子(特にCYCLIN D) 増幅と過剰発現をきたし腫傷を形成。さらにc)
癌抑制遺伝子の変異や欠失、あるいはエピゲノム変異により癌化すると考えられている。2)新しいアプローチによる食道(発癌・癌進展)機構の解析:一般に癌は遺伝的要因(遺伝子多型)を背景に環境要因に暴露された粘膜上皮局所においてゲノムレベルおよびエピゲノムレベルの変異が原因で発症すると考えられることから、われわれは統合的・包括的に解析を行った。(1)ゲノムワイド関連遺伝子多型による発癌ハイリスク者の同定.われわれは食道痛患者1071名、また2762名のコントロールからの網羅的遺伝子多型解析、生活習慣アンケート解析を行った。その結果4q23と12q24.1l-13の2カ所が患者およびコントロールで著しい差を認めた。同部位にはADH1
B, ALDH 2遺伝子が含まれていた。また、飲酒と喫煙は危険因子であり。4因子を統合解析すると、危険因子が1個以下の場合と全て有する場合では危険度が360倍上昇した。血液検査とアンケートでスクリーニングすべき患者の選定が可能になった。(2)食道癌予後予測因子となる遺伝子およびゲノムDNA
領域の同定:予後予測因子を求める上でDNA変異とともに発現変異をきたす領域・遺伝子の検出は、安定した結果が期待され臨床的にも有用である。われわれは75例の食道癌原発巣よりLMDにて癌細胞を採取しaCGHおよびマイクロアレイを実施した。ゲノム変異(増幅・欠失)と有意に相関する発現(増加・減少)を示し独立予後予測因子となる遺伝子群を同定した。(3)真の食道発癌を規定する「ドライバー変異」の同定:われわれは食道扁平上皮癌11例の次世代シークエンサーによる食道癌細胞の全エキソン領域に存在する遺伝子変異の解析を行っている。平均154.5個/症例の遺伝子変異を同定したが、cDNAマイクロアレイおよびaCGHの結果を統合しドライバー変異を伴う遺伝子を探索している。また、同法を用いて17q25の家族性食道癌において高頻度にアリル変異を認める領域より、癌特異的な突然遺伝子を同定した。以上のアプローチは食道癌の診断、治療、あるいは発癌予防に有用な成果をもたらすと考えており、鋭意、進行中である。
教育講演5
胆膵:内視鏡的治療
藤田直孝(仙台市医療センター仙台オープン病院・消化器内科)
胆膵内視鏡治療は、外科手術と比較しより低侵襲性で、適切な症例の選択で術後のQOLも含め同等もしくはそれ以上の効果が期待できる。近年では、従来のERCP関連手技に加え、EUSを用いたさまざまな治療手技が開発、報告されている。本稿ではこの領域における最近の話題を紹介する。1.ERCP関連手技1.
Large balloonを用いた乳頭拡張術(EPLBD) 巨大胆管結石の治療法として、近年報告が増加している。従来の内視鏡的十二指腸乳頭バルーン拡張術(EPBD)
は8mm径までの拡張バルーンを用いて乳頭の拡張を行ない結石を摘出していたが、本法では12-20mm径の大型の拡張用バルーンカテーテルを用いて乳頭を拡張する。これにより、巨大結石でも容易に結石の摘出が可能になる。内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)と組み合わせて行なうとする報告が多いが、直接EPLBDを行なうとする報告もみられる。偶発症として、膵炎、出血、十二指腸穿孔、胆管穿孔などがある。膵炎はEPBDよりも少ないとされ、結石摘出の際の乳頭への負荷が少ないことがその理由として考えられている。2.
Direct cholangioscopyを用いた治療 細径の内視鏡の開発、新しいシステムの胆道鏡の開発により、胆管内視鏡下の治療に関して展開がみられる。前者では経鼻内視鏡に用いられるような5mm程度の細径内視鏡をEST後の乳頭から直接胆道内に挿入し、結石の破砕、摘出を行なう。後者はカテーテル式内視鏡の構造で、10Fの外径で光学ファイバー用チャンネル、処置具用チャンネル(l.2mm径)、2つの灌流用チャンネルを備えており、乳頭から挿入し処置を行なう。single
useで高価なのが難点である。3. 経乳頭的胆嚢ドレナージ術 抗血栓薬服用患者の増加もあって、経乳頭的胆嚢ドレナージ術が急性胆嚢炎の治療法として注目されてきている。ERCPの要領で胆管カニュレーションを行ない、胆嚢管を探りガイドワイヤー誘導下に経鼻ドレナージカテーテルを留置する。Intention-to-treatでの解析でも80%を超える成功率が報告されている。本手技に特異的な偶発症として胆嚢管穿孔がある。II.EUS関連手技1.
EUSガイド下胆道ドレナージ術 EUSガイド下に肝内もしくは肝外胆管を穿し、穿刺ルートにまたは穿刺ルートを利用してステントを留置する方法である。経乳頭的アプローチ困難例を対象に施行されている。消化管胆道吻合術、順行性埋め込み術、Rendezvous法が可能である。十二指腸狭窄にも影響されず施行可能である。技術的にも成熟してきており、専用の処置具の開発に伴い広く普及することは疑問の余地がない。2.
EUSガイド下膵仮性嚢胞ドレナージ術、necrosectomyEUSガイド下膵仮性嚢胞ドレナージ術自体の歴史は古い。近年のトピックはドレナージのみでは治癒困難な例に対するnecrosectomyである。いわゆるNOTES
(normal orifice translumenal endoscopic surgery) に分類される手技で、消化管に造設した痩孔を介し消化管外の嚢胞内の壊死組織を摘出、洗浄し、患者を感染から離脱させる。3.
