T.目的
ゼフィックスはB型慢性肝炎治療剤として高いウイルスマーカー改善効果を示す反面、投与中止後の肝機能悪化やYMDD変異ウイルスの発現などの課題を有するため、その使用法には注意を要する。
本手引きはゼフィックス投与に際してその有用性十分に引き出すために、これからの課題に対する対応策を中心にまとめた使用指針である。
解説:ゼフィックスはB型慢性肝炎治療剤として高いウイルスマーカー改善効果を示す他に、肝組織像の改善効果も認められている。ALT(GPT)が正常値の2倍以上を示す症例を対象にした4年間の継続投与試験では73%の症例においてHbe抗原から抗体へのセロコンバージョンが認められている。
一方でYMDD変異ウイルスの発現や投与終了(または中止)後の肝機能悪化が問題視されている。よってい、ゼフィックスの投与に際しては、いかにこれらの問題を防ぎつつ、本剤の有用性を引き出すかが重要となる。
本手引きはゼフィックスの投与対象となる患者、投与期間、YMDD変異ウイルス、投与時の注意事項などについて解説し、これらの問題点への対応を定めることを目的にしている。
U.ゼフィックスの概要
ゼフィックスはヌクレオシドアナログの逆転写阻害剤である。本剤の成分は天然の核酸にはない立体配置であるために、哺乳類のDAN複製に影響が少ない(in
vitro)。
V.投与対象患者
B型肝炎ウイルス(HBV)の増殖を伴う肝機能異常が確認されたB型慢性肝炎患が対象となるが、これまでに得られた試験成績ならびに臨床上の必要性を考慮すると、初期DAN値やALT値の高低による対象の限定はできない。
現時点ではHbe抗原の有無にかかわらず、HBVの増殖を伴う肝機能異常が確認された全てのB型慢性肝炎患者が対象になる。(無症候性キャリアは除く)
ゼフィックスの効能・効果: B型肝炎ウイルスの増殖を伴う肝機能の異常が確認されたB型慢性肝炎によるウイルスマーカー、肝機能および肝組織像の改善効能・効果に関連する使用上の注意 (1) 本剤投与開始に先立ち、HBV−DAN、DANポリメラーゼあるいはHBe抗原により、ウイルスの増殖を確認すること。 (2)無症候性キャリアおよび他の治療法などにより肝機能検査値が正常範囲内に保たれている患者は本剤の対象患者とはならないので注意すること。 (3)肝硬変と診断された患者に対する使用経験は少なく、有効性および安全性は確立してない。特に、非代償性肝硬変患者のような肝予備能が低下している患者での使用経験はさらに少ない。 |
W.投与時の注意事項
1)
投与中の注意事項
HBVの増殖を伴う肝機能異常が確認されたB型慢性肝炎患者を対象とするが、その投与に当たっては以下の事項に留意し、患者の状態に則した投与を行う。
(1)
投薬時には服薬を徹底させ、受診時には必ずコンプライアンスを確認する。
患者の判断で勝手に服薬中止することの無いよう留意し、特に肝予備能が不十分あるいは現病歴、家族歴に重症化しやすい背景を有すると判断される症例は注意する。
(2) 検査実施の目安
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1および6ヶ月後に実施 |
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2) 投与終了の目安
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HBe抗体へのセロコンバージョンが持続 (6ヶ月程度、少なくとも2回連続した検査で確認) |
(Pre-core変異株) |
ALTの正常化を伴うHBV−DANの持続陰性化(6ヶ月以上) |
HBV−DANの陰性化はウイルスの消失を意味するものではなく。投与終了の一つの目安として参考となるにすぎない。
以下の症例群は本剤の投与終了が困難となり、長期にわたる治療が必要になる場合がある。なお、これらの患者における投与終了に関しては慎重を要する。(投与終了後は肝機能検査を少なくとも1回/2週以上実施)投与終了後にHBV−DANおよびALTが上昇してきた場合にはゼフィックスの再投与を行う。 (1) 免疫応答の強い症例(黄疸の既往のある患者、重症の急性増悪の既往のある患者等) (2) 非代償性肝疾患の患者(組織学的に進展し、肝予備能が少ない患者を含む) 長期投与にも関わらず前述の投与終了の目安に至らない場合は、現時点においては野生株を抑制する意味でも投与を継続すべきである。 このような症例における適切な投与中時期を示すデータは現在のところ存在しない。 |
ゼフィックス4年間投与におけるセロコンバージョン率
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ALT<正常値の2倍 |
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ALT>正常値の2倍 |
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HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョン率
セロコンバージョンと予後
セロコンバージョン |
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3)
投与終了またはやむを得ず中止した場合の注意事項