EUSガイド下局注療法 EUSガイド下に薬液を局注することにより、治療効果を得ることができる。膵癌患者の腹背部痛に対する腹腔神経叢破壊術が実用レベルに達している。EUSガイド下にエタノールを腹腔神経叢、神経節に注入することにより、症状を緩和することが可能である。胆膵の内視鏡的治療は、内視鏡、処置具の開発により現在も手技の改良、新手技の創出が活発に進められている。今後もさらなる展開が期待される。
教育講演6
肝臓:C型肝炎
竹原徹郎(大阪大大学院・消化器内科学)
C型肝炎の抗ウイルス治療は1992年のインターフェロン(IFN) 治療にはじまり、2004年にペグインターフェロン(PEG-IFN)
/リバビリン(RBV) 併用治療が標準治療として導入されるに至り格段の進歩を遂げた。2011年よりはじめてのHCV特異的抗ウイルス剤(DAA製剤:Direct-ActingAntivirals)
であるテラプレビル(TVR) が臨床の場に登場した。国内の臨床開発第3相試験では、日本人の1型高ウイルス量初回治療例を対象に、TVR12週投与+PEG-IFN/RBV24週投与群とPEG-IFN/RBV
48週投与群の2群の無作為化比較試験が行われ、最終的なウイルス排除(SVR)率は試験群73%、対照群49%であり、より短い治療期間で、より高いSVR率を達成し、今回の承認に繋がった。一方、前治療歴(PEG-IFN/RBVが中心であるが、IFN/RBVあるいはIFNも含まれている)のある患者に対しても試験群の投与が行われており、前治療再燃例に対するSVR率は88%と極めて良好であったが、前治療無効例に対するそれは34%にとどまることが示された。前治療無効例では治療中あるいは治療終了後に高率にTVR耐性ウイルスが出現しており、本治療の適応を考える上で十分な注意が必要であることを示している。また、TVR/PEG-IFN/RBV治療はPEG-IFN/RBV
治療に伴う副作用とともに、皮疹や貧血などの副作用がより重症化することがある。そのために、本治療にあたっては、肝臓専門医と皮膚科専門医が密接に連携して診療にあたることが求められている。市販後ではこれらの副作用に加えて、嘔吐などの消化器症状、腎機能障害、高尿酸血症なども出現することが明らかになっている。PEG-IFN/RBVをプラットフォームとしてDAA製剤を加える治療については、TVR以外の新たな薬剤を用いて多くの臨床開発が行われている。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤については、より少ない副作用で、より高い治療効果を求めてTMC435、MK-7009などの第2世代のプロテアーゼ阻害剤あるいはポリメラーゼ阻害剤の開発試験が行われている。また、まったく別個の作用機序をもつNS5A阻害剤の開発も行われており、米国ではプロテアーゼ阻害剤を含めた4剤治療の開発も推進されている。しかし、このような治療法の開発はいずれもPEG-IFN/RBVを使用することから、PEG-IFN/RBV非適応例には使用できない。また、PEG-IFN/RBV無効例に対しては、治療効果が限定的になる可能性がある。このような背景から、HIVに対するカクテル治療のように、複数のDAA製剤を使用するIFNフリーの治療法の開発が望まれている。実際、プロテアーゼ阻害剤とNS5A阻害剤の経口2剤の服用が日本の1b型患者には有効であること、ポリメラーゼ阻害剤とRBVの服用が2型患者に有効であることが示されており、今後の臨床開発に期待が持たれている。
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(2011/10/22土曜分)
福岡で開催される【JDDW 2011-Fukuoka】と 【教育講演】の学会出張に出かけた。
午後には、福岡国際会議場でJDDWの参加登録(消化器病学会=23単位・消化器内視鏡学会=25単位)の受付を行う(=15,000円)。
「JDDW 2011参加証明書」、
「(財)日本消化器病学会専門医更新単位登録票 第53回大会(JDDW)[23単位]」。
14:00から4F第8会場で「第11回医療研修会(JDDW)-日本の医療力を高める」を聴講。
司会は日本消化器関連学会機構・理事長の跡見裕先生と日本消化器病学会・理事長の菅野健太郎先生が務めた。
1 医療イノベーションへ向けた戦略的施策
(東京大医科学研究所)中村祐輔先生
2 わが国の医療力を高めるための医学界からの提言
(国際医療福祉大・大学院長)金澤一郎先生
3 医療とサービス科学
(科学技術振興機構・研究開発戦略センター)吉川弘之先生
4 世界の医療機器産業の動向とわが国の医療機器の開発戦略-画像診断関連を中心として-
(東芝メディカルシステムズ株式会社・相談役)小松研一先生
5 日本の医療力を高める:わが国製薬産業の成すこと
(エーザイ株式会社・代表執行役社長)内藤晴夫先生
と、滔々たる先生方の講演であった。このようなメンバーは、お金を積んでもなかなか一同に会せぬ先生方であるとの司会の先生の話であった。
「JDDW2011医療研修会 参加証」
(2011/10/23日曜分)
福岡で、朝9時から午後4時30分まで教育講演を聴講した。
教育講演は、「消化器画像診断の進歩」である。(教育講演抄録集)
教育講演1 9:00-9:50
肝
演者 大垣市民病院・消化器内科
熊田 卓 先生
司会 千葉大大学院・腫瘍内科学
横須賀 收 先生
抄録
肝臓における最近の画像診断の進歩は著しい。中でも2008年2月から使用可能となったgadolinium-ethoxybenzyl-diethylenetriamine
pentaacetic acid (プリモピスト)造影MRI(EOB-MRI)は従来の肝細胞がん(HCC)診断における基本的な概念を急速に変えつつあることは周知の事実である。
本教育講演では、 HCCを含めた肝細胞性結節の画像診断で、本邦で盛んに研究されてきて世界をリードしている血流画像および最近出現してきた肝特異性画像(EOB-MRIperfluorocarbon
microbublle[ソナゾイド]造影超音波[CEUS])について述べる。
肝細胞性結節の質的診断には(1)動脈血流の評価、(2)門脈血流の評価、(3)肝細胞機能の評価、(4)Kupffer細胞の評価等が必要である。動脈血流の評価が重要な多血性肝細胞結節の代表的なものがHCCであり、鑑別すべき結節として限局性結節性過形成(FNH)、肝細胞腺腫、肝血管腫、結節ではないが動脈門脈シャント、偽結節などが知られている。
CTHA(CT during hepatic arteriography)が最も鋭敏で、dynamic MRI、CEUS血管相、MDCT
(mutidetector-row CT)がこれに次ぐ。多血性HCCの診断にはCTHA第2相(後期相:造影剤注入後)のコロナ状濃染およびCT、MRI、CEUSの門脈相もしくは平行相でのwashoutが特異的所見となる。HCCが多血性腫瘍に移行することは多段階発がんに伴う結節内血管新生と血行動態・血行支配の変化を意味しておりあく性度の高い所見と判断され重要である。
門脈血流の評価はCTAP (CT during hepatic portography)による。古典的HCCの診断には極めて感度が高く、末梢の門脈浸潤の診断にも有用であるが侵襲的であり繰り返しの検査は困難である。
結節の肝細胞機能の評価にはEOBが優れている。EOBは肝細胞の類洞側にあるトランスポーター(OATP1B3)を介して肝細胞に特異的に取り込まれ、dysplastic
nodule、早期HCC、高中分
化型HCCに至る過程でOATP1B3活性が低下・消失し信号低下を認める。画像における排出系トランスポーターの役割は低いと推定されている。乏血性肝細胞性結節の拾い上げには最も鋭敏で、今やEOB-MRIの肝細胞造影相が肝細胞相性結節の検出のための基本画像と考えられる。しかし5〜10%の多血性の高中分化型HCCで肝細胞造影相で信号低下の認められない結節もあり注意が必要である。また早期肝細胞がんで信号低下を認めない結節も報告されている。EOB-MRIで発見された之血性肝細胞性結節の経過(多血化、サイズの増大)は数多く報告され、大きな結節、サイズアップの認められる結節でのあく性転化率が多いとされている。一方、これらの結節を生検するとほとんどの結節でHCCであったという報告もある。
Kupffer細胞はHCCが脱分化する過程で減少あるいは消失する。Kupffer画像としてCEUS後血管相が用いられ、Kupffer細胞の減少に伴いエコー輝度は低下し悪性度の高い病変の検出に有用である。
最期に、これらの画像を駆使してHCCを早期に診断し治療することが予後の改善に繋がるという科学的な根拠はまだ得られてはいない。常に併存する肝疾患の予後とHCC治療時に非腫傷部の肝臓に与える影響を考慮して治療開始時期・治療法を決めることが重要である。
教育講演2 9:50-10:40
胆・膵
演者 帝京大ちば総合医療センター・外科
安田 秀喜 先生
司会 埼玉医大・消化器内科・肝臓内科
名越 澄子 先生
抄録
近年, X線CT検査機器の発展はめざましく,特にMDCT(multidetector-rowcomputed tomography)は,体軸方向に複数のX線検出器列を配置しX線管球が1回転する間に複数の画像情報を得ることができるCT装置である。このMDCTは短時間に広い範囲で高分解能の画像処理が可能となったことから,消化器画像診断における中心的な役割を果たすようになってきた。ここでは,胆・膵領域におけるMDCTによる画像診断の現況について述べる。
胆・膵領域では,胆管膵管直接造影による病変の局在診断や進展度診断さらに血管造影による脈管浸潤診断に代わって,
MDCTのthin slice画像による診断が取りいれられるようになってきた。すなわち動脈相,門脈相を含んだ3phase
MDCTや胆管・膵管造影を組み合わせたMDCTとMPR(multiplanar reformation),MIP
(maximum intensity projection),MinIP (minimum intensity projection),VR
(volume rendering)などの画像処理により複雑な立体構造を捉える事が可能となり,1)
進行度診断(局在診断,進展度診断,リンパ節転移診断,遠隔転移診断),2) 局所解剖の把握,3)
術前シュミレーションが一度に行えるようになってきた。アーチファクトなどにより診断能が低下するため,MDCT撮影は胆道ドレナージや膵管ドレナージの前に行うことが重要である。MPRでは撮像後に任意の断面で画像を再構築することが可能であるために,脈管浸潤や他臓器浸潤の有無を判定するのに有用である。また,VRによる立体構築では胆管や動静脈門脈などの分枝形態の把握や相互の位置関係を上下左右あらゆる角度から観察可能であるため,術前シュミレーションにも有用である。DICや胆管・膵管チュープからの造影を併用したMDCTにより管腔内陰欠損の描出や仮想膵管・胆管内視鏡も可能である。胆石や膵石の局在診断や嚢胞性病変内の結節成分の描出にも有用である。いわゆる陰性造影剤であるCO2による胆道・膵管造影は空気塞栓の危険性が少なく安全に施行可能であるが,仮想内視鏡では病的所見かartifactかの判定が困難なことも多い。また粘液産生性の病変では検査前に十分な洗浄を行っておくことが臨床的に重要である。しかしながら,いまだに転移リンパ節診断能に関しては十分とは言えず,胆管がんの表層進展に関しては過小評価もしくは評価困難である事も多い。更に,硬化性胆管炎や腫癌形成性自己免疫性膵炎などの胆管がんや膵がんとの良あく性鑑別診断に関しても未だ良好な結果は得られていない。
教育講演3 10:40-11:30
術前・術中ナビゲーション
演者 神戸大大学院・肝胆膵外科学
具 英成 先生
司会 福井大・1外科
山口 明夫 先生
抄録
医療用ナビゲーションは,対象臓器の位置,血管などの内部構造と診断・治療器具の定位を目的とした診療支援システムを指し,近年様々な領域で導入されている。特に臓器組織の定位が比較的容易な脳神経や整形外科領域では,既に手術用ナビゲーションユニットとして市販化され汎用されている。
消化器外科領域では,近年,胸・腹腔鏡手術の普及,手術支援ロボットや単孔式内視鏡手術といった次世代低侵襲手術の登によって,安全性に加えて確実性,精密性が要求されるようになり,手術ナビゲーションの必要性が高まっている。本講演では既に実用化されている諸種のナビゲーションシステムを紹介するとともに,今後の展開について述べる。
これまでに実用化された手術ナビゲーションでは,術前・術中の画像情報を下に構築するナビゲーションシステムが中心となっいる。その画像情報はCT,MRI
,PET,SPECT,超音波検査など対象臓器によって多岐にわたるが,多くは汎用性が高い医療用画像として国際標準規格であるDICOM画像が用いられている。
具体的に述べると,CTやMRIなどの画像情報をもとにまず多断面再構成(MPR: multi-planar reconstruction)や最大値投影(MIP:maximum intensity projection)などを用いた2D再構築像を作成する。さらに3D再構築としてvolum rendering,仮想内視鏡像(virtual endoscopic imaging)などを作成すれば術前シミュレーションや術中ナピゲーションに応用できる画像情報となる。
胃や大腸の消化管手術ナビゲーションにおいては, MDCTで得られた仮想内視鏡像を血管画像やPET-CT画像と融合させ,腫療とリンパ節の局在や浸潤範囲,動静脈などとの空間的位置関係を3D画像にてあらゆる角度から表示することが可能になっている。触覚に乏しい腹腔鏡子術や触覚のないロボット手術では,このような画像ナビゲーションが安全性の向上に特に有用である。さらに光学式や磁場式の3D計測装置を用いて臓器の位置情報を解析し,腹腔鏡画像に尿管像やセンチネルリンパ節などを重ね合わせる新技術も開発されており,リアルタイムな術中ナビゲーションが可能になっている。