投与終了またはやむを得ず中止した場合において、原則として4ヶ月までは定期的(1回/2週程度)にALT検査を必ず実施し、HBV−DAN検査も同様に実施する。
その後、終了6ヶ月までは1回/月ごとに同様の検査を行う
投与終了から4ヶ月後まで | 4ヶ月後から6ヶ月後まで | |
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HBVの再増殖および肝機能の悪化が見られた場合にはゼフィックスを再投与するか、
あるいは適切な治療を行う。
投与終了または中止後に特に注意が必要な患者
1) 投与前の
ALTが 100IU/L以上
HBe抗原が 1000U/ml以上
HBV−DANが 1000pg/ml以上
2) 投与終了(中止)時の
HBe抗原が 陽性 HBe抗体が 陰性
X.YMDD変異ウイルス
ゼフィックスに耐性を示すYMDD変異ウイルスが報告されている。YMDD変異ウイルスは増殖能が弱いものの注意が必要である。YMDD変異ウイルス長期持続感染の予後については、現時点では十分なデータが蓄積されていないが、国内の長期投与試験結果では長期感染に伴い肝機能が悪化する傾向が見られている。
一方、海外ではYMDD変異ウイルス発現後もゼフィックス投与を継続し、2年間に渡りALTを正常範囲に維持しているデータも存在する。
YMDD変異ウイルスが現れた場合、投与中止により、それまで増殖を抑制されていた野生株の急速な増殖による肝炎の悪化を来す恐れがあるため、中止に際しては十分注意すること。
一般的には野生株を抑制するため、本剤による治療を、継続することが有益である。投与終了(または中止)により悪化した場合はゼフィックスの再投与により野生株の増殖を抑制する、またはIFNやSMNC等の処置を行う。
解説:YMDD変異ウイルスはウイルス増殖に必要な酵素であるDANポリメラーゼの活性中心の変異(YMDD→YVDD,YIDD)により、ゼフィックスに対する耐性を獲得する。
またこの部位の変異のため、YMDD変異ウイルスでは野生株に比べてウイルスの増殖能低くなるとの報告がある(in
vitro)。そのため、YMDD変異ウイルスが発現しても肝機能の悪化が認められない症例も多く存在するが、一部の症例では投与中にYMDD変異ウイルスの増殖により肝機能が悪化することがあるので注意が必要である。
YMDD変異ウイルス発現後も野生株は存在するため、投与中止に伴う野生株の再増殖を防ぐためにもゼフィックスの投与を中止すべきではない。YMDD変異ウイルス発現時の併用薬剤については、他の抗ウイルス剤が開発途上にある現在、IFNが最も有力と思われる。
YMDD変異ウイルスの出現率
ゼフィックス投与期間 |
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Y.安全性
1)
副作用
国内における臨床試験においてゼフィックスの安全性を評価できた393例あり、このうち161例(41.0%)、278件の副作用が認められた。頻度の高かった副作用は頭痛45件、眠気32件、頭重感24件、倦怠感20件であった。副作用による投与中止例は8例であった。
一方、臨床検査値異常変動は393例中240例(61.1%)に認められ、頻度の高かった異常変動はALT上昇72件、AST上昇68件、CPK上昇64件であった。
なお、ALTの上昇は投与開始直後および24週以降に見られ、各々、薬剤の効果未発現によるもの、耐性ウイルス増殖に伴う肝炎の悪化に起因するものと思われる。なお、副作用発現時には処置による軽快している。
2)
投与終了(中止)後の肝機能悪化
国内において、ゼフィックス投与終了後の経過を確認できた242例中14例に、投与終了(中止)後の入院を要した肝機能悪化が報告されており、そのうち死亡例が1例報告されている。その他の症例ではIFN投与、ゼフィックス再投与またはSNMC投与により経過している。
ゼフィックス使用の手引きは2000年5月現在の各種データに基づき、上記のガイドライン検討委員会によって作成されたものである。よって、あくまでも現時点までの限られたデータにより作成されていることを念頭におき、ゼフィックス使用の参考とすべきである。(2000年10月)
ゼフィックス使用ガイドライン検討委員会
グラクソ・ウエルカム株式会社
2000年10月発行
この薬剤はB型肝炎ウイルスの増殖を抑えることにより、B型慢性肝炎を改善する薬剤です。1日1回1錠を飲み続けることで、体内のウイルス量は減り、肝炎の程度も改善してきます。しかし、B型肝炎ウイルスは簡単には排除できず、服用を中止すると直ぐにウイルスは再び増殖し始め、肝炎も悪化してきます。
つまり、体の体調が良くなったと思って患者さんの判断で服用を中止すると、症状が急激に悪化する恐れがあります。そのためこの薬剤は必ず医師の指示どおりに服用してください。また、定期的に肝機能の検査をする必要があります。これは、肝炎の改善度を調べ、薬剤の投与終了時期を見定めるうえで欠かすことのできない検査です。
なお、投与終了後も様子を見るために定期的に来院して頂く必要があります。これは肝炎が再発しないかどうか確かめるためと、再発した場合には速やかに適切な処置を行うためです。
この薬剤の投与中の主な副作用は頭痛、倦怠感、感冒様症状などです。
ゼフィックス使用ガイドライン検討委員会
グラクソ・ウエルカム株式会社
2000年10月発行
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