肝臓外科領域においては, 3D-CTシミュレーションソフトの使用がすでに一般化しており,画像支援ナビゲーションとして先進医療として承認されている。このシステムは肝実質と脈管を3D構築し,門脈域と肝静脈還流域を総合した機能的肝容積を計算することが可能であり,肝がん患者のみならず肝移植ドナーにおける手術の安全性や精度の向上に寄与している。一方,2D超音波画像は主に術中ナビゲーションに利用されてきたが,最近では3D画像も構築可能となり,肝切離時の血管解剖の把握に応用が期待される。
胆道外科領域では,がんの水平・垂直方向の胆管進展が術式決定に重要である。最近は胆道造影下CTやMRCPの胆管像と門脈や肝動脈画像を融合した3D構築により,腫瘍の局在および脈管との関係が詳しく評価可能になっている。また,造影剤の代わりに二酸化炭素を注入する仮想胆道造影も試みられている。
最後に我々が取り組んでいる最先端手術ナビゲーションとして,3D臓器モデルを紹介する。これは画像デジタル情報をもとに3Dプリンターにて臓器を多色・多素材で立体造形する新技術である。術前,術中のシミュレーション&ナビゲーションに手軽に利用でき,教育用素材として大いに期待できる。
以上,消化器外科領域における手術ナビゲーションは,まだまだ発展途上であるが,今後,画像解析や位置情報などの技術革新によって精度や利便性が向上すれば有用性はますます高まると考える。
教育講演4 14:00-14:50
上部消化管
演者 東京大附属病院・光学医療診療部
藤城 光弘 先生
司会 済生会川口総合病院
原澤 茂 先生
抄録
上部消化管における内視鏡診断は,通常白色光観察に引き続き,食道におけるルゴール染色法,胃におけるインジゴカルミンコントラスト法を中心に色素内視鏡を行い,それで分からないものは生検して診断するしかない,という時代が長らく続いた。しかし,近年における,拡大内視鏡観察法の上部消化管分野への応用と新たな画像強調観察法の出現により,極めて精度の高い術前診断が可能となっている。
特にその有用性が証明されているのが,光デジタル法に分類される狭帯域光法(Narrow
Band Imaging:NBI)である。NBIは,専用の光学フィルタを利用して,ヘモグロビンの吸収特性を持つ415nmと540nmの狭帯域光を照射することで,ヘモグロビンを含む血管では低信号となり,血管を強調することができる。咽頭・食道領域では,茶褐色領域(Brownish
area) の拾い上げとその内部に上皮乳頭内ループ状毛細血管(Intraepithelial
Papillary Capillary Loop:IPCL)の異型・増生を観察することで,腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍の深達度診断が高い精度で可能となっている。広い管腔臓器である胃においては,
NBIの光量不足により病変の拾い上げには限界があるものの,拡大内視鏡観察と併用することで,白色光や色素法により拾い上げられた病変の,腫瘍・非腫瘍の鑑別,腫瘍における範囲診断,組織型予測などが可能である。その際,粘膜微小血管もしくは粘膜表面微細構造の不整とその領域性を示す境界線の有無が,非常に重要な所見である。
デジタル・コントラスト法である, Flexible Spectral Imaging Color Enhancement
(FICE), i-scanのTone Enhancement (TE) は, NBIと対比して議論されることが多いがNBIとは全く異なる技術である。これらは,白色光で得られた画像情報をコンビューター処理により疑似カラー表示することで病変の拾い上げや質的診断を高める技術であり,前者はWeiner推定により得られる個々の波長における分光画像のうち,3波長画像を抜き出してモニター上のRGBに出力するものであり,後者はRGBに分解した3成分のトーンカーブを変更した後に再構成するものである。FICEについては,食道癌の拾い上げ,質的診断の有用性を示す報告,胃がんの範囲診断における有用性を示す報告がみられるが,i-scanに関しては,拡大内視鏡が未発売の段階であり,一部の施設でプロトタイプを用いた検討がなされているのみである。未だ,デジタル・コントラスト法はNBIに比べ十分なデータの蓄積が見られていないが,
NBIより明るい画像が得られることから,胃腫瘍の拾い上げ診断に有用である可能性が高く,今後の研究成果が期待される。さらにプロトタイプを用いた研究段階ではあるが,一部の施設では,細胞レベルの観察が可能な超拡大内視鏡も食道を中心に検討されており,日常診療で生検診断の代替として内視鏡的組織診断を行う時代がそう遠くない未来に到来するであろう。
教育講演5 14:50-15:40
小腸
演者 日本医大・消化器内科
坂本 長逸 先生
司会 東京医歯大・消化器内科
渡辺 守 先生
抄録
代表的小腸疾患はクローン病であり,今日の分子標的薬の進歩によりクローン病の治療は大きく変化を遂げつつある。さらに,小腸の診断学と治療法に画期的変化をもたらし,クローン病の診断と治療にも影響を与えつつある領域が小腸の内視鏡を用いた診断と治療の進歩である。2007年から本邦の保険診療で利用可能となったカプセル内視鏡(CE)と本邦で開発されたダブルバルーン内視鏡(DBE)により,小腸疾患の診断と治療は飛躍的に進歩した。これら機器の登場により,診断や治療が困難であった原因不明消化管出血(obscure
gastrointestinal bleeding,OGIB)の診療が大きく進歩し,小腸腫瘍に対する内視鏡手術や,クローン病による小腸狭窄の内視鏡治療も行われる時代となった。今回の教育講演ではおもに後者の内視鏡を用いた小腸疾患診断と治療の進歩について紹介する。
OGIBは明らかに消化管出血があり貧血を認めるにもかかわらず上部消化管,下部消化管内視鏡検査によっても診断できない一連の消化管出血であり,全消化管出血の約5%に相当する。今日ではCE,DBE検査により様々な小腸疾患がOGIBの原因となることが明らかにされた。本邦の報告ではOGIB原因疾患として小腸潰瘍病変が最も多く,ついでangioectasiaなどの血管病変,さらに,悪性リンパ腫や消化管間葉性腫瘍(gastrointestinal
stromal tumor,GIST)が多い。OGIBを呈する患者を速やかにCEもしくはDBEで原因検索できた場合,診断率は90%を超えると報告されているが,出血後時間が経過したOGIBの診断率は50%前後とされている。潰瘍病変ではクローン病と非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)起因性小腸潰瘍が多く,
NSAID起因性小腸潰瘍は診断が特定できたOGIBの約10%前後とされている。その他の小腸潰瘍として単純潰瘍,腸結核,腸管ベーチェットがあるが,病理学的に非特異的炎症像を認めても診断を特定することができない小腸潰瘍も多数見いだされており,さらなる診断学の確立が望まれる。健常成人55名のNSAID2週間服用後のCEによる私たちの検討では,NSAID服用者は械毛欠損,びらん,潰瘍など少なくとも一つ以上の病変を有する割合が約60%前後にも上り,小腸潰療が約15%に発症する。NSAIDによって形成された械毛欠損は主に空腸に存在し,小腸びらんは全小腸で観察されるが,小腸潰瘍は回腸のみに観察された。
血管病変はangioectasiaなど,微小病変が多く出血で発症しCEやDBEで見いだされるが,出血後時間が経過すると内視鏡検査で発見が困難となる場合がある。欧米ではOGIBの原因疾患として小腸潰瘍よりも多いとする報告が多い。小腸腫瘍については,本邦のDBEを用いた多施設データによると,悪性リンパ腫が最も多く,ついでGIST,小腸がんが多い。欧米ではカルチノイドが多いとされているが,本邦では比較的少ない。
小腸内視鏡診断学はCE,DBEによって進歩したが,治療はDBEが必須である。また,腫瘍診断学もDBEによる組織生検が必須である。OGIBで発症し,血管病変,潰瘍病変,腫瘍と診断されたどんな病変であれ,出血している病変の止血はDBEによってなされる。今日ではDBE以外にシングルバルーン内視鏡も開発されておりこれらバルーン内視鏡なしに深部小腸の止血は困難である。
このように,本教育講演では小腸内視鏡診断と治療の到達点を概説する予定である。
教育講演6 15:40-16:30
大腸
演者 広島大・内視鏡診療科
田中 信治 先生
司会 東北大大学院・生体調節外科学
佐々木 巖 先生
抄録
ファイバースコープ,通常電子内視鏡の時代を経て,大腸に拡大内視鏡観察が臨床導入されたのは,工藤らによるpit pattern診断学の確立や生体内での実際の診断に耐えうる拡大電子内視鏡の開発が大きな原動力であるが,今やこの拡大内視鏡は本邦のみならず世界的に広く普及しつつある。そして,EndosoctoscopyやEndomicroscopy(confocal)などの顕微内視鏡観察も生体内での臨床研究段階に入っている。本稿では,拡大内視鏡観察を中心に内視鏡画像診断学の進歩と今後の展望について述べるが,特に,最近脚光を浴びてきた画像強調内視鏡観察(IEE: Image-Enhanced Endoscopy) について, NBI (Narrow band imaging) を中心に解説する。
(1)大腸腫瘍のスクリーニング
NBIの大腸腫瘍のスクリーニングでの有用性については世界的に多くの相反する報告が存在しcontroversialな状況にあった。昨年末,本邦での多施設共同RCTの結果が公開されたが,白色光とNBI観察にスクリーニング上差はないという結論であった。
(2) 腫瘍・非腫瘍の鑑別
正常粘膜や過形成病変では表層部の微小血管は非常に細く疎なため,現在の波長設定のNBI観察では微小血管を認識することは通常困難であるが,腫瘍性病変では血管径が太くなり密度も増すので,その表層部に茶褐色に強調された微小血管を認識出来るようになる。このことに関しては,世界的なコンセンサスが得られている。
(3) 上皮性腫瘍性病変の質的診断
腺腫性病変のNBI拡大観察では,pit間の介在粘膜は表層部の微小血管が茶褐色に強調され網目状の血管模様(capillary
network)が認識されるが,血管のないpit様部分は白く抜けて観察される。これにNBIの構造強調観察能が加わることより,間接的なpit様構造の診断も可能となる。がんでは,がん細胞の浸潤増殖,炎症細胞浸潤や間質反応に伴う血管径の不均一性や血管走行の不整,分布の乱れ,前述のpit様構造や窩間粘膜の破壊などが出現してくる。この病態を理解すると,NBI観察を用いた微小血管の視認性の有無や,血管の太さ/分布の不均一性,
pit構造の有無や不整度を解析することで大腸病変における腫瘍/非腫瘍,腺腫/がんの鑑別が可能になる。
(4) NBI拡大観察によるSurface pattern評価の有用性
腺管構造を持たない咽喉頭・食道の扁平上皮領域では, Vascular patternのみの評価による診断学がすでに確立しているが,
Barrett食道・胃などの円柱上皮領域では,拡大観察によるVascular patternの評価に加えてSurface
patternの評価を加味することが重要であるが,大腸でも同様である。本邦ではこれまで,大腸表面微細模様に対して「pit様構造」,「white
zone」,「表面微細構造(MS pattern)」などさまざまな呼称があったが,昨年,「Surface
pattern」という呼称で統一された。このSurface patternは,真のpitと腺窩辺縁上皮を併せた構造で,大腸NBI拡大観察において非常に重要な所見である。
今後は,Surface patternを考慮したNBI拡大観察と色素を用いた従来のpit pattern診断の使い分けが重要な課題であり,本講演では,特にその点を中心にお話ししたい。
と、「消化器画像診断の進歩」と謳っているように、参加により得られた知識は、明日からの当院の診療に、すぐにでも反映できる貴重なup
to dateの知識です。まだ、各学会誌に発表される前段階の、成書となるのは1・2年後にもなるという新発表が、この場で聴けました。
「JDDW 2011教育講演 参加証」、
「(財)日本消化器病学会専門医更新単位登録票 JDDW教育講演[8単位]」。
12:30〜13:40のランチョンセミナーでは、福岡サンバレスパレスルーム(第3会場)で、オリンパスメディカルシステムズ株式会社スポンサードの「内視鏡の歴史を振り返って」という渋めの演題を聴講しました。司会は福岡大・名誉教授の八尾恒良先生、演者は日本消化器内視鏡学会名誉理事長・最高顧問の丹羽寛文先生で、「何事もプライオリティーを大切にすべし」とのことを強調される講演でした。パワーポイントで豊富な歴史的実例を供覧されて、いくたの有名な発見・発明の前には真のプライオリティー者が存在することが、歴史を厳密に振り返ると確認されることが多いとのことで、科学界においてさえ無視されていることが多いとの批判をされていました。ぶっちゃけ、オリンパスのNBI拡大内視鏡の技術開発で、オリンパスの技術者は国の賞を受けたそうですが、開発に携わり、開発に一番貢献した医学者の方は賞を受けていないことには、何度も国に対するお叱りの言葉を繰り返されました。NHKのプロジェクトXも、史実をネジまげた脚本意図・演出が殆どで、胃カメラの開発ドキュメンタリーでは事実誤認が甚だしく、NHKに消化器内視鏡学会として訂正の抗議を何度も申し入れたが、そのたび一蹴されたそうです。いろいろと各界の賢明な方から問題を指摘されていたプロジェクトXは、うやむやに放送企画が中止となりました。しかし、NHKアーカイブスには、当時の放映物が残っており、良心的な削除は行われていないようです。
オリンパスメディカルシステムズ株式会社提供の「ランチョンセミナー弁当のお品書き」
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(2010/10/15金曜分)
診察受付は、通常金曜日の午前の12時30分までにして、午後は休診。11月からのAPECに備えた警備厳重な横浜市みなとみらいで開かれている【JDDW 2010-YOKOHAMA】(第18回 日本消化器関連学会週間)に向けて、白石蔵王駅から14時59分の東北新幹線MAXやまびこ2階で出発した。横浜の会場(国立大ホール)隣のホテル「ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル」の部屋には18時02分に到着。
(2010/10/16土曜分)
ホテルに隣接しているパシフィコ横浜国立大ホールで開催されているJDDWにて、朝9時から夕方5時まで、お勉強。今回は、JDDW2010学会(第52回日本消化器病学会大会:会長=林紀夫先生・第80回日本消化器内視鏡学会総会:会長=一瀬雅夫先生・第48回日本消化器がん検診学会大会:会長=樋渡信夫先生・第41回日本消化吸収学会総会:会長=宮坂京子先生)参加と、教育講演受講が目的だ。
8時30分に参加費15000円で受付にて参加登録。コングレスバックとネームカードもらって、所属・氏名を記入。別の受付で、ネームカード下部についている引換券と「第52回大会 日本消化器病学会専門医更新単位登録票(23単位)」と引き換え。登録票に必要事項を記入後、また別の受付(登録票回収所)で登録を完了する。教育講演では、それぞれ午前・午後の部の受講終了後に配布される「教育講演参加証」(午前:No.1563・午後:No.2957)を登録票引換所で「JDDW教育講演 日本消化器病学会専門医更新単位登録票(8単位)」と引き換え、登録票に必要事項を記入後、また朝とは別の受付(登録票回収所)で登録を完了する。なかなか複雑な手順ではあるが、消化器病学会が登録票で各個人の取得単位データを管理してくれるので、専門医更新時に合計取得単位数を申告する必要がなくなる優れ物の良いシステムなのだ。このシステムは内科学会でも採用している。
教育講演(JDDW)『消化器がんの治療戦略−海外との比較も含めて−』<第28回日本医学会総会共催>9:00〜16:30
各教育講演の下の小文字は、各教育講演の抄録です。
教育講演1=食道がん(司会:原澤茂先生・講師:虎の門病院・消化器外科 宇田川晴司先生=昭和54年東京大学卒)
欧米と日本の食道がん治療戦略には、かつてほどではないが依然大きな違いがある。
米国National Comprehensive Cancer Network (NCCN)の2009年版食道がん診療ガイドラインをみる と、以下のような点に気づく。
Tis,T 1 aにEMRが取り入れられている。この分野での日本の実績は注目されているが、対象となる腫瘍は欧米では非常に少ない。
T 1 b〜locoregionalな段階の腫瘍にはすべての選択肢が用意されており、一見日本食道学会のガイドライ ンと大差はないが、読み込んでゆくと日本との違いが際立ってくる。日本では、現在JCOG9907の結果を受けてStageI,II,non-T4には術前化療(NAC)が標準治療とされている。術前化学放射線療法(NACRT)は一般的でない。根治的化学放射線療法(DCRT)は数年前までかなり大きな期待を集めてきたが、成績の集積とともに手術の困難な患者、手術を望まない患者に対する最も妥当なalternativeという位置に落ち着いた。NCCNのガイドラインでは術前化療は食道胃接合部腺がんで控えめに勧められているに過ぎず、最も推奨され ているのはNACRTまたはDCRTであり、照射量はともに50.4Gyである。また、術後のCRTも広く推奨さ れている。
この様な違いの背景に、欧米と日本の手術に対する基本的なconceptの違いが存在する。NCCRのガイドラ インでは、非開胸経裂孔的食道切除術が依然選択肢のーつとされている。手術おけるリンパ節郭清の必要性は述べられているが、「15個以上の郭清」が要求され、その目的は「正確なstaging」である。これらの記述は日本の外科医に強い違和感を与える。欧米でlocoregionalというとき、その示す範囲は日本のそれより明らかに狭い範囲であり、それを超えての郭清の意義を認めていない。この事実と、欧米より日本で全身化学療法の手術療法に対する上乗せ効果が認められたこと、欧米の報告で扁平上皮がんよりも腺がんでNACRTの効果が明瞭であったことなどを対比させると、「全身化学療法が効果を現わすためには、locoregionalなコントロールが 充分に行われることが前提条件として必要であり日本的な手術がそれをある程度実現していると言えるのではないか」「郭清不十分な領域のコントロールをCRTで行おうと考えるとき、占居部位がより低めで上縦隔転移の確率の低い腺がんの方がそれが容易なのではないか」といった推論が生まれてくる。そして何よりも注目すべきは、欧米からの報告のどの成績よりも、手術療法を中心に据えた日本の治療成績の方が明らかに良好であ るという事実である。
日本と欧米の食道がんには、かたや肩平上皮がんがほとんど、かたや腺がんが半分以上と言った違いがある。腺がんの中にきわめて早い血行転移を示すものがあり、化療や照射の効果からみても腺がんの方がコントロールの難しいがん腫かもじれない。また、日本の医師による詳細な術前stagingは、stage migrationの原因となっているかもしれない。「体型的に、欧米の患者に日本的な手術は安全に施行できない」といった主張にも一理はある。一方、CRTに対して日本の外科医が抱いている合併症増加の懸念は、照射方法の改良等によって大きく変更すべきものなのかもしれない。この様な様々な要因を考慮しつつも、日本の食道がん治療医はわれわれの持つ良好な治療成績に誇りを持つべきであるし、その要因を解析し、欧米に受け入れ可能な形で発信する義務がある。
教育講演2=胃がん(司会:渡辺守先生・講師:がん研有明病院・消化器センター 佐野武先生=昭和55年東京大学卒)
日本と韓国の胃がん治療成績を欧米と比較すると、同じ病気を比べているとは思えないほどの大きな差がある。われわれにとって胃がんは早期に発見できて治癒可能なあく性腫療であるが、欧米では予後不良の難治がんと認識されている。全症例の生存率に大きな差があるのは、日韓に早期胃がんが多いことが最大の要因ではあるが、
進行がんのステージごとに比較しても差は縮まらない。考えられる理由として、(a)腫瘍の生物学的あく性度の差、
(b) stage migration、(c)手術技術の差、などがあげられる。(a)に関してはこれを証明した比較研究はないが、今日の欧米の胃がんの多くが上部胃がんであり、日韓の胃がんが相変わらず中・下部に多いことを考えると、基本的な発がんメカニズムとあく性度に差がある可能性はある。(b)は、われわれの広範囲郭清と緻密な病理検索による正確なstagingにより、明らかに生じうる現象である。(c)は、腫瘍の局所制御という点で胃がんでは重要であ
り、欧米の胃がんの多くで転移リンパ節を取り残し、これが局所・全身再発の原因となっているのは確かである。
胃がん治療の東西差は、c-Stage U/Vの腫瘍で最も顕著にみられる。日本では、まずD2郭清を伴う胃切除術を行い、病理学的検索を待ってからS-1の補助化学療法を行う。p-Stage Tと判明すればS-1も省略でき る。すなわち、日本の胃がんの半数が早期がんであることも加味すると、われわれが治療する胃がんの大半は手術のみ、あるいは手術+S-1で治療が完了することになる。一方、欧米では多くの胃がんが進行した状態で発見されるので治療の主体は化学療法であり、手術に対する期待は大きくない。c-Stage U/Vで切除可能と診断された場合はあらゆる集学的治療が試みられるが、最近は術前治療へのシフトが顕著である。胃切除後は体力の低下が著明で化学療法のコンプライアンスが低下するため、できるだけ術前に強力な治療を行うという方針である。進行胃がんに対するセカンドライン化学療法にはエビデンスがないため、ともかく一発勝負とばかりに強力な多剤併用療法、さらに術前化学放射線療法などが試みられている。
早期胃がんの治療開発は日本の独壇場である。EMR、ESD、機能温存手術、腹腔鏡下手術などを生み出し、多くの患者がその恩恵を受けている。欧米でもEMR/ESDに対する関心は非常に高いが、われわれが対象とする厳密な意味での適応病変は少なく、せっかく発見された稀な早期胃がんが不適切な治療を受けてしまうのではないかと心配になる。逆に、日本ではESDで確実に治癒する粘膜病変が、「切除可能な稀な病変」として手術さ
れてしまうこともある。
切除不能・進行再発胃がんでは当然化学療法が行われるが、日本と欧米ではレジメンに差がある。日本はS-1+ CDDPを代表とする2剤併用療法が用いられ、不応となったときには、セカンドライン、サードラインと試される。多くは外科医が化学療法を行う。これに対し、欧米では腫蕩内科医によるECF、DCFなどの3剤併用が中心で、欧州ではセカンドラインが行われない国も多い。S-lは欧米では認可されておらず、5-FU またはcapecitabineが用いられる。
以上のように、対象とする胃がんも、用いられる手段も、その方向性も、わが国と欧米とでは大きな差がある。その差は縮まるどころか、ますます広がる気配すらある。唯一、わが国が欧米から学ぶべきものは、食道胃接合部がんと下部食道腺がんの治療であろう。H.pylori 感染の推移などから、日本の胃がんのパターンは欧米のそれを数十年遅れで追いかけている可能性があり、今後増加するであろうこれらの疾患に対する対処法をしっかり見ておきたい。
教育講演3=緩和医療(司会:上西紀夫先生・講師:筑波大大学院・消化器内科学 兵頭一之介先生=昭和56年岡山大学卒)
緩和医療はホスピスを中心としたがん末期ケアから発展し、現在ではがんに伴うあらゆる症状の緩和を目的とした医療を指すよう!こなった。すなわち広義には症状緩和のための手術、放射線治療、化学療法や疼痛・精神的苦痛の緩和を含めた薬物療法を緩和医療と呼ぶことができる。本教育講演では消化器がん患者に対する症状緩和を中心に概説する。
症状マネージメントは1)症状聴取、2)原因の把握、3)治療の説明と目標設定、4)治療と結果の評価を繰り返すことにある。消化器がん患者の頻度の高い苦痛にはがん性疼痛や消化管閉塞による吐気、嘔吐、腹部膨満感がある。疼痛治療の原則は経口投 与(by the mouth)、定時投与(by the clock)、段階的投与(by the ladder)、個人特性(for the individual)、細かい配慮(with attention to detail)である。治療薬はNSAID、オピオイド、鎮痛補助薬(抗けいれん薬、抗うつ薬、ステロイドなど)であるが、特に消化管閉塞を有することの多い消化器がんでは投与経路(持続皮下注や経皮 パッチ剤など)の工夫や吐気と便秘の十分な予防が大切である。消化管閉塞に伴う 症状の緩和には輸液量の減量方向への調節、抗コリン剤、ステロイド、オクトレオチドなどを使用する。死に至る経過における輸液の有効性については明確な証拠がな い。多数例の観察研究から1000ml/day以上と500ml/day以下では脱水と体液貯留(浮腫や胸腹水)傾向がトレードオフの関係にあることが示されている。食事摂取不能の患者に補液を施行する場合には500〜 1OOOml/dayが適切と考えられるが、状 態によって適宜増減する。
精神的苦痛に対する対応は精神腫瘍医のコンサルテーションが望ましいが、多くの医療施設では専門医不足のため消化器専門医が対応せざるを得ない場合が多い。初期の不安や抑うつなどの適応障害には早めに半減期の短い抗不安薬から開始し、 本格的なうつには三環系抗うつ薬や選択的セ口卜ニン再取り込み阻害薬を使用する。せん妄には推定される様々な原因の除去が重要である。
適切な予後の推定は医師と患者・家族にとって治療法と治療場所の選択に有用でありDNAR (do not attempt to resuscitate)を得るタイミングや鎮静の可能性を考慮する際にも役立つと思われる。しかし、PPI、 PaP score、JPOS-PIなどの予後予測ツールが開発され利用できるものの、正確な予測はかなり困難である。
WHOで採択されている緩和ケアの理念は1)生を尊重し、万人に訪れる「しの過程」に敬意を払う、2)しを早めることも、遅らせることも意図しない、3)いたみの管理と、同時にそれ以外の症状管理も行う、4)精神的ケアやスピリチャルケアを行う、5)しが訪れるまで患者の積極的な生を支援する、6)闘病期もし別後も家族のくのう軽減を支援することである。このような高い理念のもとに緩和医療を提供することは、なかなか容易なことではないが、消化器専門医といえども進行がん患者を診療する限りは、理想に近づけるよう努力を怠らない姿勢が必要であろう。
教育講演4=大腸がん(司会:山口明夫先生・講師:北里大・外科 渡邊昌彦先生=昭和54年慶応大学卒)
近年、大腸がんの治療戦略は内視鏡、化学療法、手術法の進歩にともない様々に変化してきた。本講演では、進行大腸がんを中心に最新の治療戦略と将来を展望する。
大腸がんの補助化学療法と進行・再発に対する化学療法は、ともに5-FUを軸に進歩を遂げてきた。1990年代には5-FU持続投与とleucovorin(LV)の組み合わせが一般化され、それにirinotecanとoxaliplatinも参入してFOLFIRIとFOLOFOXが進行・再発がん治療の標準治療となった。2000年以降には抗VEGF抗体や抗EGFR抗体などの分子標的薬が導入され,さらに抗腫蕩効果の増強が図られた。一方、Stage V結腸がんの補助化学療法には経口抗癌剤のUFT/LVやcapectabinの有効性が証明され、さらにFOLOFOXの有用性も証明されて現在ではこの3者が標準治療として認められている。
肝転移に対する治療戦略も変わりつつある。切除が最も有効な治療法であることには変わりないが、切除後の補助化学療法の意義は未だに不明である。一方で切除可能な肝転移に対する術前化学療法の有効性が注目されるよう!こなった。さらに術前化学療法は肝切除率の向上をもたらし、肝転移治療における化学療法の意義が期待され ている。
直腸がん治療では直腸間膜を完全に切除するtotal mesorectal excsion(TME)が 標準術式である。加えて欧米は術前化学放射線療法が標準治療であるのに対し、我 が国は側方郭清が標準である。しかし両者はともに局所再発の制御に寄与するが、生存率の有意な向上には繋がらないと考えられている。したがって直腸がんの予後を向上させるために、放射線照射法、薬剤選択、郭清範囲など様々な角度からさらに有効な治療法が模索されている。
1990年代に腹腔鏡下手術は大揚がんにも応用されるよう!こなった。結揚がんに対する腹腔鏡下手術の低侵襲性と根治性は海外の臨床試験で証明された。本邦でも結腸がんに対して腹腔鏡下手術と開腹手術とを比較する大規模な臨床試験が終了し解析中である。一方,横行結腸がんや他臓器浸潤がん、直腸がん、Stage Wに対する腹腔鏡下手術の安全性や有効性はまだ証明されていない。
低位前方切除の普及は肛門機能の温存率向上をもたらしたが、近年はさらに温存率を高めることを目的として内括約筋を切除するintersphincteric resection (ISR)が導入された。本法の適応については議論はあるが、retrospectiveには良好と考えられている。しかし、適応拡大や根治性の向上を目指して術前化学放射線療法を加えた際の、排便機能の保持に関しては今後の検討課題である。
大腸がん治療において化学療法や放射線治療の進歩は、様々な治療戦略を可能にすると同時に新たな副作用や後遺障害を生み出した。それを受けて今後は治療感受性因子を明らかにし、治療の個別化を図らなければならない。また、手術は低侵襲性と機能温存へとますます向うが、それらの適応、手技の標準化、教育など乗り越えるべき課題も多い。
教育講演5=肝がん(司会:名越澄子先生・講師:近畿大・消化器内科 工藤正俊先生=昭和53年京都大学卒)
肝細胞がん診療の最新の話題としては、3つのトピックスがあげられる。
まず、診断面では超音波造影剤ソナゾイドが2007年1月に承認され、肝腫瘍の鑑別のみならず肝細胞がんのスクリーニング、ステージング、治療支援、治療効果判定、治療後のfollow-upなどにおいて極めて有用になってきたことである。これについてはソナゾイドのリアルタイム性向上による血流動態診断ならびにKupffer phaseが安定していることによりKupffer phase imaging が容易に得られるようになったことが大きい。また、安定したKuppfer phaseを利用して:re-injectionを行うDefect re-perfusion imagingにより、Bモー ドで検出不能の肝細胞がん結節の検出や治療支援が劇的に向上した。
二番目のトピックスとしては2008年1月に承認されたGd-EOB-MRIの登場である。Gd-EOB-MRIにより早期肝細胞がんと前がん病変の鑑別が極めて精度よく可能となった。
さらに最新の治療の話題としては、2009年5月20日に分子標的薬ソラフェニプが承認となったことである。ソラフェニプは腫療の増殖シグナル伝達系のRAF-MEK-ERK kinase のRFA kinase と血管新生をする VEGFレセプター、PDGFレセプターのチロシンキナーゼの両方を阻害するマルチキナーゼインヒビターである。SHARP study と Asia-Pacfic study という二つのグローパルスタディにより進行肝がんに対しての明らかな survival benefit が示され、日本でも phaseT試験とこの二つのグローパル試験により、切除不能の進行肝細胞がんに対して承認された。現在、他の分子標的薬も first line、second line および根治的治療後のアジュパント、TACEの併用などで治験が進行中であり、また医師指導型臨床試験としても動注との併用およびTACEとの併用試験が進行中である。これらの結果が positive にでれば肝細胞がん患者の予後は数年単位で著名に延長されるものと考えられ、大いに期待される。
教育講演6=胆道がん・膵がん(司会:滝川一先生・講師:名古屋大学・腫瘍外科学 梛野正人先生=昭和54年名古屋大学卒が代理講演←北海道大大学院・腫瘍外科学 近藤哲先生)
胆道がん・膵がんともに根治切除のみが治癒を期待できる唯一の治療法なので、遠隔転移がなければ、まず根治切除の可能性を追求すべきである。肝門部胆管がんに対する手術術式は、約30年前繋明期の胆管ボーリング手術、約20年前の肝区域切除・尾状葉切除の導入、約10年前の肝葉切除による標準化、さらに最近ではがん手術の原点 に戻った血管合併切除を含めた en bloc 手術と進化を遂げてきている。それに伴い手術成績も向上してきており、胆管がん全体の5年生存率は胆道がん全国登録調査2002年報告では26%であったのが、2009年報告では33%に まで改善されている。国際的にみても日本の専門施設では手術死亡率が5%未満であるのに対し、残念ながら欧米からの報告では5-10%以上の死亡率が依然として続いている。術後死亡の多くは肝不全が原因であり、減黄・胆管炎予防目的の胆道ドレナージ、切除予定領域の門脈塞栓術など術前の肝不全を予防するための処置が重要である。しかし、欧米ではあまり積極的には用いられておらず、その有用性をエビデンスとして日本から発信することがのぞまれる。
最近のトピックとして「胆管断端の上皮内がん遺残の予後に与える影響」がある。乳頭膨張型などの限局型の胆管がんでは、2〜3割の症例で主病巣から連続して広範囲に上皮内がんが進展している(表層拡大進展)。術前術中には認識しづらいこともあり、切除断端に遺残することがまれでない。しかし、これが予後に与える影響はほとんどないとする報告が最近相次いでいる。胆管断端に遺残した上皮内がんが
slow growing なことと、表層拡大進展を伴いやすい限局型胆管がんは分化度が高く浸潤能も低いため、一般的な浸潤型の胆管がんよりも予後良好なことがその背景にある。遺残した上皮内がんは
slow growing で術後5年までの生存率に及ぼす影響は小さい。しかしながら、5年以上の晩期に吻合部再発をきたす症例がまれではなく、10年以上の長期生存を期待する場合には胆道鏡検査・生検で範囲を正確に診断し、断端陰性化を図るべきと考えられる。
進行胆嚢がんに対しても、欧米では肝楔状切除+胆管切除・リンパ節郭清までの手術で切除できるUlCCT 2 程度のがんが切除対象となっているが、日本ではT 3,T 4 腫瘍に対しても肝葉切除、膵頭十二指腸切除、血管合併切除などの拡大根治手術を積極的に行い長期生存例も得られているが、胆管がんに比べると手術死亡率、長期成績ともに劣る傾向にある。
膵頭部がんでは、欧米のみならず日本でも行われたRCTで、拡大リンパ節・神経叢切除は標準手術に比べて術後生存率を改善することはなく、QOLを悪化させることが明らかとなった。標準手術を行い速やかに術後補助化学療法に移行することがのぞましいと考えられる。ただしこれは標準手術でも治癒切除可能ながんを対象とした予防的拡大切除であり、神経叢に浸潤が明らかながんに対する手術とは別に考える必要がある。膵体部がんに対しては腹腔動脈合併切除により神経叢の en bloc 切除が可能であり、50例を越える自験例では MST 25ヵ月の成績が得られており、高い局所コントロール能を示している。
切除不能例に対しては化学療法が主体となるが、最近では gemocitabine 、TS-1の登場により実質的な効果がのぞめるようになった。それに伴い、長期間(6ヶ月以上)PRを維持している症例に対する切除適応とそのタイミングが最近のトピックとなっている。腫瘍残存部位の同定は困難であり当初の浸潤部位は原則切除となるため、高難度・高侵襲な手術となり外科チームの高い能力が求められる。
まとめると、「がんの治療戦略−海外との比較も含めて−」では世界先進水準に負けてはいるが、「消化器がん」に限っては、世界最高水準であるとのこと。日本の消化器科専門医のレベル凄い高い!!!。
塚本内科消化器科の、新しい消化器内科の説明 ページです